見出し画像

次世代にトランスフォーメーションするルワンダを概観

ルワンダについて書きます。


注目されている国、ルワンダ

アフリカ。この巨大な大陸は、長年、投資的な観点ではリスクの多いエリアだと認識されてきました。不安定な国家や政治、テロ等の社会不安や病気、ビジネスを行うには未整備なインフラのレベル。しかし、アフリカには54もの多彩な国があり、多くの領域は未開拓であるがゆえに可能性は満ち溢れています。近年、次なるフロンティアと呼ばれるようになってきました。特に注目されている国の一つが、ルワンダです。

ルワンダは人口1200万ほど、国土は四国の1.5倍程度の大きさの国です。これまでルワンダは様々な経済改革を実施し、1人当たりGDPは約800ドルとまだ低いものの、ここ最近は実質GDP成長率は7%を超えて推移し、アフリカ諸国の中でも高い成長を遂げています。同時に法整備を進め、国外から投資を集めています。2005年には、ルワンダ国内への投資額が1050万ドルだったのが、2017年には約3億ドル近くに達しています。更に大きくデジタル化も成し遂げようとしています。彼らのデジタルトランスフォーメーションは注目され、世界経済フォーラムが2015年に発表したレポートの中でも、「ITの活用促進に最も成功した政府」としてルワンダ政府が世界一に選ばれています。


ルワンダの劇的な回復

どうしてこれほどまでの発展を達成しているのでしょうか。まだ記憶に新しい25年ほど前の1994年、ルワンダは当時、史上最悪ともいえる虐殺の真っ只中にありました。

映画「ホテル・ルワンダ」や「ルワンダの涙」でも描写されたルワンダ虐殺。わずか100日のうちに、推計で当時の人口の1割ほどの80万人近くが、民族対立の渦中で殺されていきました。そのような悲惨な歴史の淵からどうしてこの劇的な状態への回復、そして成長に至ったのでしょうか。


政治的安定性

主要な理由の一つには、政治的安定性の確保があげられます。ルワンダ大統領 Paul Kagame は、虐殺を終結させたツチ族のルワンダ愛国戦線における最高指導者から副大統領となり、そして2003年、第5代大統領に就任しました。それ以降、2010年、2017年と二回選任され、長期政権を築いています。Kagame 大統領は政治基盤を安定させるとともに、様々な社会政策・経済施策を実施し、ルワンダの経済成長をリードしています。彼は、ルワンダの復興に向けた挑戦の中で、ルワンダを「アフリカのシンガポール」へと変えると宣言しました。

シンガポールは、政治的安定性とテロの少なさという指標(Political Stability and Violence/Terroism) で、世界最高水準に位置しています。このことは多くのCEO・経営者がアジアの拠点にシンガポールを選ぶ大きな理由になっています。政治的に安定していると、企業にとって税金や各種コスト(従業員の生活コスト等)が急激に変化することは少なくなるためです。それをフォローしているルワンダは政治的安定性とテロの少なさという指標では世界的に平均的な水準に位置しています。取り立てて高い安定性というわけではありませんが、アフリカ、サブサハラの各国の平均値と比べると突出しています。

そして、政治的安定性が治安の改善をもたらしました。ルワンダは、アフリカのイメージに反して安全な国であり、アフリカで最も治安がよい国だとも言われています。国連薬物・犯罪事務所(UNODC)の統計によると国民10万人に対する殺人事件の発生件数は、年間平均2.5件です。これは、近隣のウガンダ11.5件、タンザニア7件、コンゴ13.6件に比べると極めて低く、しかも近隣以外でも、インドの3.2件、アメリカの5.4件よりも低い数字です。(日本は世界的に見て極めて例外の、0.2件という値なので参考にならないですが、世界平均は、6.2件です。)賄賂等の汚職の割合も低いです。また政治的安定性により、衛生環境も向上しました。ルワンダでは、ペットボトルやビニール袋の使い捨ては禁止されています。国民は地域コミュニティに参加し、毎月最終土曜日の清掃の日(Cleaning Day)に清掃活動をすることが求められています。結果、首都キガリは、アフリカで最も衛生的な都市の一つとなっています。これらの事実は、国外からの投資やビジネスを呼び込む際にアピールポイントとなっています。


IT への戦略的なフォーカス

ルワンダの復興と成長の二つ目の理由は、IT への戦略的なフォーカスです。
ルワンダは国土が四国の約1.5倍しかないと前述しましたが、アフリカ大陸の中では比較的に水に恵まれており、農業に適しているものの、土地の起伏が激しく山谷がずっと続き、このため、大規模農地がほとんどなく、生産性が低いという問題があります。この地理的特徴は物流のインフラ整備が不十分である現状にもつながってます。また、石油や天然ガスなど地下資源に恵まれず、工業化にも有利ではないという特徴があります。そこで「IT立国」を国家戦略に位置付け、アフリカでの知識集約型産業におけるハブとなろうとしています。

IT分野の起業を促進するために、KLabFabLabというテクノロジーハブとなるスペースを設立しています。KLab は、Knowledge Laboratory の略で、2012年にオープンしたインキュベーション施設です。若手起業家などの育成を支援し、起業家たちのコラボレーション&イノベーションを促進しています。既に250社以上の起業実績があります。起業家同士の情報交換、ミーティングやワークショップのスペースとして活用されています。FabLab は、Fabrication Laboratory の略で、2016年に開設された、Makers のためのスペースで、3Dプリンター、NC(数値制御)工作機器、レーザーカッターなどの工作機械が用意され、IoT時代のモノづくりを支援しています。KLab、FabLa、2つのテクノロジーハブには100名程の起業家や投資家が拠点を置いており、日々新たなスタートアップが輩出されています。

また、政府は外国機関投資家の協力を仰ぎつつ、3億ドルをかけて5つ星のホテルが併設されているコンベンションセンターを開設しました。アフリカの主要な国際会議がここで開催されるようになり、例えば、毎年5月、アフリカ最大のICT国際会議「Transform Africa Summit」が開かれ、国内外のIT起業家と投資家たちが集まり、商談を行う場所が提供されています。


ルワンダのスタートアップたち

実際、様々なITスタートアップがルワンダで活動を開始しています。以前、アフリカのリープフロッグに関する記事を書きました。

この記事の中で、Zipline というスタートアップを紹介しました。

本拠地をカリフォルニアにおくアメリカのスタートアップ Zipline 社は2016年からドローンで血液輸送を行うサービスを提供しています。出産時の母親の大量出血による死亡と、子どもに多いマラリアによる貧血症状の予防等に特に効果を発揮しているといいます。また、血漿や軽量な医療品・器具の輸送も行っています。


また、イギリスの遠隔医療スタートアップ Babylon Healthは、Babyl というブランドでルワンダで、患者と医者をつなぐ、AIとビデオ・テキストメッセージを利用したヘルスケアアプリを提供しています。患者はネット上で症状を伝え、自動で診察、必要であれば医師とビデオ通話をします。リモートで診察が可能なものはそのまま薬の処方や、検査の指示を行い、妊婦や重症の患者は近隣の医療施設までつなぎます。Zipline とともに医療支援のサービスですが、ルワンダでは人口に対する医師の数が日本の40分の1以下と圧倒的に不足しており、遠隔医療へのリープフロッグが必然でもあろうと言えます。


また、日本のスタートアップ界からも、ITエンジニア育成スクール事業の DIVE INTO CODEがルワンダで事業を行っており、Web/機械学習エンジニア育成支援を行っており、ルワンダのIT立国に一役買っています。

そのような中、ルワンダ国内でも様々な次世代のITスタートアップが立ち上がってきています。いくつか紹介します。

例えば、こちらの ARED です。AREDは、国民の70%以上が携帯電話・スマートフォンを所持しているほどに普及しながらも、電力の供給はまだ十分ではないルワンダで、ソーラーパネルによって携帯電話への給電が可能なキオスクスタンドを開発し、提供しています。


こちらは、HATCH Plus です。鶏卵のモニタリングと遠隔操作をスマートフォンなどでできる自動孵化器を開発しています。ルワンダは鶏肉や卵の約80%を輸入に頼っており、価格も高いという課題があり、その課題をIoT ソリューションで解決しようというチャレンジです。


O’Genious です。ルワンダは国家としてのITフォーカスもあり、政府を挙げて、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野の教育を推進していますが、多くの学校においては、理科の実験道具は十分に整備されておらず、生徒は各種実験を教科書で読むことでしか知ることができないという状況があります。その状況を打破すべく、O’Genious は、化学、物理、生物等の理科の各種実験をパソコン上でシミュレーションできるようにするためのプラットフォーム、O'panda(オーパンダ)を開発、運営しています。


Kagame 大統領は、ルワンダを「アフリカのシンガポールへと変える」と宣言しました。シンガポールは、60年前は、7億ドル規模のGDPでしたが、今や3200億ドルの規模に伸長しています。シンガポールの高度な成長の話は、以前以下の記事に書きました。

シンガポールというモデルをフォローしつつ、外国資本やスタートアップを呼び込み、また自らもスタートアップを育て、今大きくルワンダは躍進しようとしています。様々な取り組みの結果、起業の容易さを示す世界銀行が発表している指標である、Ease of doing business index、その2019年のランキングにおいてルワンダは29位と上昇してきています(日本は39位)。また、ルワンダは世界経済フォーラムが2015年に発表したレポートの中でも、「ITの活用促進に最も成功した政府」として世界一に選ばれたと前述しました。これは、2位のアラブ首長国連邦、3位のシンガポールをおさえた快挙です。悲劇の歴史を乗り越えて変わろうとしているこの国が、どのようにアフリカの次世代を切り開いていくのか期待が高まります。


おまけ

アフリカ関連の記事では、アフリカ最大のEC企業である Jumia の紹介記事も書いています。こちらもご覧下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?