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【青年海外協力隊ベトナム日記 2006〜08】 第10話 割れた卵

その日は休日だったが、私は朝から次の授業のためのプリントを作成していた。

午後もひとりひたすら部屋で作業を続けた。

夕方になり、その日まだ部屋を一歩も出ていなかったことに気付いたので気分転換に自転車で市場まで買い出しに行くことにした。

外に出ると小雨が降っていた。

この時期、私の住むベトナム中南部は雨季真っただ中なので曇りや雨の日が多くすっきりしない天気が続く。
天気が悪いと気分も晴れないし洗濯物も全く乾かない。
早く雨季が終わって晴れてほしい。
そんなことを思いながら市場へ向かった。

今日の夕飯は何を作ろうかと考えながら市場の人込みの中を縫うように歩き回り、肉と野菜と卵を買った。

それにしてもこまめに少額をボってくるのをいいかげんやめてほしい。
私はもう数ヶ月もこの町に住んでいてベトナムの物価や相場をだいたい把握しているのに、今でも外国人と見るやいなやひどい時には通常の数倍の値段を吹っかけてきたり、値段交渉しようとすると逆切れして買わないならとっと帰れと怒鳴ってきたりもする。
そしてそれはこの町の市場だけに限らず、ベトナムではどこへ行っても何か買い物をする時は定価の決まっている日常生活品などまで不当に高い金額を要求され、気持ち良く買い物ができずに頭にくることが多々あった。
周辺諸国のタイ、ラオス、カンボジアなどでは、観光客相手の土産物屋などならまだしも、普通の店で売っている日々の食材や日常生活品までボってくることなどまず無いのに…。

なんだか納得いかずにむしゃくしゃした気分のまま市場での買い出しを終えた。

まだ止まない小雨の中、来た道を自転車で帰っている途中、手に持っていたさっき市場で買ったばかりの野菜や卵を入れたビニール袋が何もしていないのに突然破けてその中身全てが雨でぬかるんでいる地面にこぼれ落ちてしまった。

天気が悪い日が続き気分が晴れない上、さっきの買い物のせいでいらいらしていたところにこれだ。

ふざけるな! 
なんだ、このいいかげんで薄っぺらなビニール袋は!!
どこまで質が悪いんだベトナム製品は!!!
と、道端で一人怒りを爆発させようとしていたところ、その近くにいたおじさんたちが集まってきて地面にちらばった野菜を拾ってくれた。

そして、割れてビニール袋の中でぐちゃぐちゃになっている卵まで新しいビニール袋を近くの店からもらってきて移し変えてくれた。

よしこれで大丈夫だ!と笑顔でその新しいビニール袋を手渡してくれるおじさん。なんだかその笑顔でさっきまでのことがどうでも良くなってしまった。

そうだ、ここはベトナムなんだ。

そう思うといらいらしていた自分がなんだかおかしくなってきた。
きっとこれからも私はこうやって日々一喜一憂しながらこの町で暮らすんだ。

私はこれまで何かこの場所に残せたのだろうか?
私はこれから何をこの場所に残せるのだろうか?

続く ↓

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