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【エッセイ】心の思い出箱にいれて

洋服の沢山つまったクローゼットの前に立ち、
「着る服がない…」
と何度思ったことか。

多くの人がこの経験をしたことがあるのではないかと思う。

私は24歳の時、色々色々あって人生を見直したことがあった。
その時に着手したのが「断捨離」である。

タンス、クローゼット、靴箱。
家中のファッションアイテムを一か所に集めた。
準備万全。いざ、断捨離開始。

状態の悪いもの、長らく着ていないもの、
もう着ることはないと思えるものは捨てた。
それがたとえ綺麗だったとしても。
物に感謝の気持ちを忘れずに一個一個を手に取り、
丁寧にゴミ袋に入れた。

学生時代に着ていた洋服も沢山あった。
もう合わなくなっている洋服がたくさん眠っていた。
なつかしさを感じ、捨てるのを躊躇するものもあった。

物には思い出が宿っている。
この服を着て会った友達との思い出がよみがえる。
この靴を履いて出かけた場所の思い出がよみがえる。

時に、”物を捨てること=思い出を捨てること”と錯覚しそうになる。
だからこそ、学生時代に着ていたピーコートを捨てられずにいたのだ。
もう着ることはないとわかっていながら。

でも私は分かっているはずだ。
お別れは終わりじゃない、始まりだってことを。
お別れがあるから始まりがあるってことを。

24歳になっていた私は、
学生時代に似合った服装が似合わなくなって、
学生時代に似合わなかった服装が似合うようになった。

私はこのピーコートを捨てて、
あの時着こなせなかったトレンチコートを買おう。
思い出は心にある。
ピーコートの姿はその時の風景と一緒に心の思い出箱に入れておこう。

高校3年間着たピーコートをもう一度ぎゅっと抱きしめた。
私の学生時代を彩ってくれて、本当にありがとう。

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