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社会実装の立役者たる「T型人材」その意味、起源、特徴について

"T-shapred people need..." by sketchplnations under CC BY-NC 4.0


本記事は、「T型人材」に関する記事です。


「T型人材」というキーワード


スキルビルディングやキャリア構築の観点を踏まえた人材論において、T型人材(T-shaped skills)というキーワードを聞かれたことがある方も多いのではないかと思います。

T型に限らず、様々な応用系があり、I型人材、X型人材、π(パイ)型人材というワードもあります。

T型人材とは、キャリアを語る上で大切な観点であり、人材育成における指針でもあります。企業が採るべき採用ターゲットとしての人材タイプでもあり、最も望ましいスキルを持った応募者のことを指すものとして長い間使われてきた概念です。今回はそんな「T型人材」というワードについて掘り下げてみます。


「T」という形が示すもの


「T字型人材」とは、特定の分野で優れた知識やスキルを持ち、加えて、他の人と協力して仕事をするのが得意な、従業員にとって価値のある資質を備えた人物のことです。Tの文字は2つの棒から形付けられています。縦棒は、その人固有の能力やスキル、それらに関連する知識の深さを表しています。横棒は、そのスキルや知識を使って、異なる専門分野の人とコラボレーションする能力のカバー範囲、また自分の専門分野以外の知識を応用する能力を表しています。


起源・歴史


「T型人材」ーその起源ですが、「T型人材」なる言葉は、元々は、コンサルティングファームである McKinsey & Company の社内で使われ始めたものだとされており、1978年にIEEEの管理工学誌の論文「Scientists Become Managers-The "T"-Shaped Man」にて紹介されています。科学者がどのようにマネージャーになっていくのかというキャリアディベロップメントの指針として示され、McKinseyにおいてはコンサルタントやパートナーの採用・育成の人物像のモデルとして使われていました。その後、10年ほど経て、1991年、London King’s College の組織心理学・HRマネジメント教授であるDavid Guestが、英国の新聞「The Independent」紙上で、この概念を紹介しました。そして、デザインコンサルタンシーであるIDEOのCEOである Tim Brownが、クリエティブなプロセスのための既存の領域をこえて活躍するチームを構築する方法として、このT型人材の観点とこれを用いた人材選考のアプローチを支持したことから人気を博し、広く人口に膾炙されるものとなりました。


T型人材の特徴、T型人材になるために身につけておくべき要素


T型人材というワードは目指すべき人材像としてこれまでよく議論されてきました。「幅広い領域を知っているだけでなく、どれか一つは誰にも負けない深い専門性をもっているべき」、あるいは、その逆として、「専門を持つだけでなく、それらを活かせるためにも、様々なことを広く知ってカバーできるようにすべき」等です。スペシャリストとゼネラリストの両方の良さを兼ね備えた、柔軟性と高度さを持つ人材です。企業にとって有益であT型人材となるには、スペシャリストとして専門性を身につけることを柱としつつも、ジョブローテーションや様々なプロジェクトに参画し、ジェネラリストとしての視野も身につけていくということになるわけですが、どのような要素がその肝となるのでしょうか。


ハードスキルとソフトスキル:T型人材になるためには、スキルとしては、ハードスキルとソフトスキルの組み合わせが大事になってきます。縦棒が示す専門領域は、通常、デザインやプログラミング等のハードスキルとなります。そして、幅広い領域をカバーする横棒は、人脈やクリティカルシンキング、汎用的なプロジェクトマネジメント等のソフトスキルです。これらをどちらもバランス良く持っておく必要があります。

応用力・組織への貢献:T型人材は、縦棒が示すとおり、自分の専門分野を明確にしています。ですが、その一方で、自分のスキルを必要とする他の優先分野に提供することができる、自分の能力を応用していく力に優れています。これにより、チームの他のメンバーを助けたりし、全体の目標や目的が達成されるように、柔軟に対応します。

素早い学習能力:また、T型人材は、コアなスキルに加えて、幅広い領域に適応できるための素早い学習能力を持っています。そのため、新しい仕事を引き受け、どんどん野心的なプロジェクトに挑戦していくことも期待されます。ゆえに、主たる業務に優れているだけでなく、他の業務も効率的にこなすことができる様になっておく必要があり、通常時も積極的に他部署の動向を把握し、横断的な取り組みがあれば参加しておいてその素地を鍛えておくべきでしょう。

コミュニケーション能力とリーダー的視点:T型人材は、自分の専門領域や所属している自部署だけでなく、他領域や他部署のニーズや事情を理解することができ、他部署と自部署を協調させた形で仕事を進めることができます。そのため、会社全体の視野に立って物事を議論する能力をもっていることも期待されます。それゆえ、次世代のリーダーとして識別されることもあります。

社会実装力:近年、社会実装というキーワードが重視されています。社会実装とは、ある領域の研究で得られた成果を社会問題解決のために応用、展開することを指します。現代日本のような成熟した社会において、ソリューションやテクノロジーが社会に正しくその価値を発揮するには、単なる利便性の追求や一つのニーズの充足だけではその実装が難しく、様々な既存のルールや利害関係者との調整を経た上での導入が現実的に必要となってきます。T型人材とは、まさにこの社会実装を推し進めることができる能力を備えており、今日はこの点がとみに重要となります。研究を机上の空論で終わらせず、世の革新を着実に前へ進めることのできる人材となることか本質です。


プログラムマネジメントとT型人材


Spotifyのシニア・アジャイル・コーチであるJason Yip氏によると、全ての仕事が必ずしも専門的な知識・技能を必要とするわけではないため、専門的な領域を軸として幅広いタスクをこなすことができるT型人材やT型なチームは、組織全体の様々なプロジェクトに貢献することができます。そのため、T型チームはクロスファンクショナルな取り組みに向いており、全社的な変革のコアな人材となります。

過去にプログラムマネジメントに関する記事を書きましたが、その中で、縦横無尽の視点とフットワークをもって能動的にマネジメントをしていくということが、プログラムマネジメントの肝であると解説しました。領域の深い知識と幅広いコミュニケーションが要求されるプログラムマネジメントのPMOにとってもT型は意識しておく人材像・チーム像になるでしょう。


他の人材タイプについて


T型人材は一つのタイプに過ぎません。現在、日本でも様々な人材タイプについて論じられますが、元々は、T型と並んで、I型・X型・π型という人材タイプが議論されました。ここではそれぞれのコンセプトについて簡単に述べます。


I型人材は、T型人材と同じく専門分野を持ったタイプですが、応用力や適用力を発揮していない人材像になります。縦一直線の棒が示すように、ある分野についての深い理解とスキルを持っています。しかし、その知識やスキルを他の分野に適用しようとしなかったり、社会における実装に挑戦していなかったりしています。経験の深さは貴重ですが、複数の分野で自分のスキルを発揮するためには、I型からT型への転換が必要です。あるいは、後述してますが、個人ではI型であってもチームとしてはT型を形成できるような組織的なアプローチの模索もありえます。

X型人材とは、複数の分野で仕事をするのが得意なタイプの人を指します。直接的には、優れたマネージャーの資質を持つ社員を指す言葉として使われます。Xの複数の線は、対人能力が高く、会社の異なる業界や分野の異なる人々と仕事ができることを表しています。そして、そのような異なるグループ(Xの断面で示される)をまとめて、効果的にマネジメントを行うことができます。I型の人材にX型の人材が協力するとT型のチームになる可能性もあり、そういう意味でX型人材もT型と無縁ではありません。

π(パイ)型人材とは、T型人材が専門性を一つ持っているのに対し、二つの異なる専門分野の開拓を行い、それぞれの領域をかけあわせることで新しいことを創造している、あるいは将来創造しうるポテンシャルをもっている人材を指します。Tの文字が縦棒一つに対し、ギリシャ文字のπの文字は縦棒が二つあり、それにより、横断的に広い領域をカバーしながら、二つの専門分野を持つことを示しています。π型人材は、T型人材の進化系となり、より発展したキャリア像として考えられています。

I型・X型・π型、それぞれの人材タイプも、T型人材への理解を深めるのに有用な考え方と言えます。


終わりに、とおまけ


以上、T型人材について、その意味、起源、特徴について概観しました。本文中で、T型人材は社会実装を推し進める人材であると述べました。同様に、近年、DXで真の変革をなすために必要とされる能力をもった人材として「H型人材」といわれるような、更なるT型人材の発展モデルも議論されるようになりました。後日、H型人材の解説記事も書いてみようと思います。


おまけ2


より具体的な人材タイプに関する記事も書いています。以下は、クラウド人材の求められる姿に関する記事ですが、今後は、データサイエンスを駆使するデータサイエンティスト人材に求められる資質等も書いてみたいと思います。


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