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私が「フードロス」ビジネスを嫌う理由

食農夢創の代表の仲野真人です。2019年4月に野村證券を辞めて「農林漁業を夢のある食産業に創造する」をミッションに起業し4年が経過しました。

昨今注目されている「フードロス」ビジネス。しかし、これに私は大きな嫌悪感を抱いています。今回は農林漁業の現場を回る立場から『私が「フードロス」ビジネスを嫌う理由』について想いのたけを述べていきます。

なぜ「フードロス」が注目されているのか?

そもそもの発端はSDGs

「フードロス」が注目されるようになっのは2015年9月に国連サミットで採択された「SDGs」が背景にあり、国連加盟193か国が2016年から2030年まで間の15年間の間に取り組むべき「共通の目標」である。

SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称であり「持続可能な開発目標」と訳され、17のゴールと169のターゲットから構成されている。

SDGs(Sustainable Development Goals)

SDGsの中に「食品ロスの削減」が明記されている

17の目標のうちの12番目に注目すると「Ensure sustainable consumption and production patterns」とある直訳すると「持続可能な生産~消費形態を確保する」となる。日本では「つくる責任・つかう責任」と言われている。

ターゲット12番「つくる責任・つかう責任」には11個のターゲットがあり、その中の3つ目に「食品ロスを減少させる」と明記されているのである。そのため、「食品ロス削減=SDGs」という考えが広がり、「フードロス」や「食品ロス」という言葉が注目されていると考えられる。

SDGsには「食品ロスの削減」が明記されている

「フードロス」と「食品ロス」の違いって何?

「食品ロス」は「商流」と「家庭」に分かれる

日本では「フードロス」と「食品ロス」はほぼ同義語で使われているので、先に「食品ロス」ついて説明する。食品ロスは「本来食べられるのに捨てられてしまう食品」のことを言い、令和2年度で552万tが捨てられていると言われている。

食品ロスは「事業系食品ロス(275万t)」と「家庭系食品ロス(247万t)」に分けられる。「事業系食品ロス」は事業活動を伴って発生する食品ロスであり、「家庭系食品ロス」は各家庭で発生する食べ残しなどの食品ロスになる。つまり「食品ロス」では「生産~販売」の商流部分と「家庭」での消費に分かれている。

「フードロス」は「生産~加工・流通」と「販売・消費」に分かれる

日本の「食品ロス」の考え方を英語にすると「Food Loss and Waste」と表現する。そして「生産」から「加工・流通」の部分を「Food Loss」、「小売・外食」および「家庭」の部分を「Food Waste」と表現する。

「Loss」は「損失」という意味で使われ、「Waste」は「廃棄」という意味で使われる。つまり、「Food Loss」は「生産~消費者に届くまでの過程で発生する損失」であり、「Food Waste」は「消費する部分での廃棄」に分かれて、筆者はその方がしっくりくる。※どう考えるかは人それぞれ

なぜ「フードロス」ビジネスが嫌いなのか?

少し前段が長くなったが、ここからが本題である。今回のタイトルでもある『私がフードロス」ビジネスを嫌いな理由』の「フードロス」は「生産から加工・流通の過程で発生するロス」のことである。

その中でも、特に農林漁業の現場で発生する「規格外品」を取り扱うビジネスについてはっきり言ってうんざりしている。

理由①:「規格外」の仕入は形を変えた買い叩き

筆者のところに2・3次事業者から「SDGsに取り組みたいので、規格外を活用したい」という相談が多い。その際に私が「いくらで購入するつもりですか?」と聞くとほとんどが「どうせ捨てるのだから安く買えるでしょ?」というニュアンスの答えが返ってくる。

しかし、規格外品は結果的に規格外になってしまうわけであり、栽培過程では肥料も農薬も使用するし、栽培や収穫、仕分け作業には当然人件費がかかっている。それを「どうせ捨てるのだから・・・」と安く仕入れようとするのこと自体が、SDGsどころかSDGsに便乗した「買い叩き」のように感じてしまう。

※これについては筆者のTwitterでも度々投稿し議論を呼んでいる。

理由②:「規格外」はビジネスになりづらい

「規格外品」が欲しいという事業者は多いが、実際にビジネスになりづらい。その理由として「量」と「送料」の問題がある。

「規格外品」は狙って規格外になるわけではなく「正規品」を生産する結果として発生するものである。そのためどのくらいの「量」がでるかは天候によっても大きく左右される。そのため事業者側としては「規格外品」だけを安定的に仕入れるのが難しい。

また、「規格外品」は当然ながら量が少ないのでその分「送料」が高くなる。生産者側が負担する場合、「買取単価が安い」前提なのでタダもしくは赤字になりかねない。一方、事業者側が負担する場合、結果として仕入単価が高くなるので市場から仕入れるのとどちらがコストが安いか天秤にかける事業者が多い。

理由③:「訳あり品」は自分達の首を絞める売り方

生産者側でも形が悪いだけで味は美味しいので捨てるのがもったいないと言って直売所などで規格外品と「訳あり品」として販売している光景を目にする。もちろん「もったいない」のでなんとか売りたいという気持ちは大事であり否定するつもりはない。

でも、実際に直売所で「正規品」と「訳あり品」が並んでいて、価格が「正規品>訳あり品」だったとしたらどちらを買うか?多くの人が値段の安い「訳あり品」を購入する。その理由として、「規格」はあくまで流通のために作られたものであり、家で料理する際に形を気にする人は少ないからである。

その結果、どういうことが起きるか。「訳あり品」が先に売れる→本来売りたいはずの「正規品」が売れ残る→売れ残った「正規品」を売り切るために値下げをする、というように負の循環に陥ってしまう。

※正規品を買うことが結果的に生産者を応援することになるというのを生産者自身が発信している。

「パイの奪い合い」は疲弊するだけ

理由③の話をすると「自分のところは正規品と規格外品の両方が売れていて儲かっている」という生産者もいる。確かに、自分一人だけを見るとそうかもしれない。しかし「訳あり品」を安く売ることで「正規品」の販売機会を奪っているという実情がある。

これは農産物の話だけではない。食品(加工品)も同じことが言える。パンやお弁当の売れ残りを安く販売するのを良く目にする。消費者としては安く購入できるのは嬉しいのはわかるが、これも「値引き」をすることで本来の値段で購入する消費者層を奪ってしまっている。

人間の胃袋の大きさは決まっている。さらに地域においては、人口減少および高齢化が進んでいる中では胃袋が少なく、小さくなっていっている。その中で「規格外品」や「訳あり品」を売ることで価格競争になっている限り農林漁業・惣菜分野のデフレ脱却は難しい。

私が考える「フードロス」ビジネスとは?

ここまで『「フードロス」が嫌いな理由』をつらつらと述べてきた。反論意見も多いと思うが、あくまで農林漁業の現場を駆け回っている私の個人的な想いである。

では、「フードロス」ビジネスは成り立たないのか?と言われるとそうではない。最後に私が考える『持続可能な「フードロス」ビジネス』について紹介する。

「正規品」と「規格外品」を一緒に運ぶ流通システム

「嫌いな理由②」の解決策にもなるが、私は「規格外品を探している」という2次・3次事業者に必ず「まず正規品で取引を始めてください!」と言っている。

「規格外品」ありきではなく、まず「正規品」を取引して物量を増やす。その後に「規格外品」もまとめて購入すれば同じトラックに載せて運ぶことができ、その分送料も安くすることができる。生産者はいきなり「規格外品」だけを欲しいと言っても信用しない。「正規品」を取引することでしっかりと信頼関係を作ることが重要である。

これによって、生産者は「正規品」として安定した販路ができ、その上で「格外品」も買い取ってもらうことで所得向上にも繋がる。事業者側としては「正規品」と「規格外品」を合わせることで送料を抑え、かつ安定的に仕入れることが可能になる。その結果、WIN-WINな関係を構築しつつ、「フードロス」削減に繋がる。

形を変えることで付加価値を高める「アップサイクル」

「嫌いな理由③」で書いたように「規格外品」を安く売ると「パイの奪い合い」になってしまう。そこで規格外品を加工することで付加価値を高める方法がある。いわゆる「6次産業化」もその一つである。

「規格外品」を生鮮品として売るのではなく、加工することによって「売場」を変えるのである。6次産業化というと規格外品をジャム、ジュース、ドレッシングなどに加工する取り組みをイメージする人が多いが、昨今では「粉末」や「ペースト」にして加工原料にすることで多様な用途向けに販売する1次加工も注目されている。

オイシックスでは「規格外」だけでなく、製造工程で発生する「残渣」に新しい価値を付けて商品化する「アップサイクル」を実践している。個人的にはオイシックスのように「フードロスビジネス」ではなく「アップサイクル」を浸透させていきたい。

そもそも「規格」という概念をなくす

先述もしたが「規格」というのは市場や流通事業者が効率よく農林水産物を運ぶために作られた「流通側の理由」であり、最終的に食べる消費者でそこまで「規格」を気にする人は少ない。

そのため、そもそも「不揃い」を当たり前にして、「鮮度」や「美味しさ」などを武器にして勝負するのである。

熊本県菊池市の㈱コッコファームが運営する「たまご庵」の「朝取りたまご」は多い日には1日1,000箱以上売れる人気商品である。「朝取りたまご」S、M、L、LLのサイズ関係なく段ボールに詰められており、「規格」ではなく「鮮度」を売りにしている。

加工品の事例で紹介したいのは無印良品の「不揃いバウム」である。バームクーヘンをはじめ、お菓子を作る過程で形が崩れてしまうことは多々ある。しかし、無印良品では「見た目は不揃いだが、おいしさは粒揃い」と揃っていないことを逆手にとって「不揃い」を定番商品にしている。

SDGsで重要なのは「持続可能性」

SDGsがグローバルスタンダードになったことで、大手企業だけでなく中小企業もこぞってSDGsに取り組み始めている。一方で、「SDGs」に取り組むことが目的になっていて、ターゲットに「食品ロス(フードロス)の削減」があるから安易に飛びついているとしか思えない事業者も多い。

SDGsも「フードロス削減」も考え方は素晴らしく、それ自体をを否定するつもりは全くない。しかし、各企業のSDGs担当者が上っ面のSDGsに取り組んだ結果、会社の評判を落としてしまうということになりかねないか危惧している。

共通して大事なのは「持続可能性(サステナビリティ)」であり、生産現場から消費者までのサプライチェーン全体を俯瞰し、かつそれに関わるステークホルダーがきちんと儲かるビジネスを創出することが大事であり、それを食農夢創としても追及し続けている。

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「農林漁業を夢のある食産業へ創造する」というミッションを実現するために活動を続けております!何卒よろしくお願い申し上げますm(_ _)m