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「人」「締め切り」「場所」から技術書の未来を考える

この記事は「技術書同人誌博覧会 Advent Calendar 2023」の10日目の記事です。
9日目はRhodiumさんによる「同人誌即売会の準備グッズ(今年増やしたもの)」でした。

11月に開催された第九回技術書同人誌博覧会にサークル参加するだけでなく、「同人誌と商業誌の対話」というタイトルでお話しする機会を頂いたので、そこで話したことについてもう少し詳しく書いておきます。

第九回技術書同人誌博覧会とは

通称「技書博」と呼ばれる技術系同人誌の頒布イベントで、今回が第九回目でした。大田区蒲田にある大田区産業プラザPiO 大展示ホールで開催され、約500人の方が参加されたようです。

このイベントにサークルとして参加させていただくとともに、当日の昼に会場内のステージで開催された対談企画「執筆の交差点~同人誌と商業誌の対話~」にて登壇させていただきました。

この対談企画では大きく3つの話題について話しました。
1)introduction「商業誌の世界」
2)商業誌の好きなところ、同人誌の好きなところ
3)技術書の未来と、著者ができること、したいこと

このうち、1と2については、以下の技術書同人誌博覧会公式ガイドブックでも触れたので、ここでは3つ目の「技術書の未来」についてもう少し詳しく紹介します。

よく聞かれる「紙の本」と「電子書籍」の今後

出版について話していると、「紙の本が売れなくなっている」という言葉をよく聞きます。これはデータを見ても明らかで、出版全体として見たときに、紙の本の売上は減少傾向にあります。

コンピュータ書も同様なのかもしれませんが、CPU(コンピュータ出版販売研究機構)によるデータでは、コロナ禍の落ち着きもあり少し盛り返している、という状況のようです。

電子書籍はそれなりに売れているという感覚もあり、全体で見たときには出版全体を悲観する感じではないように思います。
そして、電子書籍は増えるけれど、紙の本がなくなるような感じではありません。

技術書を書く「人」の変化が必要

紙の本や電子書籍といった形態の違いよりももっと根本的な話として、技術書を書いている人の高齢化というのも今回の対談では話題になりました。
技術書を書くためには、その技術についての背景知識や深い調査が必要になります。これらには、その技術が生まれた歴史なども含まれます。

そして、過去の技術についての歴史を体感してきた世代と、若い世代では大きな差があることも事実です。たとえば、私のような40代以上のITエンジニアは、Windows 95などが登場する前からコンピュータに触れていることが多く、インターネットの普及、携帯電話からスマートフォンへの変化を目の前で見てきました。

しかし、現在20代前半の人にとっては、生まれたときからインターネットが存在し、物心ついたときにはスマートフォンやタブレット端末が当たり前のように身の回りにあった状況です。
このような世代間のギャップによる背景知識の差や、次のような理由から技術書を書くことへのハードルがあるのかもしれません。

・ある程度の経験がないと本を書こうという意識は生まれにくい
・技術書の執筆はお金にならない(ITエンジニアとしての仕事の方が単価が高い)
・マサカリが怖い
・etc

これまでに技術書を書いている人は継続して書いていることから、商業誌の著者の平均年齢が少しずつ上がっていく現状があるのかもしれません。
それでも、若い人が執筆しないと、新しい変化は生まれていかないと感じています。このためにも、今回の技術書同人誌博覧会のような気軽に発信できるイベントはどんどん活用していきたいものです。

コンテンツの制作に必要な「締め切り」

若い人もどんどん技術書を書き、情報を発信すればよいと感じるものの、やはり「きっかけ」は必要だと思います。
「アウトプットしてください」と言われても、そのアウトプットに対するモチベーションが湧かないと、なかなか人は動きません。
もちろん、X(Twitter)に投稿したり、ちょっとしたブログやQiita、Zennなどに1000文字程度の記事を書いたりするだけであれば、誰でも手軽にできるものですが、本を書くとなるとなかなかハードルが高くなります。

このように、それなりの量をアウトプットするときには、相当なモチベーションが必要なのです。そのモチベーションの1つが「締め切り」です。
締め切りがなくてもコンテンツは制作できますが、どこかで見切りをつけないといけません。「妥協」というと言葉は悪いものの、何か区切りがないといつまでも決められないことはよくあります。

商業出版の場合は、それほど締め切りは厳しくないものの(編集者の方も、ITエンジニアがメインの仕事があったうえで、その空き時間に本を書いていることをわかっているため)、それでもある程度は事前に決めたスケジュールがあります。このような締め切りを目安として執筆を進めることで本ができていきます。

商業出版以外でも同じで、何らかのイベントがあると、そこに向けて執筆しようという意識が働きます。それが同人誌即売会や、何らかの勉強会などのイベントであり、この記事であればAdvent Calendarです。

最近はKDP(Kindle Direct Publishing)などで、誰でも簡単に出版できるようになりましたが、締め切りをうまく設定しないとコンテンツは生まれにくいと感じます。

「場所」を作り、残すということ

この対談の中では、技術書の未来について考えるときに、私は「場所」が大切だという話をしました。たとえば、今回の「技術書同人誌博覧会」という場所もそうですし、商業誌では「書店」という場所、そして「図書館」という場所も該当します。

これが失われることについて、私は強い危機感を抱いています。コロナ禍では、多くのリアルイベントが中止になり、技術系同人誌を頒布するイベントもオンラインが多くなりました。これは避けられなかった一方で、出展するサークルが減ったのも事実です。

オンラインという場所でもよいのですが、やはり「場所」があるのとないのとではモチベーションが違います。
オンラインセミナーでも「後から配信が見れるならリアルで見なくてもいいや」と考える人がいるように、人が集まること、そしてそれが目に見えることの大切さを感じました。

コンテンツ作成者が作成したものを発表できる場所、コンテンツを欲しい人が購入できる場所、どんなコンテンツがあるのか確認できる場所、こういった場所がなくなるとコンテンツは生まれてこないのです。

リアルな書店が減り、電子書籍だけを発行する世界線になったとき、生まれるコンテンツの量は現在より大きく減ってしまうのではないかと危惧しています。それだけでなく、品質も下がってしまうのかもしれません。
書店を構成する書店員さんや取次、出版社、そして書店を訪問するお客さんなど、いずれかが減ってしまうだけでもコンテンツの未来は大きく変わると思います。

技術書同人誌博覧会のような場所を作り、運営しているスタッフの皆さん、そしてその会場に参加していただく一般参加の皆さんがいないと、サークル参加の価値も大きく下がります。

そのためには、サークル参加としてイベントを盛り上げることはもちろん、アウトプットはまだ難しいと感じているときも、1人の参加者としてイベントには積極的に参加していきたいものです。

まとめ

この記事では「人」「締め切り」「場所」という3つのキーワードで出版の未来について私が考えていることを書きました。
特に「場所」が大事だと最近は感じています。皆さんはいかがですか?

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