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【800字 ショートショート】#46 人間たきぎ

 その列車は走り続ける目的地も知らないまま。

私は楽しみにしていた。この列車に乗って旅をすることが働く目的でもあったからだ。列車に乗って揺られて朝日も夕日も列車の中から眺める。過ぎ去っていく景色、美味しい食事。何とも心地よい旅である。

「次の人を拾います」

 この列車は定期的に落ち人を拾っては乗せていく。落ち人とは私たちのような上客とは違って高いお金を払えない人たちのことである。

この電車はそんな人たちをたまに拾っていくのである。

 どうしてそんなことをするのかと言えば答えは一つだけで、安定した列車の旅は何かと退屈だから、優越感をさらに出すために社会的に落ちた者を乗せることで、慈悲と哀れみの感情を上客に提供するということが運航会社の売りになっていた。

しかし、そんな落ち人にもルールがある。

「誰でも乗車は構わないが、乗っていられる期間は1日だけ」

 この理由が少し私にはわからなかった。私としては惨めな落ち人が長い時間私たちといることでもっともっと、惨めな気持ちになって、行けばもっと優越感に浸れるのにと考えていたからだ。期限が設けられていることが気になってしょうがなくなった私は、仲良くなった大富豪に聞いてみた。

「どうして期限が設けられているかって?それは、あなたが良く知っているでしょう?」

私がその言葉にきょとんとしていると、富豪は笑った。

「1日を超えると飽きるのよ。みんなね。わかるでしょ?誰かの愛人さんなら」

列車は目的地へと走り続ける。

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