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すべての企業がSDGs/ESGを意識しなければならない理由

◆はじめに

 近年、SDGsやESGという言葉をよく耳にするようになりました。

 しかし、未だにSDGsやESG投資を単なる「社会貢献」の一種と捉えているビジネスパーソンも多いのも事実です。

 また、大企業に関しては認知が広がっているものの、中小企業に関しては、「SDGs」や「ESG投資」という言葉を未だに聞いたこともないという経営者も少なくないように思います。

 そこで、本稿では、SDGsやESGについて、「聞いたことはあるけど内容はよくわからない/取り組む必要性が理解できない」という人や、「そもそも初めて聞いた」という人に対して、その概要と重要性を理解できるよう、できるだけ簡潔にSDGsやESGについて説明しました。

◆SDGsとESG投資

 まずはSDGsとESGについてその概要を説明します。

ーSDGsとは
 SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略で、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標のことです。目標年は2030年となっています。

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 目標は17項目あり、それぞれに計169の小目標(ターゲット)が紐づいています。
(小目標にはより具体的な目標が記載されているので、是非こちらの環境省の資料などで一読してみてください。)

 SDGsには前身があり、それが2000年から2015年を期限とされていたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)です。しかし、MDGsはSDGsほど日本で話題になりませんでした。

 その理由としては、MDGsが発展途上国を中心とした課題設定(貧困の半減)であったのに対し、SDGsは途上国、先進国を問わない「世界共通の課題設定」になっていることが大きな要因です。すなわち、MDGsという貧困撲滅を目標とした限定的な取組から、SDGsという世界の望ましい将来像を実現するための包括的な取組に切り替わったといえます。

 日本においても2016年に「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が内閣に設置され、多大な予算と労力をかけて国家プロジェクトとして進められています。

★ポイント
・SDGsは2015年の国連サミットで採択された17項目の国際目標
・MDGsが途上国限定の目標だったのに対し、SDGsは全世界の共通目標
・2030年までに達成することが目標

ーESGとは
 ESGは、Environmental=環境、Social=社会、Governance=企業統治の頭文字を取ったものです。

 ESGは元々投資の世界で使われるようになった用語であり、これらの点を考慮した投資を「ESG投資」と言います。簡単にいうと、ESG投資とは、投資先の判断をする際の基準として、その企業が「環境」、「社会」、そして「企業統治」という点においてしっかりと対処しているか、将来のビジョンを持っているか、ということを考慮した投資です。

 つまり、環境や社会への適切な配慮、企業統治ができていない企業は、投資対象としての評価が下がり、投資の対象となりにくい(当然株価も下がる)というものです。

 ESG投資は、元々欧米で取組がはじまったものですが、2017年に160兆円の運用資産を持つ日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESGを投資基準として採用することを公表して以降、日本においても急激に広がりを見せ始めています。

 ここで、SDGsとESGの関係を整理しておこうと思います。

 後述しますが、SDGsの達成には莫大な資金が必要となります。そこで、SDGs達成のための資金源として期待されているのがESG投資です。つまり、SDGsに貢献するような企業・事業に資金(投資)が回るように、ESGという指標を活用しようとしているわけです。

 ★ポイント
・ESGはEnvironmental=環境、Social=社会、Governance=企業統治の頭文字を取ったもの。
・投資業界で使われ始めた用語で、ESGに配慮した投資をESG投資という。
・SDGsの目標達成のための資金獲得手法としてESG投資が期待されている。

 さて、SDGsとESGの概説はここまでとして、以下なぜこれらを理解しておくことが、現在ならびに将来のビジネスにおいて重要かという点について、ポイントを2つに絞って説明していこうと思います。

◆ポイント① SDGsやESGは世界の大きな潮流

 SDGsとESGについて、ビジネスパーソンであれば理解しておく必要がある理由として、まずそれがすべての業界に影響を及ぼす世界レベルの極めて大きな潮流であるということが挙げられます。

 どの程度の規模なのかというと、デロイトトーマツの試算によると、SDGsの17の目標それぞれについて、70兆~800兆円の市場規模があるとされています(デロイトトーマツの記事はこちら)。

 日本の国家予算が年間100兆円ほどであることを考えれば、それがどれほど大きなものかなんとなくわかるのではないでしょうか。

 さらに、2030年までにSDGsは世界で3億8000万人の雇用を生むと言われています。

 ではESGはどうでしょう。

 世界サステナブル投資連合(Global Sustainable Investment Alliance: GSIA)が発表した「Global Sustainable Investment Review 2018」によると、2018年時点の世界のESG投資額は2016年にくらべて34%増加し、30兆6830億ドルとなっています。

 これは、世界の運用資産総額の実に4分の1以上にあたる規模です。

世界のESG投資額の推移

(出典:「ESG、SDGsは世界共通の言葉!」SMBC日興証券

 日本においてもESG投資は近年急拡大しており、2018年時点で約230兆円の投資額となっています(2016年から2018年のあいだに300%以上増加)。つまり、日本の国家予算の2倍以上の資産運用に影響を与えているということになります。

 SDGsやESGが一部の地域や業界が推し進める局所的な取組ではなく、世界で数千兆円規模の資金が動く全世界的な潮流だということはご理解いただけたのではないでしょうか。

 これだけの金額が動く世界的な潮流なので、影響を受けない業界/企業はないと言っても過言ではないでしょう。

★ポイント
・SDGsの17の目標それぞれについて、70兆~800兆円の市場規模がある。
・ESGの投資残高は世界の総投資資産の実に4分の1以上にあたる規模。

◆ポイント② SDGs・ESGがもたらすチャンスとリスク

 SDGsやESGが不可避の大きな世界的潮流であるとして、正直スケールが大きすぎて自分事として落とし込めない人も多いのではないでしょうか。

 企業(人)としてこの潮流に向き合う上で重要なことは、SDGsやESGに積極的に対応することでつかめる「チャンス」と、この潮流に向き合うことを避けることで生じる「リスク」を理解しておくことです。

 まずは「チャンス」から概説します。

チャンス①:SDGsの目標達成に貢献するプロダクト・サービスの需要増大

 SDGsに巨大な市場があることは先述したとおりです。これは、SDGsのゴールとなっている17の項目が、少なくとも今後10年間の世界のニーズであることを示しています。

 SDGsの目標を正しく理解し、これらの目標の達成に寄与するプロダクトやサービスを世の中に提供することができれば、そこに需要があることは約束されているようなものでしょう(市場規模(需要)の大きさは先述の通り)。

 例えば、温室効果ガスの排出抑制に貢献するプロダクトや、脱プラスチック商品などは、SDGsやESGを推進する大手企業や政府の目に留まる可能性は高いと言えます。

 実際、温室効果ガスの排出抑制手段として各国で推進されている風力発電や太陽光発電の市場の成長は著しいものがあります。

風力・太陽光設備容量2017

(出典:環境エネルギー政策研究所「2017年、太陽光発電はついに原子力発電を抜き去った」

 このように、SDGsは拡大する市場を列挙しているようなものでもあるため、自社のビジネスをその市場に絡められれば、当然チャンスは広がりやすくなります。

★ポイント
・SDGsは世界の成長市場を示している。
・SDGsの17項目にビジネスを絡めることができれば、成長市場に参画できる。

◆チャンス②:SDGsやESGを意識したブランディングと国際市場への訴求

 SDGsやESGに係るビジネスを考える上で重要な要素の一つが、SDGsやESG(特にSDGs)が世界共通の概念であり、全世界の消費者にアピールできる要素であるという点です。

 少子高齢化に伴い、日本国内の内需は今後縮小していくことが決定的で、経済的には他国に追いつき、追い越されていくことが予想されます。当然、外需に目を向けることも増えますが、そこでの訴求のポイントになりえるのがSDGsです。

 特に、欧米ではSDGs(すなわち環境や社会問題)に対する消費者意識が日本よりも高く、SDGsを打ち出した商品は消費者にアピールしやすいと言えます。

 米国の「ビヨンド・ミート」という企業をご存じでしょうか。

 牛肉よりもはるかに環境負荷の小さい植物性人工肉を扱うこの会社は、2019に上場し、上場初日に株価が2倍以上に上昇、その後7月には上場時の10倍の値をつけました(米国では、大豆由来のパティを使ったバーガーが当たり前のように販売されている)。

ソイ野菜バーガー

(ロッテリアのソイ野菜ハンバーガー。台湾のモスバーガーでは、去年からビヨンド・ミートの代替肉を使った「MOS Burger with Beyond Meat」を販売している。出典記事はこちら

 このビヨンド・ミートの大躍進は、ベジタリアン/ビーガンの急増というSDGs時代の消費トレンドに乗って成功した分かりやすい例でしょう。

 元来日本文化や習慣は「自然との共存」を基礎としている側面が強いため、SDGsの潮流に乗って海外に魅力を発信できるコンテンツは十分にあると思われます。

 また、SDGsに貢献するようなコンテンツがブランド価値を有するのは何も海外に限った話ではありません。ご存じの通り、現在の20代、30代は、高級車に乗って高い時計を身に着けることにそこまでの関心を持っていません。

 消費者意識の変化は、さまざまな形で表れ始めていますが、その一つが近年の「エシカルファッション(環境や社会に配慮したファッション)」の流行です。

エシカルファッション Enter the E

(エシカルファッションショップ「Enter the E」の店舗。画像引用元記事はこちら

 2019年に豊島株式会社の実施した調査によると、消費者の70%以上が環境に配慮したファッションを取り入れたいと考えており、約70%が環境に配慮した素材を使ったブランドに対してイメージが向上すると答えています。

エシカルファッションアンケート1

エシカルファッションアンケート2

(出典:豊島株式会社「【ファッションの環境意識調査】70%以上が「エシカル・サステナブル」取り入れたい~取り入れ理由「自己表現」は20-30代男女で差あり~最も身近な素材はオーガニックコットン、労働環境・賃金問題が関心分野」

 また、SDGsやESGに取り組む企業は、採用市場においても有利になりそうです。

 デロイトトーマツが2018年に実施した調査によると、企業が達成すべき優先課題として、ミレニアル世代(1983年~1994年産まれ)の39%が「地域課題の改善」、33%が「環境の改善と保護」と回答しています(これは企業が自組織の優先事項の認識と大きく異なっています)。つまり、これらの点を考慮した企業はミレニアル世代にとってより魅力的な企業だといえます。

ミレニアル世代優先課題

(出典:2018年 デロイト ミレニアル年次調査

 こうした例はSDGsやESGの潮流のほんの一部にすぎませんが、SDGsやESGの潮流に乗ることでビジネス的に発展が見込めることは確かでしょう。

★ポイント
・SDGsやESGは、世界の消費者に対するアピールポイントになる。
・SDGsやESGへの取組は、人材確保(採用)のうえでも重要。

 では、反対にSDGsやESGの潮流について対処すべきリスクとは何でしょうか。以下、SDGsやESGに取り組まないことによって生じるリスクについて概説します。

◆リスク①:業界スタンダードの変更に伴うリスク

 近年世界各国で、SDGsやESGの推進のために、様々な業界がスタンダードを変更しはじめています。

 SDGsへの貢献やESG投資基準が業界のスタンダードになると、そのスタンダードを満たさない企業や商品・サービスは市場から締め出されることになります。この点は、SDGsやESG投資が大手に限った問題だと考えている中小企業が大いに気を付けなければならない点です。

 SDGsの達成に貢献しない経営を続けていると、取引先の大手企業から取引の中止を言い渡されるリスクがないとは言いきれません。

 例えば、米国最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートでは、2025年までに取り扱う魚介類のすべてを、「サステナビリティ認証」を取得しているものに置き換えることを宣言しました。

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(アメリカ最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマート。画像引用元記事はこちら

 また、仮に大手との取引がなかったり、大手企業が積極的でなかった場合でも、政府主導で様々な業界に関して規制が強化される可能性もあります。

 例えば、使い捨てプラスチック規制の動きが近年活発になっており、フランスが今年から使い捨てプラスチック容器を原則使用禁止としていることをはじめ、イタリア、イギリス、台湾、サウジアラビア、コスタリカなどで規制強化が進んでいます(参照:プラスチックを取り巻く国内外の状況)。

 また、我が国の「SDGsアクションプラン2020」でも、プラスチックごみの扱いにかかる規制や、時間外労働の上限規制などについて触れられています。

 ただし、このリスクは裏を返せばチャンスにもなります。すなわち、スタンダードが変更になったとして、すでに対応済であればその分競合よりも有利になることは明らかです。

 業界の動向をフォローしつつ、可能な限り先んじて対応することで、大きなチャンスを掴むことが可能となるでしょう。

★ポイント
・業界のスタンダードがSDGs/ESG仕様に変化しており、対応できないと市場から弾かれることになる。
・スタンダードを先取りすることでチャンスを掴むことも可能。

◆リスク②:事業の持続可能性(サステナビリティ)に係るリスク

 環境や社会への配慮を欠くと、事業の継続自体が困難になるケースがあります。
 この点が顕著に表れている例は、インドにおけるコカ・コーラ社の工場停止問題でしょう。

 インドのケララ州において、1998年コカ・コーラ社はインド最大の工場の操業を開始しました。しかし、1日150万キロリットルの地下水を汲み上げた結果、地下水が枯渇し、2004年の裁判によってコカ・コーラ社は取水を禁止され、工場は閉鎖を余儀なくされました。

インド・コーラ・デモ

(コカコーラ社前での抗議活動。画像引用元記事はこちら

 2004年以降もインドでは、コカ・コーラ社やペプシコ社に対するデモやボイコット、訴訟などが行われており、地域の環境(水資源)や地域社会への配慮が不十分であったことにより多大な損失を被っています。

 このように、多くの企業活動は自然資源や地域社会に依存して成り立っています。飲料メーカーなら水資源、農業ならミツバチなどの花粉媒介者、仮に直接的に目に見える依存が少なくても、必要不可欠な資材の生産が社会的な不安定性を抱えている途上国で行われているかもしれないし、また、どんな事業であっても電気(エネルギー)という資源に依存した生産物を利用しているでしょう。

ミツバチ2

(ミツバチは花粉を媒介することで、農業生産に多大な貢献をしている。米国だけでも、年間150億ドルもの貢献になると試算されている。しかし、近年農薬の影響などで生息数が激減しており、農業生産への影響も懸念されている。画像引用元記事はこちら

 事業が長期的に存続していくためには、短期的な収益構造だけでなく、事業がどのような自然資源、人的資源に依存しているかを見直したうえで、その長期的な持続可能性を担保できるよう考えなければなりません。

 そもそも世界の経済界がなぜSDGsやESGに本腰で取り組んでいるかというと、それが長期的な利益を確保するうえで重要だということを認識しているからなのです。

 SDGsやESGを推進することは、事業の持続可能性の根源たる自然資源や人的資源を守り、長期的に発展していくうえで欠かせないことだと言えるでしょう。

★ポイント
・SDGsやESGの推進は、事業の基盤となる資源を守ることにつながり、事業の長期的な発展に寄与する。
・SDGsやESGの視点を考慮しない場合、事業の継続性が危ぶまれる。

◆まとめ

 本稿では、すべての企業がSDGsやESGについて理解しておく必要性について概説しました。

 本稿において伝えたかったことをまとめると、以下の2点に集約されます。

★キーメッセージ
① SDGsやESGは、天文学的な金額が動く世界レベルのトレンドであり、どの業界も無関係でいることはできない。
② SDGsやESGを理解していないと、大きなチャンスを逃す/リスクマネジメントができない可能性がある。

 本来であれば、具体的なアクションの起こし方や、個別の事例の深堀り、SDGsやESGが重要視されるようになった経緯など、お伝えしたい点は多いのですが、1冊の本になってしまいそうなので、まずは「知っておかないとまずいな」と認識していただければ幸いです。

 ご存じの通り現在市場は大変厳しい状況です。しかし、日本企業はリーマンショック時にコストカットに注力し、CSR部門を縮小したことで、逆に不確実性への対処として持続可能な経営(サステナブル経営)に舵を切った欧米企業にSDGsやESG経営の面で溝を開けられました。

 現状維持が困難な今だからこそ、より長期的な視点に立ったSDG/ESG経営に取り組む企業が増えてほしいと心から思う次第です。

*あとがき*
 最後まで読んで下さり誠にありがとうございます。もし勉強になった、面白かったという方は、是非いいね(スキ?)していただければと思います。
 また、これから主に環境やビジネス関連の記事を書いていこうと思いますので、よろしければフォローしていただけると幸いです。
 もしSDGsやESGに取り組みたい法人様がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
 サステナブルな事業の推進、そしてサステナブルな社会の構築に少しでも貢献できれば幸いです。
             株式会社マイズソリューションズ 舛田 陽介

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