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バンドマンが絶滅する日

こんにちは。
業界に関わりのない人には全くわからないことかと思いますが、ここ10年、(インディーズ)バンドマンはものすごいスピードで減っているように感じます。

僕は現在30代半ば。徳島市という地方都市中の地方都市で、デザイン仕事をしながらいろいろと音楽活動をしています。
こんなバンドです。

僕がバンドをはじめた約15年前は、バンドやバンドマンなんてあっちこっちにいくらでもいました。チャットモンチーが活動を始めたくらいの時期ですね。
しかし近頃は「最近の若い人たちはバンドをやりたがらない」とか「元気がない」的な話を、よく聞くようになってきました。

実際、気がつけば若いバンドマンがシーンに全然いない、という状態になってきています。いなくはないんですが、目につくのは両手で数えられる程度です。
それこそ、大きなイベントをやりたくてもバンドのブッキングができない、ということも起こり始めています。

で、無責任に聞こえるかもしれませんが、僕は「そらまぁ・・減るよなぁ・・・」と思っています。
別にバンドカルチャーに限ったことではなく、特に人口減少時代の日本において、多くの旧来の文化圏においてこれからの時代はコアプレイヤー人口が「減る」のが当たり前であり、僕はそれはむしろ健全なことじゃないかと思います。理由は後で。

しかし例えば、徳島市のclubGRINDHOUSEの長谷川さんは「若者たち」というサーキットイベントを興して、これから先の徳島での音楽シーンを新しくつくっていこうと精力的に動いておられます。決して腐ることなく。

今回は、徳島市のサーキットイベント「若者たち」で僕が感じたことを交えて、減りつつあるらしい「バンドマン」と、それを取り巻く今という時代について考えてみました。

ちなみに今回は「若いバンド(マン)が減っている」ということを起点として考えていますが、本当に若いバンドが減っているのかどうか、参照できる確かな数値やデータがあるわけではありません。
「そういう話をすごくよく聞くようになったなぁ」というところがスタート地点ですので、そもそも実は全然減ってないのかもしれません。あしからず。

さて、参りましょうか。
お察しの通り、長いです。

引き返してください。

「若者」はどこへ消えた?

その界隈にいるプレイヤー(バンドマン)自身や楽器屋さん、スタジオ経営者さん、ライブハウス経営者さんの視点から見れば当然、バンドカルチャーはかつてのように盛り上がって欲しいわけですから

「もっとみんなバンドやってほしいな」
「以前はあんなにいっぱいバンドがいたのに」
「今時の若い人は何をやってるんだろう?」

と思う/心配するのは当然だろうと思いますし、「無理無理!」などと言う気は毛頭ありません。
自分の愛する文化を守っていこうとするのは当然だと思いますし、商売にしている人にとっては死活問題です。ドライな言い方をすればそれは、広い意味で、自分にとって利益があるわけですからそうなってほしいのは当たり前です。

でもそれは例えば、僕のSNSのタイムラインにも時々流れてくる、野球やサッカーの関係者やファンも同じかもしれません。
その「中」にいる古参の人たちは、かつての最盛期の規模を基準に物事を考えてしまいがちに見えます。

余談ですが、東京ヴェルディのファンが、ファンの少なさを嘆いているのを目にした時はいささか衝撃的でした。
ヴェルディなんて、Jリーグ発足当時は押しも押されもせぬ一番人気チームだったのに。

「これくらいの規模の人数が動く」ことがその業界のイメージになっていると、プレイヤーやファンが減っていく流れは非常にきついことだろうと思います。

中には、「過激派」と言ってもいいのかもしれませんが
「若い奴らはなんでバンドやらないんだ!!」と怒り出す人もいます。
「若者死んだんか?」とか「元気ない!!」とか。

待て待て、と。
それって、「若者の〇〇離れ」とか言って、「今時の若い奴にはギラギラした欲がない!俺らの頃は・・・」とか言い出すファッキンなバブルおじさんと同じです。

〇〇世代というレッテル

とはいえ、「若者」に対して「元気がない」とか「何を考えてるのかわからない」という印象を持つのは、ぶっちゃけ太古の昔からある、いわゆる「ジェネレーションギャップあるある」ではなかろうかと思います。
例えば、団塊の世代のすぐ後に若者だった(青春時代を送った)世代は当時「シラケ世代」と呼ばれていたそうです。郷ひろみとか山口百恵もこの世代なんですって。今思うと「はぁ?」です。

「ゆとり世代」だの「さとり世代」だのと、人間は違う世代の人々について理解が及ばなくなると「〇〇世代」というレッテルを貼って自分との距離をはかり、安心しようとします。
自分が時代の流れから置いていかれつつあることを「若者のせい」もしくは「年寄りのせい」にする心理は、なんとも情けないものです。

ただし、一応そんなおじさんおばさんたちを庇っておくと、現代という時代の「変化量」は確かに人類の歴史の中でもかなり大きな部類で、革命的と言って良いくらいのものだとは思います。10年前と今でも全く違った「常識」が通用しています。
上の世代の人の「変化についていけない具合」は、歴史上繰り返されてきたものよりは程度が大きいのかもしれません。

僕ですか?全くついていけていません。
ビリーアイリッシュがギリです。

その「皮算用」はそもそも合ってんのか?

自分たちの街には大体これくらいの数のバンドがあって、バンドマンがいて・・・というイメージは、バンドマンやインディーズ音楽に関わる職業の方であればなんとなくあると思います。
イベントをやればこれくらいの動員が期待できて、CDをプレスすればこれくらい売れて・・・という感じで。

でもそれが、そもそも間違っていたら、もしくは極めて「一時的」なものだったら、その「皮算用」はハナから意味がない。それどころか邪魔なわけです。
バンドに限らず、僕たちが考えている「昔から続いてる普通の状態」なんて、実は全然意味がないかもしれない。

フィルムで写真を撮るか

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今や誰もがスマートフォンを持っていて、高級な一眼レフカメラもほとんどがデジタル化されています。
現在において撮影される写真のほとんどは「データ」として保存され、フィルムを使う人はよっぽどこだわりのある愛好家か、アーティストなどに限られます。紙に印刷する機会も以前に比べると随分減りました。(最近は「写ルンです」がちょっとした再ブームみたいですが)

当然、街の写真屋さん、現像屋さんはものすごい勢いで時代の波に飲まれ、多くが廃業に追いやられてきました。

さて、あなたが家族や親類に写真屋さんや現像屋さんのいない「一般人」だとして、この廃業の波をどう考えるでしょうか?
ほとんどの人は、同情しこそすれ「そりゃしょうがないんじゃないかな」と思わないでしょうか。

スマホはとてつもなく便利です。いつでも気が向いたときに撮影し(気に入らなければ削除し)手のひらに何百枚という写真を納めておくことができます。
デジカメがあれば、写真を撮るときに一枚一枚失敗を恐れることはありませんし上手く撮れたものをパソコンのデスクトップに大きく表示すれば、多くの人はそれで満足します。

こんな便利なものが広く一般に普及してしまえば、写真屋さん現像屋さんの職業が窮地に追いやられることは容易に想像できてしまいますし、誰にもそれを止めることはできません。
写真屋さんが「若者のフィルムばなれ」を嘆いても、iPhoneを開発したappleを批判しても、同情はするけれど仕方ないわけです。

さて、僕は何もここで、「時代遅れは死ね!!」などと残酷なことを言いたいわけではありません。

僕が考えたいのは
じゃあ、現代を生きる我々にとっては少し前まで当たり前だった、「街の写真屋さん」とか「フィルムを持っていって現像してもらう」といった情景は、いつから当たり前だったのか?
ということです。

僕たちの「社会通念」は本当にずっとあるものか?ということ。

「専業主婦」という社会通念

もう一つ例を。

「専業主婦」という言葉で想像される人物像は、日本国中で共有されている「社会通念」だろうと思います。

この日本という国では「昔」から「専業主婦/主婦」とされる女性像が根付いていている、となんとなく思い込んでいる人は多いと思います。
「女性の社会進出」っていう現象も「専業主婦」とか「女性は家庭を守るもの」という社会通念があるからこそもてはやされるのだろうと思います。

しかしながら、実は「専業主婦」という女性像ができたのはめちゃくちゃ最近のことで高度経済成長期、1950年代に生まれた、たった1〜2世代の長さしか通用していない、新しい概念です。

「就職活動」も「サラリーマン」も、「郊外に一戸建てを買って子供は二人と犬一匹」っていう家庭像も、家にテレビがあるのも電話があるのもごくごく最近(大正〜昭和)にできた「普通」です。

ドラマでもなんでも、江戸や明治の女性を思い浮かべたときに「専業主婦」はイメージしにくいはずです。日本の歴史のほとんどの期間において、女性は当然のように家庭の外でも働いていたのです。

もっと言えば「誰もが自由に恋愛ができる」のも最近の話です。
おじいちゃんおばあちゃん世代に話を聞くと、お見合いが「普通」だったりします。ってかうちに至っては両親もお見合いです。

「昔は好きな女の子の家に電話したら親父が出たりしてさぁ、苦労したんだよ。今時の若者はLINEでしょ?いいよなぁ楽で。甘やかされてるなぁ」
とかいうムカつくおじさんはよくいますが、悪いけど、各家庭に電話がある状況っていうのはそのおじさんの親世代より以前では「普通」ではないわけです。

その「常識」や「社会通念」っていうのは意外と「特殊解」だったり「一時的なもの」だったりするのです。

変化しつづけてきただけちゃうん

街の写真屋さんやフィルムの話に戻ります。

記念日に街の写真屋さんで家族写真を撮るだとか、自分でカメラを持っていて、フィルムを買ってきて、撮って、現像に出す、というような行動が一般人でも可能になったのも、お分かりの通り実は意外と最近のことです。

「写真館」みたいなものが日本の歴史上に登場したのは幕末のことですし、一般家庭にカメラが普及したのはもっと後、戦後〜高度経済成長期以降のことです。

「歴史が浅いからその文化を守る必要はない」などと言いたいのではありません。

歴史ある地下足袋屋さんでも、タバコ屋さんでも同じです。
現代において刀を作る「刀匠」が江戸時代よりも少ないことに疑問を抱く人はいないと思います。

問題はその「規模感」の設定です。
文化も仕事も、時代に翻弄されて常に変化しつづけるはずですが、多くの場合、イケイケだった「最盛期」を基準にその規模感が形成されてしまいます。
でもよくよく考えてみれば、写真屋さんやタバコ屋さんという職業だってそれが始まった当時は「新しい職業」であり、ひょっとしたら別の職業から仕事を奪ったかもしれません。
「あの頃はよかった」と言って、たまたまお客さんが多かった時代を懐かしんでいても仕方ない。社会は変化し続けているのです。

この数十年くらいがたまたま調子よかっただけなんじゃない?と思います。みんながイケイケの、戦後復興〜高度経済成長〜バブルのご褒美タイムだったんじゃないだろうか。

バンドカルチャーの話をすれば、めちゃくちゃ端的にいうと
「たまたまこの20〜30年くらい、異常なバンドブームだっただけじゃない?」と思ってしまうわけです、申し訳ないけれど。
バンドブームの時代の経済規模感で作ってしまったバンド市場が今や回らなくなってしまうのも、仕方ない部分があるんじゃなかろうか、と。

ただし何度も言いますが「時代遅れは死ね!!」などと思っているわけではありませんし、誰が悪いわけでもありません。関係者の皆様、怒らないでね。

打開策はあるはずです。それはまた後で。

あぁ、そういえば最近は「時代の変化に取り残された」某巨大お笑い企業が話題ですね。
もしヤクザな商売をしてても、若手お笑い芸人が泥水をすすっていても、そんな話が漏れないようにするのは今までは簡単だったわけです。

なぜなら情報が「民主化」されていなかったから。

情報の民主化

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かつて、活版印刷の発明によって知識や思想が一般人にも届くようになりました。
口頭伝承や楽譜でしか伝えることができなかった音楽も、録音技術の発明によって一般に普及するようになりました。
しかしその思想や音楽の内容を「作る側」は長きにわたって、選ばれた権力者や思想家、音楽家に限られていました。

そして現代においてついに、インターネットによって革命的に、一般人でもその「作る側」になれるようになりました。
SNSでも2chでもブログでも、誰もが平等に情報を発信することができ、また選び取ることができます。
これを「情報の民主化」と呼びたいと思います。

情報が民主化される前の時代、日本は新聞の「大本営発表」通りに戦争をし、テレビが連日「大阪万博 '70」の宣伝をすればみんながそれを見に行きたいし(来場者数6400万人ですって!)、大晦日には家族揃って紅白歌合戦を見るのが「普通」だったわけです。タピオカブームどころの騒ぎじゃないです。

そんな「右向け右」の、「人生モデル」の選択肢が少なかった時代、若者(若者でなくとも)の多くはその「いくつかの人生モデル」の中から一つ選んで無理矢理にでも体を押し込めていかなければならないものだったのではないでしょうか。

もちろん、みうらじゅんのようにそこから大きくはみ出す人もいますし、まだ誰もそんなことやってない時期からバックパッカーとして世界を巡り「深夜特急」シリーズを書いた沢木耕太郎のような人もいますから、「多くの一般人にとって」です。
尾崎豊みたいな「大人になんてなりたくない」とか「型にはまりたくない」といった歌が当時は共感を得ていたのにも理由があるわけです。

お笑い芸人さんだって、吉本か松竹かナベプロか人力舎か・・・養成所に入学し、事務所に所属して修行するという道筋しかなかった(と思い込まされていた)んです。養成所ができる前なら師匠の付き人から始めなければならなかった。

しかし情報があふれる、情報が民主化された現代においては違います。
自分がどんな行動をとるべきか選ぶ、または自分に何があっているのか何が好きなのかを探すことはとても容易になっています。

堀江貴文さんが「寿司職人になるのに何年も修行するのはバカ」と言って炎上しましたが、実際今や、自分で情報を探して自分で修行してミシュランの星をもらっている寿司職人がいます。

メディアから与えられる画一的な情報を鵜呑みにして全員が全員同じものを好きになったり、みんながスーツを着てサラリーマンになったりOLになったりしていくのではなく、誰もが自分のやりたいことを(細かく)探して、謳歌できる時代です。

「巨人・大鵬・玉子焼き」の時代なんてとっくに終わってるし、逆にいうと、石原裕次郎や長嶋茂雄、美空ひばりのような全国民から愛されるようなスーパースターはもう現れません。

・・・なんか、出て来る単語がずっと古いよね・・・。

「バンドマン」という虚像

そして「バンド」や「バンドマン」というものもどこかの時代から、間違いなくその「いくつかのモデル」の一つだったのではないかと思います。「バンドマン」なんていう一般化された単語があるくらいですし・・・。
(「型にはまりたくない若者」という「型」。皮肉だね)

別にバンドという文化が古いとか、ダサいから「バンドマンという人生モデル」が選ばれなくなったとかいうことではなく、みんながみんな野球かサッカーが好きだったり、バンドやってタバコ吸って酒飲んだり、みたいな、数種類しか生き方の選択肢がない(ように見える)画一的な時代はとっくに終わってるぞってことです。

なぜ終わったかと言えば、それはもちろんインターネットやスマホによって10年前20年前とは比べ物にならない量になった「情報」のおかげであり、飽和した画一的な文化構成からはみ出してきたサブカルチャーの台頭による「興味/嗜好の分散」のおかげです。

音楽の民主化

音楽に限っても、この10〜20年で大いに「民主化」が進んだと思います。
どんなジャンルだろうと聞きたいものを聞き、演奏したいものを演奏し、オリジナル曲ができればSound cloudでもyoutubeでも発表の場はいくらでもあります。

1960-70年代、高校生がエレキギターを買うと「不良になる」と怒られたそうです。当時のビートルズは不良の音楽です。ウケるw
(だからこそ本来「反骨精神」であるロックが面白かったとも言えるんでしょうが)

ところが今や、エレキギターを演奏してみたくなったら安くて品質の良いものを楽器屋に行くこともなく買うことができますし、演奏方法・練習方法の情報は「バンドやろうぜ」(懐かしい!)を買わなくてもyoutubeでいくらでも手に入ります。MacBookがあれば自分一人で壮大な合奏を作り上げることが可能です。

我々だってDTMを使って複雑な楽曲をつくり、安価でレコーディングさせてもらい、CDをプレスすることができるようになったのもインターネットによる「情報の民主化」と、それによって起こった価格競争のおかげです。

インターネットが無かったら、詳しい人を探して、どうやってやるのかイチから教えてもらうか、そういう雑誌や書籍を必死で読み漁るしかなかったんです。
やり方がわかったとしても、レコーディングもCDのプレスも、素人がおいそれとできるような値段ではなかったはずです。

民主化による興味の分散

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そんなに便利になったのに、なぜバンドマンは減っているのか、という疑問が残ります。
誰でも簡単にバンドを始められて、CDを安価で作れるのなら、もっと増えたっていいじゃないのよ、ねぇ?

でもそれも実は考えてみれば当然で、ある文化が民主化・多様化し、自由度が増すと同時に、一方で他の文化も同じように民主化・多様化されていますから、そちらへ行ってしまう人もいるのです。

「あさひなぐ」や「ちはやふる」という漫画を読んで薙刀/競技かるたを始めた女の子は、ひょっとしたら20年前ならガールズバンドでベースを弾いたのかもしれませんし、あるいは何にも興味がもてずふてくされていたかもしれません。
リフティングが得意だけどサッカーの他のプレイは苦手な青年は、昔だったら必死でサッカーのルールの中で頑張ろうとしていたでしょう。しかし現代においてはリフティングだけを極めて世界で活躍することが可能です。

「こんなに情報発信ができる時代なのに、バンド人口が減っているのはおかしい」と思う人がいるかもしれませんが、なにもおかしくないわけです。

船で渡るしかなかった不便な離島に橋がかかったとして、その離島は人口が増えるでしょうか。
多くの場合、逆に、人口は減ります。
その島に本当に住みたくて住んでいる人はずっと住み続けるでしょう。
しかしある人は、橋によって便利になって他の土地の情報が手に入り、そっちが気に入れば不便な離島からはさっさと出て行きます。

便利になったことによって、出て行く人も少なからずいるのです。
逆に便利だからこそ、すぐに帰って来ることもできますが。

「バンドマン島」だけを見ると人口は減っているかもしれませんが、隣の島やもっと大きく「音楽好き諸島」として見てみると、その人口は増えているはずです。
フェスに行くの(だけ)が好きな人、ボカロ作曲者、「歌ってみた」をyoutubeであげている人、カラオケ好き、おやじバンド・・・などなど。

僕は徳島市のライブハウスサーキットイベント「若者たち2019」で偶然、「他の島」を見ることができました。

「若者たち2019」で目撃した衝撃

あぁ、疲れてきた。今回は一段と長いね。すみません。無料なんで、お許しください。続けます。

たしかにバンド文化で育ってきた我々は「バンドこんなに楽しいのにウェイウェイ」と思うかもしれません。
でも今の中高生はひょっとしたら、ボカロや、あるいはTikTokとかSnapchat の楽しさを知ってて「楽しいのになんでやらないの」と思ってるかもしれません。

表層的な部分だけをみて「若者が元気ない」とか思うかもしれません。
でも彼らは実は僕たちから見えないところではめちゃくちゃ元気なのかもしれません。

僕はそれを先日の徳島ライブハウスサーキットイベント「若者たち2019」で目撃しました。

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「物販コーナー」の目の前の、知らなかった世界

サーキットイベントである「若者たち」において、我々GEEK! GEEK! GEEK! はメイン会場であるclubGRINDHOUSEというライブハウスにて出演させていただきました。
しかし各ライブハウスの面積の都合から、GRINDHOUSEを含めたいくつかのライブハウスでは出演者の物販を近所のナイトクラブ「CLUB HIGHLAND」にまとめて行うことになっていました。

そしてそのHIGHLANDももちろん「若者たち」のイベント会場のひとつであり、とあるイベントが行われておりました。
それが、アニソンDJによるクラブイベント「夜★アソビ」でした。

僕はそこで、全く触れたことのなかった異文化に接しました。

鳴り響く(全く知らない)アニソンと、それに対して「ウォーーー!!」っと盛り上がる、ちょっとオタク風のお客さんたち。
その「ウォーーー!!」が、なんていうか「キタキターー!」とか「そうくるかー!!」みたいな感じなんですね。
僕が全く知らないアニソンをフロアにいる全員が共有して楽しんでいるわけです。
めちゃくちゃ楽しそうでした。「オタ芸」というのを初めて見せてもらって感動しました。

ひっきりなしにかかるアニソンを全身で浴びながら踊り狂う、ちょっと冴えないルックスのボーイズ&ガールズ。
コスプレをしてる人がいたり、慣れていないのかちょっと恥ずかしそうに体を動かすもの静かそうな女の子がいたり。
たまに通るゴリゴリのパンクバンドの人が怖がられていたり。
そしてみんな基本はシャイだから礼儀正しい(笑)

なんかもう、愛おしくてたまんなかったんですよ。

お前らぁあああ!!! こんなとこで楽しんでたんかぁあああ!! 会いたかったぞおお!!!

ちょっと申し訳ない表現になりますが、童話「おむすびころりん」で、穴の奥で密かにパーティーをやって盛り上がっているネズミたちを思い浮かべてしまいました。いい意味で(?)

そうそうこれこれ↓

これは「世界の片隅」か、それとも。

さて、僕は彼らの存在に驚き、結構感動したわけですが、それはなんだったんだろう、と考えていました。
まるでディストピア映画で、荒廃した大地をさまよった末に、山奥で人々が暮らす「小さな社会」のシェルターを見つけた時のような感覚がありました。

おそらくあれが、新興文化の持つ「勢い」なんじゃないだろうか。
たぶん、長くても15年かそこらですよね、アニソンDJイベントの歴史って。

若い文化では全員が初心者で、邪魔な「古参」のいない、「おれたちでどんどんやっていこうぜ!」っていう気概を感じたような気がします。
なにが「正しい」とか、なにが「間違ってる」とかの不文律的なマナーとかもまだそんなにないんじゃないでしょうか、おそらく。(まぁ、先輩ヅラするうっとおしいやつもいるんでしょうけど)
こんな曲をかけるのはよくないとか、こんな格好をすべきだ、とかもあまりなさそうに見えました。

それは、今まさに作りあげられ、大きくなっていこうとしている新しくてニッチな文化です。
シンプルにうらやましい、と思ってしまいました。

どうするバンドメン

さっき書いた「オタイベント」についての文章で僕は「全員が初心者」という表現を使いましたが、実をいうと、これはそのイベントに限ったことではない、と考えています。

何度も出てきた「情報の民主化」によって何が起こったかというと、この地球上のネットにアクセスできる全員が、あらゆる(今まで知らなかった)文化圏に容易に関わりを持つことができる世界になったのです。

たとえばプロ野球選手が、ギターを弾いてみたいと思ってgoogleで「ギター 初心者用 おすすめ」と検索するかもしれません。
ゴリゴリのプロギタリストが「サーフィン 初心者用 おすすめ」と検索しているかも。

そういう、文化圏の横断がたった10年前よりもずっと簡単に、凄まじいスピードで起こるようになっています。
youtubeや誰かのブログでオススメされていたアレをちょっとやってみたいな、買ってみたいな、とライトに考える人が世界中に溢れているわけです。

つまり「全世界初心者化」が起こっているわけで、その世界ではいかに初心者を取り込むことができるかで、その文化圏が生存できるかが左右されるのではないでしょうか。

先ほど紹介した「夜★アソビ」のイベント情報があったので紹介します。

「詳細」文の初めに書いてあること・・・・

Q.夜★アソビってどんなイベントなの?
A.徳島で毎月開催しているアニクラです!
Q.”アニクラ”ってよく聞くけど一体なに?
A.アニソンを中心にボカロや特撮・声優の曲が流れるクラブイベントのことです!

アニソンのクラブイベントのような、新しい文化を広げていくためには、対象はほとんどが初心者なわけですからまずはこんな基本の説明からはじめるわけです。
何をやっていて、どんな雰囲気で、どんな風に楽しいから、おいでよ!という説明から。

そして前述した通り、今は「全世界初心者化」が進行しています。
ここで旧来の文化圏がしなきゃいけないことはなんでしょうか。

「カープ女子」をバカにするな

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果たしてバンドマンは、ライブハウスは、スタジオは、どれだけ「初心者」を取り込もうとしているでしょうか。

「ライブやライブハウスはちょっと怖くて近寄りがたい空間であったほうが憧れが生まれていい」的な言い分を聞くこともありますが、それは「情報が少なかった時代の論理」です。
今では想像しにくくなっていますが、Googleも口コミサイトもなく、自分の体でトライ&エラーをするしかなかった30年前の若者は、頭の中で「先輩が言ってたライブハウスってどんなところだろう」と考えて、実際に行動するしかありません。

そこでヤンキーにからまれたとしても、全身がタバコ臭くなって嫌な思いをしても、それを吐き出すSNSはまだありません。

しかし今は、レストランひとつとってもリアルな口コミ情報を吟味してから選ばれる時代です。
情報が溢れているなら「居心地の悪い体験をするかもしれない、初心者にやさしくない空間」にわざわざ行ってみようと思う人は少ないでしょう。
「よかった」「楽しかった」という情報が少しでも多い場所に流れていくはずです。

古い文化側に属する人間がやらなきゃいけないことはものすごく明白で「初心者」や「ライトユーザー」を見下さず、取り込み続けることでしかないと思います。
その対象はもちろん全世代でしょうが、今後もその文化圏が続いていくためには若いエキスと循環、新陳代謝が必要です。
おじさんたちには理解できない「元気のない若者」とやらに対して、最初の一歩からこの世界に丁寧に案内し、興味を持ってもらうしかないでしょう。

それはひょっとしたら、「ちはやふる」や「あさひなぐ」といったマンガによってマイナー文化が市民権を得たのと同様に、今更「バンドやろうぜ」的なマンガが流行るだけでもいいのかもしれません。

あるいは、「夜★アソビ」のように、そこから説明するの!?レベルでバンドやライブハウス文化を紹介していかなければならないのかもしれません。

会場が完全禁煙か否かも気になるかも。椅子に座っていられるのか、ずっと立っていなきゃいけないのか。

「PAさんや照明さんは全然怖くない!!」ということも知りたいかもですね。
アンプやドラムのセッティングの仕方は本当のイチから書いておいてあげないと不安です。

ライブのリハでPAさんに怒られたらどうしよう、怖い大人に睨まれたらどうしよう、とか、情報がない時代には想像でしかなかったことも、今はツイッターに書いてある「現実」です。そりゃ怖いっすよ。
誰かのツイートで「PAに怒られた!」という情報を知れば、それは怖いでしょう。
しかし逆に「PAさんがすごく優しかった!」という情報も伝わるはずです。

ライブハウスは今最高のナンパスポット!っていう噂を流せば鼻の下を伸ばした大学生が来るかもね(笑)

さぁどうすればいいのか? わかりません!!

ていうかめんどくせ!!!めんどくせ!!!!ペッ!ペッ!!

「カープ女子」という、世間から軽んられがちな人々がいます。
しかし実際には彼女たちのようなフットワークの軽い、「浅い」「ファッションの」「にわか」ファンが、最も大事なのだろうと思います。
ファンのピラミッドみたいなものがあるならば、彼女たちは最下層にあたるでしょう。(失礼)
しかしピラミッドの一番下が大きく広がっていないと、そこから先ピラミッドの上に上がってくれる人も少ないのです。

W杯のたびに渋谷で大騒ぎしている若者は全員アホだと思いますし、ものすごい下痢になればいいと思いますが、それでも彼らが最下層のファンとして、よく考えずにとにかく楽しんでくれないとサッカーの人気は保てない、そういう時代になってきていると思います。

彼らは何に集まってきているか? 野球でもサッカーでもなく「楽しそうなイキフンのムーブメント」じゃないかと思います。

それでもまだ「よく勉強もせずにファンなんて名乗ってんじゃねえよ」「俺らの時代は叱られてひとつひとつ覚えていったんだ」といった論理を持ち続けるなら、それもひとつの手段です。もっと寂しくなるかもしれませんが、みんなが初心者に優しくなったら、厳しい人がいるのも多様性のひとつ、逆張りとして価値が出るかもしれない。
なかなか大変だと思うけど・・・・

再び新興文化のように

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バンドを、ライブハウスを、あるいは野球やサッカーを愛する人がもっと多くの人と一緒に楽しみたいと思うのは当然です。
仲間を募り、楽しいイベントを企画してその文化に携わる人口を再び増やそうと頑張ることは素晴らしいことです。

しかしそれが叶わないからと言って「若い人たちには元気がないから」と見下げて溜飲を下げておしまい、にするのは大いに間違っていると思っています。あの頃はよかったなぁとか言っていても、年老いて死ぬだけです。

ていうか、渋谷で軽トラをひっくり返している若者、めちゃめちゃ元気じゃん?笑

古い文化(と、もう言っていいでしょう)である「バンド」や「バンドマン」が減ったのは若者に元気がないからではなく、音楽が(音楽だけでなくあらゆる文化が)本当の意味で「民主化」され、ものすごい速度で流動化した結果だろうと考えています。
以前がうまくいきすぎていた、人口が偏りすぎていたのではないでしょうか。

今は、他に楽しそうなことがあれば、そっちに行ってみようかなと誰もが軽く行動できる健全な社会です。
そしてその「民主化された」、誰もが情報にアクセスできる世界においては世界中の誰もが「初心者」や「新規顧客」になり得ます。

「門戸を開く」だけでは不十分な世界になってきたように思います。
「お気軽にどうぞ」というだけでは、常にあらゆる情報を精査し続けるこれからの世代にとっては不安要素モリモリです。
3000円払えば他にいくらでも楽しいことができる時代なのに、楽しめるか不安なよく知らないバンドのライブ会場に行く人がどれだけいるでしょう。
どうせ数千円払うなら、絶対に楽しめるだろう有名なバンドを見に行くか、モンストに課金しますよね。確実に楽しいという「情報」があるんだから。

まぁいろいろ言いましたが結局自分が楽しんでいることを「楽しい!」と発信し続けることが一番大事なんでしょうね。
そして一緒に楽しんでくれる人が現れたら、それがどれくらい楽しいのかを伝え続けることなんでしょうね。

これは少しヒントになるかもしれないと思うのは今なにかと話題の「アメトーーク!!」です。
あの番組では時々、わざとマイナーなもの(例えば「豆腐大好き芸人」とか「キン肉マン芸人」とか)を取り扱うことがありますが、あの企画がなぜ成立するか、なぜ面白いのかというと
人間は、誰かが自分の好きなものの話を嬉しそうにしているのを見るのが楽しいから
なのだそうです。
もちろん芸人さんの話芸があってこそだとは思いますが。

例えば、「B’z」が大好きな誰かさんとその仲間たちが、愛するB’zの曲だけをひたすら演奏するイベント、とかね。
ライブが始まる前からはっきりと「何をするのか」がわかっていて、お客さんは自分が好きなものを同じように好きなバンドマンと時間を共有できると、楽しめるはずだ、とわかるはずです。

バンドをやるとどんな風に楽しいのか、楽器店は、ライブハウスは、レコーディングは、スタジオは、どんなに楽しいところなのか、というのを発信し続けないといけないんでしょうね。
「盛り上がってるぞ!」と(嘘でも)アピールすることも大事でしょう(笑)

いやーん大変。

ここまで言いたい放題言っておいて、GEEK! GEEK! GEEK!はどうなんだ!と言われてしまいそうですが、ぶっちゃけ全然ダメです。
でも、実は水面下でいろいろと仕掛けていたりします。
それが実を結ぶかどうか・・・わかりませんが。

変化に対して動いていかないと、毎回ライブハウスに自分でノルマを払ってライブをしても虚しいだけです。
新規のいない、身内だけで身銭を切って回っている業界は必ず死にます。
まずはライブのお客さんが全員知り合いのバンドマンっていう状況から抜け出さないとね。

徳島サーキットイベント「若者たち」は、来年も開催されるはずです。
そのイベントがどれだけ楽しくて、怖い人もいなくて、友達ができて、音楽をいっぱい聴けるのかを、詳しく発信しなくては。

令和のバンドマンは大変だね・・・。

めんどくさいけど楽しいね!!

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