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#3 学習の質を高めるビジネスゲーム研修

教育工学において「インストラクショナルデザイン」という学習をより魅力的にする手法があります。

この手法は、分野問わず普遍的に用いられるもので、当然、それは企業研修にも適用できます。

そこで、インストラクショナルデザインのモデルの一つである「学習経験の質モデル」を解説し、効果的な研修設計を行うにはどうすれば良いか考えていきたいと思います。

また、本記事では、学習経験の質を高めるためのツールとして、ビジネスゲームもご紹介します。

「学びたくなる研修を実践したい」「ビジネスゲーム活用のメリットを知りたい」といったテーマが気になる方はぜひご覧ください。

はじめに

結論から述べると、学習経験の質を高めるには「学習状況」と「学習者個人」にアプローチする必要があります。

Parrish・Wilson(2008)が提唱した「学習経験の質モデル」では、これら2つをアップデートすることによって、学習経験の質が高まるとされています。

では、具体的に下記のポイントに沿って、それをどのように実現させていくのか紹介していきます。

・学習経験の質とは
・「学習状況」「学習者個人」をアップデートするには
・ビジネスゲームを活用しよう

学習経験の質とは

学習経験の質は、こちらの6つの段階にレベル分けされています。

この6段階において、鈴木・根本(2011)は、即効性が求められる実践的な教育場面では「挑戦的企て」を目指し、日常化することで「美学的経験」を引き起こすことを提案しています。

つまり、研修場面では「挑戦的な企て」になっているかどうかが、研修を評価する際の一つの基準といえるでしょう。

そして、学習経験の質を左右する要因として「学習状況の要因」と「学習者個人の要因」があります。

それぞれを上手くコントロールし高めることによって、学習経験の質は向上していきます。高レベルな「挑戦的な企て」を目指すには、どちらもケアしておく必要があるでしょう。

では、それぞれ具体的どのような観点を持っておけばよいかを解説していきます。

「学習状況」「学習者個人」をアップデートするには

まず、学習状況に関しては、下記の5つの観点があるとされています。PBL、ロールプレイ、探究学習といった教授法は、これらの要素が含まれていることが多いです。

次に、学習状況に関しては、下記の4つの観点があるとされています。学習者個人を完璧にコントロールすることは不可能ですが、研修案内の仕方や当日のサポートによって、これらを高めることは可能です。

以上のような観点を持つことで、研修を「挑戦的な企て」レベルへ昇華させていくことができます。

しかし、具体的にどうすればいいか、正直曖昧な方も多いのではないでしょうか。

そこで、以下では、研修設計におけるビジネスゲーム活用を取り上げながら、より具体的に考えていきたいと思います。

ビジネスゲームを活用しよう

ビジネスゲームには、現実の構造を再現をする「シミュレーション」と、純粋な楽しさ生む「遊び」といった2つの要素があります。

私は、これら2つの要素が「学習状況」と「学習者個人」それぞれに寄与するのではないかと考えています。

シミュレーションによって再現されたリアルな擬似空間で学ぶことで、学習者主体かつ経験ベースの学習が可能となります。

一方で、遊びによる心理的安全性が保たれた空間で学ぶことは、失敗しても問題ないという心持ちでの学習が可能となります。

従来の研修では、研修設計担当者および講師に、研修クオリティの全てが委ねられていましたが、ビジネスゲームが存在することによって、学習経験の質において、ある程度高さのあるベースを築くことができるといえます。

ゲームだけではなく、そこに綿密な研修設計と研修ファシリテーションが加わることによって、「挑戦的な企て」実現はより行いやすくなり、「美学的経験」を引き起こす機会も増えるのではないでしょうか。

まとめ

さて、今月は「学習の質を高めるビジネスゲーム研修」というテーマで、研修設計やビジネスゲームについて紹介しました。

ビジネスゲーム研修は、いつもと違う研修とだけ思われがちですが、ゲームは研修設計におけるツールの一つです。

学習経験の質を高める手法は様々ありますが、その中でゲーム学習にもぜひ注目していただければと思います。

本記事が、皆さまの今後のゲーム学習に対する考えや学びへのヒントになれば幸いです。

もっと詳しく知りたい方へ

Parrish, P., & Wilson, B. G. (2008). A Design and Research Framework for Learning Experience.

鈴木克明・根本淳子(2011)教育設計についての3つの第一原理の誕生をめぐって


筆者:大空 理人
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程。Ludix Labにて、人の学びや成長につながる「楽しい経験」を創り出す学習コンテンツの設計や教育プログラムのデザイン方法論を研究。また大学院進学と同時に、株式会社NEXERAに新卒入社し、クリエイターとしてビジネスゲーム及び研修カリキュラムの企画、開発、運用を行う。2023年に『ELSI Game Lab』を設立。科学技術と社会の接続・課題解決にも努める。

東京大学 ELSI Game Lab:@ELSIGamelab
大空 理人:@masato_edut

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