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ヴァン・フルールの飴売り

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20世紀初頭のフランスが舞台の小説です。
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#完結

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第8話

【小説】ヴァン・フルールの飴売り 第8話

 チェイスは俯いたまま部屋の隅でうずくまっていた。
「……こんなに簡単に、独りに……元通りに、なっちゃうんだね。僕の居場所、ここしか無かったのになぁ……」
 あはは、と虚しく笑う声が部屋に響く。彼の顔は髪に隠れてよく見えないが、その肩は小刻みに震えていた。
 アンベールは憐れむようにチェイスを見つめ、そっと近づいた。チェイスのしたことを許す気は無い。しかし、心から憎む気にもなれない。彼は彼なりに、

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