やっぱり、先輩は
2018年11月。街も色めく金曜の夜。大好きなあの人に会うために、羽田空港へと急いだ。行き先は、愛媛県松山市。以前に勤めていた広告会社で、苦楽を共にした先輩の結婚式に参列するためである。
私が入社したときには、先輩はすでに肩書きを持って活躍していた。上司だからと媚びへつらうことはなく、部下だからと蔑むこともなく、皆に平等に接してくれる稀有な人だった。
締切に間に合わず、会社の床で一緒に寝転んだことがある。愚痴を聞いてほしくて、真夜中まで新宿の居酒屋にとどめたこともある。仲間と共に、一泊の富士登山に出かけたこともある。急成長のベンチャー企業では、心も体も悲鳴をあげる場面が幾度もあったが、いつもニヤニヤしながら「元気〜?」と、ユルく声をかけてくれる先輩に心底癒され、私は踏ん張れた。
5年ぶりの再会。黒留に着飾った奥様と、紋付袴姿の先輩が現れた。一世一代の色節の場でも、先輩はやっぱりニヤニヤしていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?