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神経多様性 (ニューロダイバーシティ)について:多様性に社会もまた支えられていることの気づきを


Cover photo "Male whale shark at Georgia Aquarium" by Zac Wolf under CC-BY-SA-2.5

 以前、それぞれの特徴をもった異なる組織、チーム、人々が、お互い協力をしあった方が、全体のパフォーマンスが高まることを、経済学の「比較優位論」を引用して述べた。この例にあるように、多様性というのは全体の利益を向上させる上でとても重要な概念になる。


 また、先日、書籍の Factfulness に関する記事を書いた。Factfulness において、著者である統計学者の Hans Rosling 氏は、教育が時代にあわせてアップデートされておらず、昔の統計的事実を今の教育においても教えていることが、人々の世界に対する理解を間違わせている原因の一つであると指摘している。


 多様性(ダイバーシティ)という言葉を使う時我々は、男女の共同参画だったり、人種差別を排除することだったり、そういうことにフォーカスしがちだ。しかし、多様性はそれだけに留まらない。もちろん生物多様性のことを意味するわけではない。現代、神経多様性という概念をもって、我々がもつ多様性という観念をアップデートしていく意義が議論されている。


神経多様性とは比較的新しい概念だ。人々の間に普通に存在する神経学的な差異を適切に認識し、理解し、共感し、受け入れ、尊重することだ。

 例えば、自閉症やADHDといった、個々の人間の神経学的な差異とは、従前、機能不全や障害の一つと見られてきた。現代のメンタルヘルスにおける医療モデルにおいても、神経学的に異なるメンタルをもった人たちが自分自身をどう受け入れていくかについて、ほとんど関心を払われない。

 Global Burden of Disease Study 2015 によると、世界では自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ人は 6220万人程、注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ人は5110万人程いると推定されている。現在2019年における地球上の人口が77億であることを考えると、それぞれ120人~160人に一人の割合になる。

 自閉症の人々の中に、極めて高い記憶能力・知覚能力があることは知られている。ADHD を持つ人は、目まぐるしく変化する状況の中でも、破天荒であることも創造的であると評価される環境においては、その能力を発揮する傾向がある。アートはもちろんそうだし、スタートアップも活躍していく領域になりうる。
 もしそれらの特徴を持つ子供を親としてもってしまったのなら、子供に環境に適合するように強制させるのではなく、子供にあう環境を探す、選ぶのも一つの道だ。それは画一化された伝統的価値観を強くもつ社会の中では簡単にできうることではない。しかし、自閉症やADHDの人たちにとって、自分の居場所を見つけ、自分自身にとっての価値観を作っていくことは才能を伸ばすことにおいて大事な意味を持つだろう。自らの強みを発見し、それを伸ばしていけるように。そして、社会に居場所を見つけれるように。人と違うことことそが、意義あることなのだと理解できるように。そしてそれを通して社会に新しい視点をもたらしていると実感できるように。

 何よりも、自閉症の人やADHDの人は、インターネット、ビッグデータ、AI による新しい社会誕生に向けた世界全体の変容に対して、人類がより健全に発展していくための鍵を握っている可能性がある。これまで科学の発達、コンピューターの普及によって、人類は様々な問題を解決してきたが、その一方で解けない、内在する問題に多く直面し始めた。世界は今や非常に複雑怪奇な自らのあり様と対峙している。環境、人口、食料、健康、国際金融資本主義、格差と分断、技術と生命、デジタルと精神の境界線、脳や意識、心、そして孤独。これらは極めて入り組んだ不条理な複雑性を有し、その解決には今までにないアプローチが求められている。我々はこの難問に対し、様々な能力とオリジナリティをもった多彩な種として立ち向かう必要がある。
 神経多様性は、我々の遺伝的多様性の一部だ。障害として認識されている特徴の中には、遺伝子プール(Gene Pool)の中にまだ存在しているものがある。それは引き続き種としての意義があることを示唆している。つまり、人類としての来るべき進化としてそれは残されているのである。
 様々なレベルで、様々な場所で、多様性は我々の生存をそして進歩を支えている。多様性を営むことのできないシステムは脆弱である。農業における単一栽培が収奪的で持続不可能な結果を生み出してきたことは知られている。歴史上の未踏の領域の開拓者、比類なき成果を起こした者の中に、社会は神経多様性があったことに気づいている。我々の発展は多様性に支えられてきたことに目を向け、社会そのものをより全ての人々の輝ける場にしていくのは未来のためにも非常に重要なことだ。

 2015年国連サミットで採択された SDGs (持続可能な開発目標)。そのスローガンは、誰一人もおいてきぼりにしない(leave no one behind)である。その言葉を考えた時、我々の観念もまた進化していく時がきている。


付記:

具体的にどう個人の多様性を尊重し、社会のポテンシャルを引き出していくか。そのためには、「一人ひとりと向き合う」ことが必要です。向き合うとは、「結果だけでなく、プロセスを評価することも大切にする」「育成や機会についても考える」ことも意味します。ですが、そのような「向き合える」状態にすぐ行けるとは限りません。その人の気持ちや価値観によりそうことで、その人の個性を活かす「向き合い方」ができるようになります。

その具体的な手法として、コミュニケーション・セッションの一つである「ポジティブ・サラダバー」の解説スライドをいかにご紹介します。後日、本手法に関する記事も書こうと思っています。


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