見出し画像

スマートスタジアム:高度な IoT で変わるスタジアム体験

先日、データサイエンスによりバスケットボールに変革がもたらされたという記事を書きました。

データの活用を支えているのはデータの取得手段の向上です。近年、モバイルコンピューティングを含む IoTといわれる領域において様々な技術、デバイス、ソリューションが登場しており、リアルタイムでの試合状況、あるいは選手のコンディションやパフォーマンス等の多様なデータが入手できるようになりました。また、今後本格化する 5G や普及するエッジAIも相まって、IoT はスポーツの体験そのものも変えていく基盤になりつつあります。本記事では、IoT がスポーツ体験をどうデジタルへ導いているのかについて、その中でもスタジアム体験の変化について書きます。


スポーツスタジアムでの活用

現代のビッグデータ、エッジコンピューティング、そしてDXを支える IoT において、その核となる概念は、ローカルに配置された技術、センサー、デバイス、ソリューションの相互接続性と同期性です。相互接続し、ローカルのネットワークの中でセンサーにより検知・感知されたデータを、時にはクラウドへ送信して、時にはエッジAIによりそのまま直接的に解析し、判断を行い、互いにリンクしたデバイスが同期して動作し、アクションを実施します。この相互接続性と同期性によって実現されたシステムは、工場、農場、小売の店舗など、様々なフィールドで稼働しています。そして、スポーツスタジアムというフィールドでも活用が進んでいます。


初期の事例: Eyevision

以前からスタジアムでは多くの新しい技術を応用してきました。例えば、画像解析技術であるコンピュータ・ビジョンは、2001年にカーネギーメロン大学の金出武雄先生によって、大規模に活用されています。


フロリダ州タンパのレイモンド・ジェームズスタジアムにおけるスーパーボウルの試合に導入されたこの Eyevision は、30台のテレビカメラを接続し、パン、チルト、ズーム、フォーカス、それぞれを同期して制御、撮影を行う画期的なシステムでした。映画『マトリックス』における特撮のような試合映像をリアルタイムで楽しむことができ、新たな視聴体験をスポーツファンに提示しました。


リーバイス・スタジアムの事例

この Eyevision の例のように、スポーツテック、そしてIoT は我々の体験を変えていきます。それは何も観戦だけにとどまらず、スタジアム全体の体験も変えていきます。例えば、アメリカンフットボールのチーム、49ersの本拠地であるリーバイス・スタジアムは、スマートスタジアムの先駆けとして大きな注目を集めています。IoTを活用し、試合中のリアルタイムでのデータ閲覧や、トイレの空き状況の可視化、混雑状況を可視化し、警備員の最適配置等、顧客体験を向上させる様々な取り組みを行なっています。


リーバイス・スタジアムは、サンフランシスコはシリコンバレーの心臓部にあります。IoT技術がふんだんに使われたスマート化の取り組みにより、スタジアムでは、7万人以上のファンがWifi 等ネットワークに接続してパーソナライズされたサービスを利用でき、イベントをより楽しく体験しています。元々アメリカンフットボールの試合で行われるアクションの量は、15分程度しかありません。そのため、観客はライブプレイが行われていないときに、飲み物や食べ物を楽しむことに加えて、試合の統計情報やリプレイ等にアクセスしたいと思っています。

以前執筆したツール・ド・フランスでのDXの記事では、ファンがスマホやタブレットで自転車レースの様々な情報を手に入れることを可能にした例を取り上げました。この試みにおいて、ファンが持っているスマホやタブレットは、テレビのスクリーンに続くものとして、二番目のスクリーンと呼ばれ、新たなデジタル時代の価値が提供されました。ファンは、二番目のスクリーンにより、選手の調子、位置、登りスピードの速さ、離脱の成功の可能性、重大な瞬間の可能性についてのアラート、天気の様子までもリアルタイムにアクセスすることができ、より深く立体的にレースを楽しむことが可能となったのです。


IoT のインフラ

リーバイス・スタジアムでも、ファンが持っているスマホやタブレットでの新たな体験を付加するために、スタジアムのITインフラの増強に取り組み、400マイル分のケーブルを敷設し(そのうち 70マイル分は、スタジアム全体の100席ごとに設置されたWifiルーターにサービスを提供する1,200個の分散アンテナシステムの接続に使われています)、毎秒40ギガビットのバックボーンを備え、米国内の平均的なスタジアムの40倍のインターネット帯域幅の容量を確保しました。また、スタジアム内に、 BLE(Bluetooh Low Energy)規格のビーコンを約1,700個設置。これらのビーコンにより、後述する観客の誘導やプロモーションを実現しました。


ファンのエクスペリエンスを高めるアプリ

観客はスマホやタブレットのアプリを使うことで、リーバイス・スタジアムで整備された IoT の恩恵を受けることができます。例えば、スタジアムに着いた際、自分の席に一番近い駐車場入口まで案内され、中に入ると実際の席への誘導を受けることが可能になっています。また、他の場所への最適なルートも提供されており、最短距離で近くのトイレに行くことができます。

もちろん、アプリを通して、ファンは試合をライブで視ることができ、また統計情報やリプレイにもアクセスができます。加えて、ファンはスタジアム内のどの席からでも食べ物や飲み物を注文することができ、それは彼らの席に直接届けられます。また、座席から食べ物を注文して、売店のエクスプレスラインで待たずに食べ物をピックアップするというオプションも選べます。加えて、アプリにおいて、座席に基づいた近い売店からのプロモーションやお得な情報も受け取ることが可能です。様々な点で、ファンのスタジアム内でのエクスペリエンスを高めることが実現されています。


日本でのスマートスタジアムの取り組み

翻って、日本国内の事例では、NTTと大宮アルディージャによる実証実験や、楽天イーグルス・ヴィッセル神戸のスタジアムにおけるキャッシュレスペイメント等の取り組みに留まっており、今後の本格的なスマートスタジアムの誕生が待ち望まれます。


筆者が、楽天技術研究所 所長時代に、楽天技術研究所のチームが手掛けたものとして、楽天イーグルスのスタジアムにて実施した次世代スマートスタジアム等の実現に向けた5G実証実験があります。


また、キャッシュレスペイメントにつながる試みとしてチケットレスソリューションの実証実験。


他にも、楽天イーグルスのスタジアムにおいて、オーロラビジョンとファンのスマートフォンをつないで楽しむ、大規模インタラクティブコンテンツの展開があります。IoTソリューションによるスタジアムのデジタル化の一つのケースになるかと思いますが、こちらの話はまた別の機会に、記事にしたいと思います。


最後に

リーバイス・スタジアムのケースは、シリコンバレーの中心部に位置することから、各テック企業によるテクノロジーのショーケースである面もありますが、間違いなくスポーツスタジアムのこれからのスタンダードであろうかと思います。IoT ベースのスマートスタジアムは、スポーツとそしてスタジアムにおけるファンの体験を進化させます。COVID-19 のアウトブレイクを経て、混雑緩和等、感染防止の文脈においてもスタジアムのスマート化が求められていく今後において、5GやAI、エッジコンピューティングの発展により、ますます高度化する IoTを駆使して、よりスポーツを楽しむようになればと思います。


おまけ

スマートスタジアムはファンの観戦体験を変えていくと書きました。筆者が所属するデロイトデジタルにおいて、国別のスポーツ観戦文化を調査したレポートを出しています。今後の、スマートスタジアムにおいてテクノロジーでどのようにファンのUXを高めていくべきかのヒントとなるかと思います。ご興味がございましたら、こちらも御覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?