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スポーツにおける”スマート“な IoT 活用の進展: シューズ、シャツ、ボール、ヘルメット

本記事は、スポーツにおける IoTの活用に関する記事です。


スポーツにおける IoT 活用の進展

5Gの本格普及や、エッジAI を駆使したエッジコンピューティングというITアーキテクチャ概念の浸透により、昨今、IoT活用の気運が高まってきているように思います。IoTは組織や個人が直面するあらゆる問題やタスク、状況をより良く理解し、洞察するために、データの力を活用することを可能にします。スポーツの世界においても従来のデジタルデバイス、ガジェットを使うという限定的なユースケースから、データを収集し、メトリクスを計測し、チームの戦術の改善、選手のパフォーマンス向上や怪我の防止を支援していく等、あるいは、それらのデータをファンに提供することでエンゲージメントを高めていくという広がりを見せています。


今回の記事では、IoT活用の進展について、特に、チームや選手が用いる方向性で述べてみたいと思います。


2つの主なベネフィットと1つの課題

IoT を選手やチームが使うというところでは、2つの主なベネフィットと1つの課題があります。ベネフィットとは、「選手の育成・パフォーマンスの向上」「安全性の向上・怪我の防止」であり、1つの課題とは、「データの統合が不十分であること」です。


ベネフィット:選手の育成・パフォーマンスの向上

IoTは、コーチがトレーニングを促進したり、選手の体調を管理したり、各試合の重要な状況に対処したりする方法に変革をもたらしています。センサーと現代的アナリティクスツールを組み合わせることで、コーチは膨大な量のデータを簡単に解析して、選手のパフォーマンス、その効率性、相手の弱点に関するメトリクスを取得し、ゲーム内の戦略をより良く練ることができます。トレーニングや試合中のどこで休むべきなのか、トレーニングのどの練習を省略できるか、鍛えている各筋肉のバランスはよいか。様々な観点で育成をはかっていくことができるようになっています。また、Fitbit、Apple Watch、Pelotonバイクのような個人用のデバイスも増えてきたため、選手個人でも十分に活用する機会が広がってきました。

例えば、選手は自分が何をしたか、どこがうまくいったか、どこを改善できるか、そしてそれが前回同じことをしたときとどのように一致しているか、というフィードバックを得ることができます。長期間に渡ってこのデータを収集することで、選手は自分の強みと弱みをよりよく理解し、次のレベルへの向上のステップを進むことができます。そして、このようなデータは他の選手のデータと比較をすることができます。もちろんこれは、相手と戦い、勝つスポーツにおいてはとても重要なことですが、そのような相手との直接の対峙がないスポーツ(例えば、マラソン、サイクリング、スキー等)においても意味があります。また相手がいないような純粋に楽しむための個人のランニングやサイクリングでも、他のランナーやサイクリストと距離や時間を比較することで、自分の成長、ペースバランスやどこで休憩をとるべきか等の理解を深めることができます。これは、選手にとってはモチベーション向上のための強力なメカニズムでもあります。


ベネフィット:安全性の向上・怪我の防止

IoTは、スポーツドクター、チームドクター、理学療法士がデータの活用による状況の把握、選手の体調の理解・管理を行うのを助けます。スマートシューズ等の組み込みデバイスは、アスリートの活動をリアルタイムにトラッキングでき、その全体像の把握を促します。それにより、怪我の可能性を減らしたり、怪我を早期に発見することを可能にします。実際に怪我をした場合でも、怪我の深刻度合いを測定したり、選手の回復の状況を見える化して早期回復を支援し、結果としてチームが組織が選手の寿命と健康のために最善の判断を下すことを可能にします。


IoTソリューションの例

ここで、上記の2つのベネフィットをもたらす IoT ソリューションの例をいくつかあげてみます。


スマートシューズ

まずは、スマートシューズです。Underarmour社では、Connected Shoes という名称でスマートシューズをリリースしています。

これらの靴は、アスリートのスピードとフットワークをトレースし、スマホで手軽に確認することを可能とします。靴の中の圧力センサーが、加重のかけ方や左右のバランス、加速度、最高速度、制動(ストップのかけ方)を測り、スタミナを計算します。これらがさらなるパフォーマンス改善の重要なインプットになります。


日本の no new folk studio(ノーニューフォクスタジオ)社は、アシックスと組んでスマートシューズ EVORIDE ORPHE を提供しようとしています。内蔵されているセンサーにより、ランナーの足運びやメカニズムを解析し、ランニング中に音声によるリアルタイムフィードバックを行います。また、ランニング後には走りの評価、足運びの指導、トレーニング方法の提案によって「よりよい走り方」に近づくサポートを提供するとしています。


韓国の Salted Venture社は、自分のシューズをスマートにしていく Smart Insole を販売しています。センサーにより中心圧、足圧分布、左右バランスを測定し、ユーザーはバイブレーションによるリアルタイムフィードバックを得ることができます。これにより、歩き方やゴルフのスイングにおけるバランスの悪さ等をより深く知り、適切に修正することが可能です。これは、スポーツのパフォーマンス向上とともに、より健康的な歩き方・姿勢への矯正にも役立ちます。


スマートシャツ

続いての例は、スマートシャツです。

カナダの Carre Technologies社が、IoTセンサーを備えたスマートシャツ「HEXOSKIN」を開発しています。「HEXOSKIN」は着ているだけで、心拍数、呼吸数、加速度(G-forces, 身体の動き)等が計測されるセンサーを備えています。呼吸数の測定は、胸部が1分間に何回膨らみ、何回収縮するかをカウントすることで動作するという優れものです。Bluetoothでのペアリングにより、スマートフォンやパソコン等でデータのモニタリングと分析が行えます。


カナダのモーグル選手のジュスティーヌ・デュフール=ラポワントは、HEXOSKINを活用しトレーニングのクオリティを高めて、2014年ソチオリンピックに臨み、見事金メダルを獲得しています。また、NHL(北アメリカのアイスホッケーリーグ)では、選手の怪我から回復にHEXOSKINを用いています。

以下のCBCのビデオでは、スマートシャツにより選手の育成・強化を行う模様が紹介されています。


他にも、Sensoria 社がジョギング、ランナー向けのスマートシャツを販売しています。Sensoria社は前述したスマートシューズのような機能を持つスマートソックスも販売しています。あわせて心拍数、足の着地率やランニングのリズム、ランニング中の衝撃力等を計測してフィードバックし、トータルにランナーをサポートするシステムへと発展させています。


スマートボール

次に、スマートボールです。

各種スポーツ用品を製造している Wilson 社は、アメフト用の「X Connected Football」というスマートボールと周辺システムを提供しています。 このフットボールにはセンサーが内蔵されており、クオーターバックから投げられたボールのスピンレート、スパイラル効率、距離をトラッキングできます。 また、ボールが体にぴったりと密着して適切に保持されていないと信号を発する等の機能も持っています。データはスマートフォンでリアルタイムに閲覧、分析が可能で、チームの強化や戦術立案に役立ちます。


また、バスケットボール用の「X Connected Basketball」もあります。このスマートボールは、バスケットボールの試合において、コート内の様々な場所でチームがどのように効率よくシュートを打ったか、あるいは相手にシュートを許したかを記録してくれます。そのため、チームの強み、弱みを簡単に特定することができ、フォーメーションや攻め方の工夫を行うことが可能になります。


スマートヘルメット

スマートヘルメットです。これは2つのベネフィットの中でも特に、選手の安全のために開発されているソリューションです。

スマートヘルメットは、ヘルメットをかぶる野球やアメリカンフットボール、もしくはバイクレース等の選手の安全を向上させる活用が期待されています。他のデバイスと連携し、ヘルメットをかぶっている選手が豪速球がぶつかったりして大きな衝撃を頭部に受けた際、センサーがその衝撃を計測して即座にレポートします。この情報はすぐに医療チームに共有され、医療チームは治療の重症度を知るための重要なステップを踏むことができます。

アメフト関連用品を製造している Riddell社は、スマートヘルメットをいくつかリリースしています。頭部への衝撃のデータを集め、怪我防止や選手の健康維持への施策に活かしたり、またトレーニングのプランニングや、ゲームにおける選手のポジションニングの戦略に活かす取り組みを行っています。


また例えば、Gridiron Tech社が販売しているヘルメットの内側につけることでスマートヘルメットへと変える、Shockbox というセンサーがあります。頭部に衝撃を受けた際に、コーチや医療チームが持つスマートフォンやPCにその衝撃の度合をレポートし、いざというときの迅速な処置をサポートします。


課題: 活用できるデータが十分に統合されていない

ここまで見てきたように、IoT ソリューションがスポーツにもたらすベネフィットは選手のパフォーマンスや健康にとって非常に大切です。ですが、IoTの活用に関しては、大きな課題が存在します。現在、多くのチーム、組織、スタジアムにおいてIoTの設備やツールを導入し、テクノロジーを活用しようと試みています。しかし、個々のソリューションが独立しており、連携していないことが多くあります。チームは複数のソースから選手のデータを収集していますが、ソリューションのサイロ化状態によって、これらのデータは適切に統合されていないことが少なくありません。これではスポーツでIoTの潜在能力を十分に発揮することは困難です。チームや組織は、各IoTのソリューションが十分に連携され、データが統合された状態で利用できて初めて、前述した2つのベネフィットを最大化することができます。すべてのデジタルセンサー、ビデオカメラ、ウェアラブルデバイスからのデータストリームを整理し、データ管理の基盤を持つことが重要です。


終わりに

スポーツの世界においてもIoTの導入は進んでおり、選手の育成・怪我の防止・安全性の向上といった選手生命にとって基礎となる部分において、活用されています。しかし、同時にデータが統合されず、効果的な活用が阻まれているケースがあります。IoT による各種ソリューションはまだ発展途上にあり、様々な部分的試行錯誤を繰り返す段階にあるため、そのような課題も避けがたいところがあります。ですが、ソリューション連携・データ統合に関する視点も持ちながら、場合によってはデータ管理の基盤を整備しつつ、よりよいスポーツと選手たちの活躍のための活用を進めていければと思います。


おまけ

Podcast でも、スマートなウェアラブルデバイスについて解説しています。もしご興味がありましたら、こちらもチェックください。


おまけのおまけ

スポーツでのIoT活用に関しては、こちらのスタジアムでの活用の記事もご覧ください。


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