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GDPで景気の良し悪しがわかるのは、なぜ?(GDPとは何か、その5)

【「GDPとは何か」】前回までの記事
「お金を使うと景気は良くなる」は本当か
国の借金は景気を良くすることにつながるのか
「借金システム」がちゃんとしてないと、経済は回らない
投資なら国の力でどんどん伸ばせるのか?

国内で生まれた「稼ぎ」の合計がGDP

前回までは、GDPを「国民所得とその使いみち」という観点からお話していました。

ただ、GDPのもともとの意味は「粗めに計算した国内の生産の合計(Gross Domestic Product、国内総生産)」です。

そこで、生産からみたGDPのお話をしていきましょう(高校の『政治経済』では、もっぱらそういった意味でGDPを教えています)。

まず、GDPは、難しい言葉を使うと「付加価値」の合計である、というお話をします。

付加価値について、誰かに怒られるくらい簡単に説明すると、「売上から、原材料費や燃料代など、生産に必要なものを差し引いた金額」です。

(高校の教科書では「総生産額 − 中間生産物の価額」と表されます。原材料や燃料などが「中間生産物」、それを使って作られ販売されるものが「最終生産物」です。)

単なる「生産コスト」ではないことに注意してください。人件費は、差し引くものに入りません。

原材料などを使って「どれだけ稼いだか」=GDPの概念

GDPは売上の合計ではなく、付加価値の合計

もし、ある国に、上の図のように、パン屋と製粉業者と農家しかない国があるとします(「あるわけないだろ!」と思うかもしれませんが、あくまで仮定ですよ(汗))。

それぞれの生産物と売上額(生産額)は、次のようになっています。

・農家   小麦  150万円
・製粉業者 小麦粉 200万円
・パン屋  パン  250万円

これだけ見ると、この国の総生産額は

150万円+200万円+250万円=600万円

となりますが、これでは、どれだけ「稼いだ」のかが、さっぱりわかりません。

そこで、原材料費を差し引きます。

農家だけは、肥料を輸入していたとします。その肥料代が100万円で、それだけで小麦を作っていたとすると、「稼いだ」金額は

150万円(小麦の売上)− 100万円(肥料代)=50万円

となります。これが、農家が稼いだ(生産した)「付加価値」です。

製粉業者は、この農家から買った小麦だけを原材料にして、小麦粉を作ったとします。製粉業者の稼いだ(生産した)付加価値は、

200万円(小麦粉の売上)− 150万円(小麦代)=50万円

となります。

パン屋は、この製粉業者から買った小麦粉だけを使ってパンを作ったとすると、パン屋の稼いだ(生産した)付加価値は、

250万円(パンの売上)− 200万円(小麦粉代)=50万円

となります。

GDPは付加価値の合計なのですから、この国のGDPは

50万円+50万円+50万円=150万円

となるわけです。

GDPを見ることで景気がわかるのはなぜか

こうして生まれた付加価値は、下の図のように、労働者・企業・銀行や株主などに分配されます

そして、それらは、消費と投資として支出されます貯蓄=投資と考える、というお話はこの回でしました。)。

付加価値はすべてどこかに分配され、何かに支出される

つまり、

GDP=生産された付加価値の合計  …(1)
   =人々や企業の所得の合計   …(2)
   =消費・投資という支出の合計 …(3)

であるため、(1)=(2)=(3)となります。

(このことを難しい言葉で「三面等価の原則」といいます。)

前回までは(3)によってGDPが決まるというお話をしていました。今回は(1)によって決まるというお話をしています。これらは、何も矛盾しているわけではないのです。

むしろ、

消費や投資を増やしてGDPを増やそう
付加価値を高めてGDPを増やそう
賃金を高めてGDPを増やそう

というように、GDPを増やすアプローチはたくさんある、ということなのです。

そして、ここまでのお話でわかるのが、GDPと景気の関係です。

GDPは景気の良し悪しをはかるうえで重要な指標

GDPは付加価値の合計であると同時に、賃金など所得の合計、そして消費など支出の合計なわけでした。

したがって、GDPが増えているときは、所得も増えていて、かつ、みんなお金を使っているわけだから、景気が良い。反対に減っているときは景気が悪い。というように、今の景気や経済の状況を、わかりやすく捉えることができるのです。

そのため、GDPというのは、経済にとって大事な指標とされているわけですね。

もっとも、GDPは景気を見る指標として、決して万能なわけではありません。それはまた、次回お話していきたいと思います。

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