令和六年一月の詠草

元旦から地震や飛行機の事故など大荒れの幕開けとなった。穏やかな年であれかしと思う今日この頃である。

(一月の詠草)
冬枯れの花壇のすみに辣韭のひと群のこるむらさきの花
大地震に飛行機事故と立てつづくデジャブのよふな映像やまず
警報に「逃げろ」と叫ぶ女子アナの子を叱るごと繰り返し言ふ
若き日の「ランプの宿」に泊まりしを妻と語らふ元旦の夜
ゆるやかに波打つ丘の上下する君の寝息に余韻の残る
ふるさとに日頃の無沙汰かへりみず無事を確かむ従弟ら三人
五日目に救出されし九十歳は雨を啜りて生き伸ぶるとぞ
なむまいだなむあみだぶつ霙ふる見附の島も崩れ落ちたり
祖母(おおはは)の何をするにも念仏をとなへし姿 柴折りくべる
ほつほつと新芽わきたつ裸木のいのちを祝ふ小春日の径

今月の映画鑑賞

哀れなるものたち Poor Tings  ヨルゴス・ランティモス監督
今、イオンシネマで観てきた。「観たよ」の感覚が蜘蛛の巣のように体にへばり付き、いまも引きずっている。不思議な映画だった。ベネチアの金獅子賞を獲ったというくらいの知識でみた。

のっけから、カリガリ博士のような雰囲気のなかで痩せたフランケンシュタインのような男が出てきて、気味悪く引き込まれる。17世紀の博物館を見ているような空気のかなで、なにげにえぐいシーンが展開される。はじめは、理屈で理解しようとしたが、無理。開き直って、映像と主人公ベラの身体、耳障りな音楽に身を任せるように鑑賞した。

お話は、自殺した若い女性の中から取り出した胎児の脳を女性に移植して再生させる。生き直しの物語だ。大人の身体と幼児の脳を持ったベラが、あらゆる社会規範から解放されて、食欲、性欲の赴くままに生きて成長していく様をファンタジックに描いている。

何か寓話的な何かを考えられなくもないのだが…。社会通念をもって女性を支配する男性、生=性によって男性を支配する女性。ジェンダー問題化か?そんな単純な話では全くない。

ベラと女たらしのダンカンがリスボンやパリ、豪華客船の旅にでる。海原や雲、リスボンの街なみ、空を何かが飛んでいる。子供だましのような映像体験なのだが、何か引き込まれる。ラストはチョット読めてしまうようで、残念なラストだった。
面白いか?と聞かれれば、面白かった。子供の頃に見世物小屋を覗き込んだような懐かしい映画体験だった。

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