ふくだまさと

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六月の詠草

六月の詠草 一年に十日ほどなる快晴に白山嶺の雪は眩しき 陶板を並べたやふな見張田を新幹線は切り裂きて行く 面会にわが息と分かる母なれど我に解らぬ昔話りす 一時間噛み合わぬまま面会を終へて川面に鯉はゆらぎぬ 桜木の青葉あをあを繁りゐてひと葉ひと葉に雨滴(うてき)をとどむ アイライン鮮やかに描く六弁花(ろくべんか)庭石菖(にわぜきしょう)は外来種なり 紅をひくきみの背中は何時やらむ川辺に摘みぬ夕化粧花 セルフレジに話し相手のひとり減り収容所のごと並びをリ 単弦のアーチで支ふ大橋を

    • 五月詠草

      ひきこもる子らの育てし綿の実を摘む我の手に棘の刺さりぬ 真白なるつつじの花に露おりて蕊の末まで白くさわやぐ 四枚の総苞片(そうほうへん)に抱かれし花水木咲く白のまぶしさ 爪立ちてひと房よせて匂ひ合うライラック花あはき甘さよ わた雲は五月の空に病む妻を残す散歩をためらひてゐる 車椅子のきみと愉しむはじめてのふたり散歩は公園までの 草の名を当てっこしつつ川べりに車椅子こぐきみ蝶のごと タンポポとシロツメクサは知ってても草フジの名を君は知らざり 朝がきてきみの紅茶にとろみ付く増粘剤

      • 今月の詠草

        卯月詠草 さわやかな季節を迎えて外出が多くなりました。 昨日より空が青いとそれだけで幸せになる燃えるごみの日 三十年住まゐし大和郡山お城の枝垂れ車窓をよぎる 蛇行剣ひとめ見むとてさまざまな顔並びたる畝傍のふもと 一丈の大剣(おおつるぎ)にて伝へしはヤマトを統べる気概にあらむ 赤さびの混じりし剣(つるぎ)置かれしを意外に薄いとひとの言いたり 〈筑前〉に〈福島太夫〉〈正宗〉と町名たどり街あるきをり 喫水のぎりぎりにして水脈をひき屋形船ゆく花吹雪くなか 濠川を押し流れくる水圧をう

        • 三月の詠草

          三月の詠草 (三月詠草) HAND OFF RAFAHと掲げる人人の声届けよとルミネの空に 昼食はフルーツゼリー君の卓たまに塩パンひとつくはへり 強風に千切れしはぐれ雲ひとつぐんぐと往く山背のそら 黒土の古墳の縁を登りゆく春の陽ざしの青谷梅林 ベンチにはシニア夫婦の語りをりお花見セットを分けて酒酌む 枝さきの地につくほどに枝垂れたる梅の古木は爛漫に咲く 田の畦にオオイヌノフグリは真つ先に空より青く散らばりて咲く ぬれ落ち葉をさし貫きて水仙の細き葉先に春の陽さしぬ チューリッ

          令和六年二月の詠草

          (二月詠草) ほの昏く常夜灯つく境内に五年ぶりなる旧友のかを くじ引けば待ち人の項嬉しかり「連絡もなく来る人がいる」 おたがひに顔窺ひて交はしをり「いよつ」「おお」とは味気なきかな 仕舞屋のやうな蕎麦屋のゆずの香の五十年経てよみがへりくる 「うっちー」の名で逃れたる桐島の来し方思ふ、同年なれば ゆつくりと尽きる温もり感じつつ「貼る用」剥がす午前四時ごろ 「行」の字を「様」に書き換へ今月も介護利用票返送したり 暖冬と思へば寒波くるべしと気象予報士芸人のごと 春の日に語るでもなく

          令和六年二月の詠草

          令和六年一月の詠草

          元旦から地震や飛行機の事故など大荒れの幕開けとなった。穏やかな年であれかしと思う今日この頃である。 (一月の詠草) 冬枯れの花壇のすみに辣韭のひと群のこるむらさきの花 大地震に飛行機事故と立てつづくデジャブのよふな映像やまず 警報に「逃げろ」と叫ぶ女子アナの子を叱るごと繰り返し言ふ 若き日の「ランプの宿」に泊まりしを妻と語らふ元旦の夜 ゆるやかに波打つ丘の上下する君の寝息に余韻の残る ふるさとに日頃の無沙汰かへりみず無事を確かむ従弟ら三人 五日目に救出されし九十歳は雨を啜り

          令和六年一月の詠草

          令和5年自選歌集 できました。

          恒例の年末自選歌集を作成しました。 令和五年 自選歌集     (春) 淡雪を秀先にのせる美山杉渓(たに)のなだりに無音の満ちる(角川短歌5月号) ひらひらとひかりをかへす葉群れには山茶花笑ふ一休の寺 薄紅の衣を纏ふ蕊のふさ陽射しにむかふ甘南備の径(京都短歌2/2) 能楽の発祥の地とふ薪社に詣でる人とちらほら出会ふ 百円の柚を土産に帰り来てミサイル繁き映像を見ゆ (夏) ぬばたまの遮光シートに包まれしお茶の新芽の摘まれるを待つ(京都文芸6/5) 梅雨明けを待ってたように

          令和5年自選歌集 できました。