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チョコ業界の通訳で僕を困らせた言葉

こんにちは、日伊通訳 マッシ(@massi3112

2月12日はヴェンキOtemachi One店でヴェンキのレシピ開発責任者GBさんチョコレートジャーナリスト市川さんのトークイベントがあった。そこで日伊通訳を担当させていただいた。

ツイッターとnoteではフードや食文化の話が多いけど、実は僕の本業は日伊逐次通訳。コロナ禍で休業になっていた本業は少しずつ戻っている中で、故郷の大好きなヴェンキの通訳をする日が来るなんて、通訳者として夢の一つが叶った。しかも、日本唯一のチョコレートジャーナリストにも会えて嬉しかった。

トークイベントは1時間の予定だったけど、イタリア人のGBさんの情熱で1時間半を超えた。ピエモンテ産の食材やこだわりから伝統とイノベーションのミックスまでだけではなく、カカオの歴史やコロンブスが持って帰ってきたカカオの種から現在のアレンジまでたくさんの話があった。

一般人から見ると、チョコレート商品はカカオで作られて加工することで商品化になると思われがちだけど、チョコレート職人さんにとってはそうではない。まずは自分のこだわり、体験してもらいたい思い出、アレンジ開発の部分が深い。
通訳者として、チョコレートと職人さんの間にある赤い糸をどう通訳してわかってもらえばいいのかと考えた時に、チョコレートを食べた時の自然な笑顔が出るようにした。「言葉をそのまま訳す」ではなく、「目に見えないチョコレートの甘味」の気持ちに乗って、職人さんと手を繋いで旅に出るような通訳現場にした。

僕も楽しく話を聞きながら通訳中に、参加者に言葉で作ったチョコレートを贈るような作業になっていると感じていた。この場合、気持ちなしで硬く通訳してしまっては参加者との関係も遠くなって、訳してる言葉は耳に入るけど、何も残らない。楽しさ、美味しさ、アモーレなども感じない。話者の情熱と参加者の心のバランスを短期間で考えて訳す、言葉だけではなく心の言葉も訳すのが通訳者の仕事なのだ。

レシピ開発責任者のGBさんの深い話を聞きながら、チョコレートジャーナリスト市川さんの話を聞くたびにチョコレートの深さと情熱が強く感じていて、とてもいいエネルギーをもらえた。

たった8g〜10gのチョコレートには、深いストーリーと情熱が入っていること。
最初から「これは小さなチョコレートではなく、職人さんの人生」だと考えを切り替えたことで、そのチョコレートは職人さんの「ココロ」に見えてきた。

チョコレートの通訳は順調に進んでいて少しずつ自信も出てきた僕の目の前に、敵の言葉が現れた。シンプルな言葉でイメージが出やすいけど、訳すのが非常に難しかった。その時はちょうど1時間半くらいの通訳の疲れが出てきていて、パッとすぐ訳せなかった。その時、隣にいたヴェンキ・ジャパンの方に助けてもらった。
そんな僕を困らせた言葉は「Allegria」だった。簡単に見えて「喜び」「楽しむ」「陽気な気分にする」のような意味になるけど、ニュアンス的には少し違う。

ヴェンキ・ジャパンの方と話したら、ヴェンキ本社は「Allegria」という言葉だけ、英語に訳さない。英語に訳した文章に「Allegria」が出てくる。イタリア人にとって、大切な言葉だから訳してしまうと違うニュアンスに変わってしまうからだ。

この「Allegria」はまずは、生きているだけで、好きなことができるだけで、喜ぶ、嬉しくなる。だけど、この気持ちで人生をワクワクしながら自然に笑顔が出たりする。何かの理由で喜ぶのではなく、新しい日が始まっただけで1日中笑顔が止まらない。そんなような意味合いの言葉だ。

今、よく考えたら、ヴェンキのレシピ開発責任者もきっと、毎日起きるだけで「Allegria」の気持ちで、最高の1日をかけて最高のチョコレートを作っているのだろう。

チョコレート業界の通訳で困った言葉から人としても通訳者としても、一つの成長ができた。そして、このイベントに関わってくださった全ての方、何よりイベントに参加していただいた皆さんに「Allegria」で喜んでいただけたら最高に嬉しい。

Massi

みなさんからいただいたサポートを、次の出版に向けてより役に立つエッセイを書くために活かしたいと思います。読んでいただくだけで大きな力になるので、いつも感謝しています。