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800文字ショートショート

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1つの短編は「800字以内」に収まっている時もあるし、いない時もありますが、大体の目安はそれくらいです。読むのに時間はかからないと思うのですが、読むには時間がかかるかもしれません。
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#短編集

【800字 ショートショート】#45 多力本願

【800字 ショートショート】#45 多力本願

 素直に素敵だと思える気持ちを持っていることは何とも素晴らしい事であろうか。と私は思うのであります。今まで見聞きした中で最も印象に残っていることは何か?と聞かれると、それは今である。という風に答えるくらいに私はそういう「何かにとりつく性質」は持ち合わせていないのです。

 何かのファンに成れる。何かを応援できるというごくごく当たり前の力でさえ、私はうらやましいと思いますし、そう思うでしょう。

 

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【800字 ショートショート】#46 人間たきぎ

【800字 ショートショート】#46 人間たきぎ

 その列車は走り続ける目的地も知らないまま。

私は楽しみにしていた。この列車に乗って旅をすることが働く目的でもあったからだ。列車に乗って揺られて朝日も夕日も列車の中から眺める。過ぎ去っていく景色、美味しい食事。何とも心地よい旅である。

「次の人を拾います」

 この列車は定期的に落ち人を拾っては乗せていく。落ち人とは私たちのような上客とは違って高いお金を払えない人たちのことである。

この電車

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【800字 ショートショート】#54 バンガローの医師

【800字 ショートショート】#54 バンガローの医師

 とある山奥にある開けた草原にそのバンガローは存在する。そこには医師が一人、看護師が一人いるらしい。酔狂な奇病を治すためにこの地へ越してきたわけではなく、彼は人が嫌いだったからこの場所を選んだのだ。

 そんな辺鄙な場所にも今日も患者はやってくる。

奇病。それは少し先の未来に待っている人類の悩みの種。

 やってきたのは20代半ばの男性だった。その男性は診察室に表れた瞬間、医師にこう告げた。

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【ショートショート】#55 次の自分は、誰が塗る?

【ショートショート】#55 次の自分は、誰が塗る?

 「2度目はうまく行く」

そう自分に言い聞かせ、びっしりと解答が書かれた答案用紙をリュックにいれたことを何回も確認した後家を出て、乗り慣れない電車を乗り継ぎ、都心部へ向かった。

「・・・・次は上手く行くに決まっている」

 何度も自分に言い聞かせながら足を進め、2度目の試験会場へたどり着いた。1度目は失敗したんだ。その理由もわかってる。

「私は、答えを持ってこなかった」

 試験に出された問

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【ショートショート】#56 失った恋愛感情

【ショートショート】#56 失った恋愛感情

 乗り越えた悲しみの数だけ、人は誰かに優しく出来ると昔聞いたことが有るのだけれど、そのためには優しさを私に求めてくる人が少なくとも必要なわけで、それは他人に対しての優しいは「親切」という言葉に切り替わる気がするから。やっぱり優しいは私にとって親しい人、好きな人にしたいと考えている。

「つまり私にとって大切な人は、裏を返せば私の悲しみの数を知ることになるのかもしれない。それは相手にとって良い事なの

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