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【青年海外協力隊ベトナム日記 2006〜08】 第4話 日本語の授業①

ベトナムに来て数ヶ月経ったある日、勤務先の大学の学長から日本語講座を開講してほしいと言われた。

ここでの私の本職は「美術教師」だし、今まで外国人に対して日本語を教えたことなど無ければ、もちろん日本語教授法の資格なども持っていない。
けれども学長はそれでもよいと言うので、何事も経験だと思い引き受けることにした。

早速大学の一室を与えられ、通常の美術の授業と並行しながら日本語講座のためのプリントなどを準備し、ついに講座初日を迎えた。

第1回目は大学の先生や学生を中心に30人くらい集まった。

こんな小さな田舎町にも日本に興味を持ってくれている人たちがけっこういたというのはうれしかった。
まずは簡単に日本の紹介をして、日本についてどんなことを知っているか聞いてみた。

「SUSHI、FUJIYAMA、KARATE、HONDA、TOYOTA…」

と、お決まりの単語たち。
私だってベトナムに来る前はベトナムのことなんてベトナム戦争と生春巻きとホーチミンさんくらいしか知らなかった。
まだまだテレビやインターネットを見ているだけではわからないことはたくさんある。
私も彼らも互いの文化にもっと関心と理解が必要だ。

先輩隊員の話などを聞くと、同じように日本語を教えてほしいと言われて授業を始めた人がけっこういるのだが序々に来る人数が減っていき、だいたい5回くらいで誰も来なくなって終わった…などという話をよく聞いた。
やってみて意外と楽しかったからせめてもう少し長く続けたいと思うのだが。
しかし相手がやる気のある日本語学科の学生等ではなくて、なんとなく興味本位の人たちが多数だからやはり難しいのだろうか。

けれど異国で聞く日本語の挨拶というのは、自分に興味を持ってくれ、気を使ってくれている感じがしてなかなかうれしいものだ。
なので最低でも簡単な挨拶くらいは覚えてもらうまではやめられない。
とりあえず、まずは目標10回突破。ビッグな目標だ…。

ということで手探りで始めた日本語の授業だが、回を重ねるごとに大学の先生や学生だけでなく、近くの学校の先生や近所の高校生、仕事帰りのOLまで参加するようになった。
当初、なんとなく来てみた人たちは早くも脱落していったが、残っている人たちは皆やる気があって授業が終わった後も個別に質問にくる人もいる。最初の目標を見事突破してすでに15回を越えた。今のところ毎回平均15人くらいの人たちが参加してくれている。
こちらのたどたどしいベトナム語を理解してくれているかはかなり不安なところだが、こちらが伝えたいことはなんとか伝わっている様子でほっとする。

ただ、日本語という言語は実際人に教えてみると本当に難しい言語だということが良くわかった。
なぜひらがなとカタカナと漢字の3種類もあるのか?
「は」はなぜ2種類の読み方があるのか?
Kに濁音がつくとなぜGになるのか?などなど。
日本人にとっては気にもしないことなのだが、外国人にしてみたら当然疑問に思うような質問をされるとなんと答えていいのかわからなくなってしまう時も多々ある。
私自身よくわかっていないことだらけだった。

私の任地は日本人旅行者などまず訪れることが無い田舎町だ。
もし日本語を覚えたとしても、この場所では今の所ほとんど使い道は無い。
だから正確な日本語を教えることよりも、この日本語の授業を通して日本の文化や価値観の紹介などをたくさんして日本に少しでも興味を持ってもらい、彼らの視野を広げるきっかけの一つになればと思っている。

今までベトナム語だけだった生活の中で「コンニチハ」「ゲンキデスカ?」などの簡単な日本語が聞けるようになっただけでもなんだかとてもうれしい。 

日本語の授業の話の続き ↓


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