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新しい観光ターゲットになるか。「第2のふるさとづくり」って何? 週刊インバウンドニュースマガジン11月1週号

1. 8月9月の宿泊旅行統計調査が発表。昨年比で伸びた地域落ちた地域

10月29日、令和3年8月と9月の宿泊旅行統計調査が発表されました。
※8月は2次速報、9月は1次速報。

参考ニュース:宿泊旅行統計調査(令和3年8月・第2次速報、令和3年9月・第1次速報)(観光庁)

8月の延べ宿泊者数(日本人・訪日客合計)は、3,098万人泊。2019年で比-51.0%、2020年比で+8.3%です。

9月は、2,269万人泊。2019年比で-53.5%、2020年比で-20.5%です。

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9月の延べ宿泊者数が前年度比で減少している点が気になりますね。そこで上記の延べ宿泊者数の推移を見てみましょう。

2020年は7月に開始されたGoToトラベルの影響で、7〜11月にかけて順調に旅行者が増加推移しています(赤枠内)。※それでも8月→9月で微減。

2021年はそのような後押しがなかったため、例年通り8月をピークに9月になると宿泊者推移がガクっと落ち込んでいます(青枠内)。この傾向はコロナ前の2019年も同様です(緑枠内)。

つまり2020年が特別なだけであって、全体的に見れば昨年比で旅行需要は回復しつつあるといえるのでは無いでしょうか?今後の推移にも注目したいと思います。

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続いては各県別の数値も見てみましょう。8月の日本人旅行者の数値です。訪日客の数値を除いているので、全体の昨年比が先程示した数値(+8.3%)と変わっている点にご注意ください。

こちらを見ると、全体では昨年比+7.2%でありつつ、実は各県ごとに状況に違いがあることが分かります。

増加率は大阪府、東京都、愛知県、富山県、山梨県の順で高い数値を示しています。上位を見ると、三大都市圏の中心部での回復が大きいことが見て取れます。

都市部で先んじて旅行意識が改善し域内観光が進んでいるのか、地方から都市部への旅行が進んでいるのかは、このデータからは分かりません。

しかし当時はまだ都内の感染者増が盛んに報道されていたことを考えると、前者なのではないかと推察しています。

当たり前ではありますが、都市部で復活している需要をいかに先んじて取り込むかが重要になるでしょう。

2. 新たな観光ターゲットとなるか。観光庁で「第2のふるさとづくりプロジェクト」が始動

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参考ニュース:「何度も地域に通う旅、帰る旅」の推進・定着に向けて~「第2のふるさとづくりプロジェクト」に関する有識者会議を開催します~ (観光庁)
参考ニュース:第2のふるさとづくりプロジェクトの概要について (観光庁)

1週間以上前のニュースなのですが、とても重要な動きだと思いご紹介いたします。

観光庁は10月20日、「第2のふるさとづくりプロジェクト」に関する有識者会議の開催を発表しました。

会議自体は10月27日に開かれているのですが、まだその内容は公表されていません。

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令和4年度の観光庁関係予算の資料の中にも、実は「第2のふるさとづくり」という言葉が既に現れていました。

さて、第2のふるさとづくりについて。この言葉は、今年8月に発表された令和4年度観光庁関係予算概算要求の中にも既に現れていました。

ここでは第2のふるさとづくりを、中期滞在者や反復継続した来訪者の増加と表現しています。

つまり、行って帰るだけの旅行者ではなく、長く・頻繁にその土地を訪れる、より関係性の濃い旅行者のことです。

コロナ禍ではテレワークやワーケーションという言葉・習慣が浸透し、多様な旅の形が現れ始めました。

また、同じくコロナ禍によって、都市部とは違う地方部の安全性や自然環境に対する評価も高まっています。

さらに、インバウンドが停止している状況で、国内旅行の需要が改めて重要視されています。

そこで注目されたのが、一度の旅行でより多くの消費を行う、長期滞在・反復訪問をする旅行者(第2のふるさとを持つ旅行者)なのでしょう。

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さて、「第2のふるさとづくりプロジェクト」では何が行われるのでしょう?

観光庁の公表している資料によると、3つの施策に分類できます。

1つ目は長く・何度も訪問したくなる①滞在コンテンツ作り。米作りのような体験コンテンツであれば、田植え、収穫などお米作りの段階ごとに現地を訪問する理由が生まれます。

思いつきではありますが、土作りから焼成まで行える陶器作りなどもあり得るかもしれませんね。

続いては、地域とのつながりを生む②滞在環境作り。ポイントはユニークで泊まりたくなる宿というだけではありません。

地域との関係性や、"地域に入り込んでいる感"が大事になるので、その地域の生活が感じられる立地や仕組み、雰囲気や設備が重要となるでしょう。

最後に③移動の足の確保。①や②のような条件を満たす場所は、観光地というよりも地域の生活圏の中にあるはずです。すると課題になるのがアクセス。手段の提供だけでなく、手頃な価格設定も行わなければ何度も来ることは難しくなります。

これまで行われていた「日本人or外国人向け」「◯◯人向け」「初訪問orリピーター向け」といったターゲット分類の中に加え、新たなターゲット層が加わったことになります。

みなさまの地域観光戦略の立案の一助になれば幸いです。

3. タイ政府観光庁が、インバウンド振興5つの柱を発表

世界でも有数の観光大国であるタイが、2022年度のインバウンド政策を発表しました。

政策の中では、5つの柱が明らかにされています

1. 新たな世界標準の観光地にする。
2. 質の高い観光客に、より高付加価値な旅行体験を提供する。
3. 安全安心のイメージを高め、他では得られない感動体験の認知度を高める。
4. 衛生面で安全に滞在できることを観光客に知ってもらう。
5. ニューノーマルのもと、個人・組織レベルで衛生対策を徹底する。

また、タイ観光庁のタネート副総裁はこのようにも言っています。

「コロナを克服したあとの観光のあるべき姿は、観光客をむやみに増やすことではなく、観光収入を拡大させていくこと」

コロナ禍を経て、安心・安全性を追求する点は、日本もタイも変わらないようです。また、旅行者の数ではなく質(この場合は一人あたり消費額)に注目している点も、現在の日本の高付加価値化戦略、富裕層戦略に通ずるところがあります。

その上で大切なのが1番目の「新たな世界標準の観光地にする。」という柱でしょう。

安全基準も、付加価値も、世界の標準に合わせなければ意味がありません。日本国内の標準的な安全対策に固執すれば、「厳しすぎ」「ゆるすぎ」どちらのミスマッチも起こり得ます。

そもそも、政府がこのような方針を示すこと自体が、世界各国に対するメッセージとなります。日本側の情報発信にも期待します。

4.あとがき

「第2のふるさとづくり」、みなさんはどう感じられましたか?

観光マーケティング好きとしては、長期滞在・反復訪問する旅行者を増やすためには、どのようなコンテンツ・施設・制度が必要なのかな?と考えるだけでとても楽しくなってきました。

みんなでアイディアを出し合う勉強会なんかもおもしろそうですね。企画した際はぜひこちらで告知しますのでお越しください。

さて、私はこの情報をみて以下のように考えました。

長期滞在:滞在期間で体験の質が変化する旅
反復訪問:体験タイミングが時期的に分散されていること

長期滞在に関しては、スポーツツーリズムや武道ツーリズムなど、長く滞在(練習)することでよりよい体験ができるようになることが重要になるでしょう。

その上で、長期滞在が苦にならないよう、メインコンテンツ以外の周辺部分を工夫する必要があるでしょう(例:食のバラエティの準備など)。

反復訪問に関しては、田植え体験や酒造り体験など、工程が多岐・長期に渡る◯◯作りコンテンツがハマるのではないかな? と想像しています。

関係人口作りでは「とにかくその地域を好きになってもらう」という目標や言説をよく耳にしますが、そのような地域はよほど単体で強い魅力がないと難しいと思います。

やはり何度来ても飽きない旅行体験の設計が重要になるでしょう。新しい旅の形態がこれから生まれると思うと、個人的にとてもワクワクします。

今週もお読みいただきありがとうございました。

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