見出し画像

【20】清酒醸造の微生物(1) -酵母⑦-

一度に読む(書く)文量を超えたので、記事を分割しています。
-酵母①--酵母②--酵母③--酵母④-で、日本醸造協会から頒布されている「きょうかい酵母」の清酒用酵母の紹介が一段落しましたが、「きょうかい酵母以外」にも広く使われている清酒用酵母があります。
-酵母⑤-できょうかい系以外の酵母をまとめるはずでしたが、公設機関による研究について47都道府県分を並べることにしたので、民間・大学による研究開発酵母と分割しました。そして47都道府県並べた結果、情報が膨大になってしまったので東西に分けています……。
前回の-酵母⑥-では北海道から愛知県までの1都1道21県を紹介したので、今回は三重県から沖縄県までの2府22県を記載して、酵母の話を一旦終えたいと思います。



近畿地方

三重県

「三重県工業研究所では、研究成果普及のために研究開発で育種した清酒酵母を酒類製造所へ分譲します」ということで、三重県工業研究所の食と医薬品研究課が以下の酵母の分譲を受け付けています。

MK1
純米酒および吟醸酒向きで、酸生成が低くおだやかな酒質。
香気成分は酢酸イソアミルを主体とする。
MK3
吟醸酒向きで、カプロン酸エチルを主体とした香気成分の生成が高い。
MK5
純米酒向きで、香りおだやかでコハク酸生成が高く、濃醇なタイプの清酒製造に適する
MK7
純米吟醸酒向きで、コハク酸生成が高く、香気成分はカプロン酸エチルを主体とする。
MLA12
純米吟醸酒向きで、低アルコール酒も可能。
酢酸イソアミルの果実感とリンゴ酸の爽快な酸味が特徴。
BMK3
ビール醸造向きで、カプロン酸エチルを主体とした香気成分の生成が高い。
なお、分譲には特許実施許諾契約が別途必要である。

三重県WEBサイト 工業研究所:清酒酵母の分譲について より

清酒酵母の分譲について、と書いてあるのにBMK3は少し異質な感じがしましたので調べてみると、「國酒である『清酒』の風味に寄与している『清酒酵母』を活用した、日本オリジナルクラフトビールの開発を行った」とありました。なので清酒酵母ですがビール醸造用という、ちょっと変わったヤツでした。

三重県工業研究所報告をそこそこ漁ってみましたが、直近でBMK3酵母を得られた以外では、2005年(平成17年)時点では3種の酵母(MK3まで)があったという記述を発見できた程度で、詳細が掴めていません。何か見つかれば追記します。

滋賀県

滋賀県では2000年(平成12年)度より、県オリジナル清酒酵母の研究が開始されたようで(2001年~2003年にかけて報告あり)、直近では以下の新規酵母2種が開発されたもようです。

吟醸香を生産する滋賀県オリジナル新規清酒醸造用酵母の分譲について
2022年10月24日
背景
工業技術総合センター(栗東市)では、「近江の地酒」の魅力向上を目差し吟醸香(果実様の香り)を高生産する県オリジナル酵母の開発に取り組んできました。平成30年から開発に着手し、ビーカーレベルでの試験、次いで日本酒醸造試験施設での小規模醸造試験を経て、令和2年および3年の冬季に開発酵母の実地評価のための醸造試験を醸造所と共同で実施、その結果、華やかな果実様の香りがする清酒醸造が可能となりました。この成果を踏まえ、今年度の冬季の製造から県内醸造所へ果実様の吟醸香を高生産する2種(リンゴ・洋ナシ様とバナナ・メロン様)の新規酵母のラインナップでの提供を開始します。
酵母の特徴
●IRCS-SC9 plus
平成12年から醸造用酵母として醸造所に提供してきた酵母 (酵母番号:KKK-S)を改良したもの
〇吟醸香(リンゴ様・洋ナシ様の果実の香り)を多く生産して華やかでフルーティー感のある清酒に
〇甘味が感じられ芳醇な清酒造りが可能に
※ 各醸造所の造り方にもよります。
●IRCS-003F5 plus
平成16年頃に開発して醸造所に提供してきた低温でもよく発酵してアルコール耐性に強い酵母 (酵母番号:IRCS-YS003)を改良したもの
〇吟醸香(バナナ様・メロン様の果実の香り)を多く生産して華やかでフルーティー感のある清酒に
〇旨味が感じられ芳醇な清酒造りが可能に

フーズチャネル 「吟醸香を生産する滋賀県オリジナル新規清酒醸造用酵母の分譲について」より

他県のように名称が特についていないせいもあって、まだ確立には時間がかかるのかな?という印象を受けます。

京都府

近畿地方の公設研究機関の中で、一番酵母研究が進んでいるのが京都府(京都市産業技術研究所)かなと思います。以下のようにサイトに内容がまとめられており、これ以上のものは書きようがないのですが。

京都市産業技術研究所WEBサイト 京都酵母~日本酒の香味は酵母がつくる~ > 京都酵母を知る より

京都市産業技術研究所では、「酵母が作り出す多様な香りと味わい」に焦点をあて、消費者が、精米歩合の違いによるランク付け一辺倒から脱却し、「酵母が生み出す多種多様な香りと味わいによってその日呑む日本酒を選び、それぞれにあったスタイルで楽しむことができる」という発想に基づき、2021年(令和3年)からこの5種類の酵母を新たに「京都酵母」としてブランド化しています。
それぞれの酵母についての開発の経緯も記されており、一部抜粋して引用するとこのような感じです。

 当時の京都市工業試験場(現京都市産技研)は、昭和30年代(1960年代~)からきょうかい6号系の「工試1号」、7号系の「工試2号」を中心に、主に京都市内の酒蔵へ分譲を行っていた。これらの酵母は、安定醸造に資するものとして、主に普通酒の製造のために利用されていた。しかし、吟醸酒のブームを目の当たりにした京都市内の酒蔵から、「香りが高い酵母を開発してほしい」との声が高まっていた。
 日本醸造協会からも、平成に入ってから、吟醸用酵母としての1601号酵母、1701酵母がデビューしていた。時を同じくして京都市工業試験場でも、京都市内の酒蔵からカプロン酸エチルを高く生産し、発酵力もある酵母をいくつか選抜して育種しており、平成15年(2003)には221番とナンバリングされた香り高い新規開発酵母がすでに存在していた。これをなんとか世に出したいと、当時の筒井延男研究員が佐々木酒造に「試験醸造してもらえないだろうか」と声をかけた。この試験醸造の成功を経て、平成16年(2004)に分譲開始されたのが、のちの「京都酵母」シリーズ第1号となる京都地域限定酵母「京のこと」だった。全国的な大ヒットとなる平成18年(2006)のきょうかい1801号酵母リリースから遡ること1年前のことだった。「京の琴」は、現在も吟醸酒用酵母として京都市内の多くの酒蔵で採用されている。
 酵母の出す香りのうち、重要なものは洋梨のような香りを出すカプロン酸エチルと、バナナのような香りを出す酢酸イソアミルだが、このうち、酢酸イソアミルを高く生成する酵母が、平成19年(2007)に開発された「京のはな」である。「京の華」はバナナのような香りが高いだけでなく、有機酸生成量も高いので、「京の琴」とは異なるタイプの個性的な商品開発に利用されている。
 日本酒の味に影響を与える成分である有機酸のうち、リンゴ酸は爽やかな酸味を呈し、一方で、コハク酸はうまみやコクに影響を与えるとされる。京都市産技研は、リンゴ酸の生成量の多い酵母とコハク酸の生成量の多い酵母をそれぞれ京都市産技研の保有株から選抜し、実用化することに成功した。平成26年(2014)、リンゴ酸生成量の多い酵母「京のさく」を冷酒に向く酵母として、平成29年(2017)、コハク酸の生成量の多い酵母「京のはく」を燗酒に向く酵母としてそれぞれ分譲を開始している。
 さらに、京都市産技研では、冷酒に向く大吟醸用酵母として、香り高い既存の「京の琴」酵母からリンゴ酸を高く生産する酵母の選抜に成功した。果実様の香りと甘酸っぱい味わいがまるで「初恋」を思わせることから、この酵母は「京のこい」と名付けられ、令和2年(2020)から分譲開始となった。

WEB版京都市産業技術研究所magazine 「『京都酵母』の誕生」より

ここまでまとめていただけると、補足も何も必要ないですね。

大阪府

日本生物工学会の本部である大阪大学で古くから発酵・醸造分野の研究が行われておりますが、検索結果からは大阪府の清酒酵母の情報が見当たりませんでした。

兵庫県

「きょうかい1号酵母」発祥の地(灘・櫻正宗の酒母より単離)である兵庫県ですが、先述の「キクマサHA-14酵母」のように、自前の研究機関を持つ灘五郷の蔵元が自社で開発した酵母が多い印象です。

公設研究機関としては、兵庫県工業技術センターが2013年(平成25年)に「はりま酵母」という県産酵母を開発しています。

 兵庫県南西部は明治以前「播磨はりまの国」と呼ばれ、奈良時代には「播磨国風土記はりまのくにのふどき」が編纂され、その歴史が伝えられている。播磨国風土記は713年に元明天皇の詔により編纂が開始され、715年頃に成立したと言われている。2013年(平成25年)はこの風土記編纂1300年の記念年であること、またこの風土記には、麹菌を用いた酒造りの発祥とも受け取れる伝記が記載されていることより、この風土記の時代を元にした新規清酒の開発を試みた。
 播磨国風土記には、「大神の御乾飯みかれいが濡れてカビが生え、酒を醸させ、酒宴をした」との記述があり、この現場となった神社が現在も残っている。そこで、この現存の神社(宍粟しそう市・庭田神社)にて酵母の分離を試み、この酵母を用いて新規清酒を開発することとした。

「時代の酒造りを元にした新規清酒の開発」(原田知左子 他, 兵庫県立工業技術センター研究報告書第23号(平成26年版), 38-39(2014))より

庭酒にわきプロジェクトによって行われた研究で、県内の神社から採取した酵母の選抜試験を行い、最終的に残った2株のうち、香りのよい方を選んだとのことです。
この際に選抜されたのが「NJ1」株で、酢酸やコハク酸などの酸の生成量が多いことが改良点として挙げられたため、酸生成が少なくなるように育種改良した「NJ2」株、尿素非生産性の「NJ3」株のバリエーションがあることが現時点で確認できます。
この「はりま酵母」の香りの特徴として、有機酸の酸臭、4-ビニルグアイアコール(4-VG)の燻製臭、酒らしいアルコール臭やジメチルトリスルフィド(DMTS)の漬物臭など、どちらかというとオフフレーバーに属するものが多く挙げられています。そのため、香気成分改良(バラ様の香りであるフェネチルアルコールとそのエステルである酢酸フェネチルを高生産する酵母の育種)の検討が行われた、という報告までは発見できました。

奈良県

奈良県が他所と異なるのは、歴史的な要素に基づいて酵母の選抜が行われているところでしょうか。

1つ目が正暦寺しょうりゃくじ酵母」です。
日本清酒発祥の地(諸説ありますが)として知られる正暦寺は、500年以上も前に生酛きもと系酒母の元祖といわれる菩提酛ぼだいもと造りを産み出し、諸白、段仕込み、火入れ殺菌など、現代の酒造りにつながるさまざまな技術を活用した酒造りをおこなったお寺です。しかし寺院勢力の衰退と当時の政策によって寺院での酒造りは失われてしまいました。
平成に入り、県独自の特色のある酒造りを、という動きは当然奈良県内でも起こりまして、「菩提酛復活プロジェクト」が立ち上がりました。1996年(平成8年)7月に、県内の15蔵と正暦寺、奈良県工業技術センター、天理大学等により「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が発足します。
単に昔の再現ではなく、復活させた技法で現在に通用する酒を造ることを目的としたもので、正暦寺境内から採取した酵母そのままでは酒質に難があったため、プロトプラスト融合による正暦寺酵母の改良[←PDFファイル]を行い、この改良酵母を用いて菩提酛を造るようになった、ということです。
菩提酛については、その他の酒母と併せていずれまとめたいと思っていますので、一旦ここまでにしておきます。
(参考:「清酒のルーツ、菩提酛の復元 : 奈良の「産」「官」「宗」連携プロジェクトの記録」(住原則也, アゴラ : 天理大学地域文化研究センター紀要, 4, 1-27(2006))

2つ目が「山乃かみ酵母」です。
奈良県産業振興総合センターと奈良県酒造組合とで「日本清酒発祥の地である奈良において天然の清酒用酵母を歴史的遺産から分離することによって、 奈良県産の個性的な『うま酒』を造りだすプロジェクト」に着手、2012年(平成24年)には、 酒造の神様として多くの信仰を集めている大神おおみわ神社(奈良県桜井市)境内にて御神花のササユリをはじめ、様々な植物、土壌、水などの試料の採取を行い、得られた試料から清酒の醸造に適した酵母が選抜されました。この酵母が大神神社の鈴木宮司により「山乃かみ酵母」と命名されています。

生育の初期増殖が弱い傾向が見られることやアルコール生成能がきょうかい酵母より若干劣るものの、17%以上のアルコールが生成するため清酒向けに使用できる酵母であった。またリンゴ酸を多く含み、香気成分としてイソアミルアルコール、イソブチルアルコールを含んでおり、酸度が高めであるが、すっきりとした日本酒らしい味わいの清酒を醸造することができる酵母であった。

ササユリからの酒造用酵母の分離とその醸造特性」[PDF](都築正男他, 奈良県産業振興総合センター研究報告, 41, 5-11(2014))より

3つ目が「太子夢酵母」です。
法隆寺が2023年にユネスコ世界文化遺産指定30周年を迎えるため、法隆寺に関する地域特産品の製造の1つとして、法隆寺境内の花をはじめとする植物由来の酵母を用いた清酒を、一般社団法人斑鳩いかるが町観光協会と奈良県産業振興総合センターにて開発することになりました。
2021年4月~6月にかけ、法隆寺境内に植栽されている植物の花を中心に試料採取が行われ、最終的にアヤメの花から採取した酵母が選ばれ、観光協会によって「太子夢酵母」と名付けられました。甘口の低アルコール清酒向けの酵母とされています。
(参考:「法隆寺境内の植物からの酵母分離と清酒への応用」[PDF](都築正男他, 奈良県産業振興総合センター研究報告, 49, 28-33(2023))

これらの歴史的要素については他所が太刀打ちできないので、奈良県の強みかなと思います。
他に奈良女子大学・奈良県工業技術センターとの産学官共同開発で生まれた「奈良八重桜プロジェクト」で奈良の八重桜から採取された花酵母「ナラノヤエザクラ酵母」(2008年)などもあり、この酵母をさらに育種改良した「ナラノヤエザクラ赤色色素生成酵母」を用いた赤色清酒が商品化されていますので、紹介しておきます。

和歌山県

和歌山県工業技術センターでは、5種類の酵母の分譲が可能である旨を公開しています。
そのうち「古道酵母」は、和歌山らしさを持つ酵母の探索を実施し、世界遺産に登録された熊野古道・中辺路なかへち地域にて、清酒醸造に適した酵母を発見したものです。「古道酵母」は野生酵母のため、オフフレーバーなどの欠点もあることから、カプロン酸エチル高生産株「KODO.ec159株」「KODO.ec162株」が得られています。これらの株は、これまでの古道酵母の7倍以上のカプロン酸エチル生産能を有している一方で、酢酸生成能は3分の1程度まで減少しています。

それらと別に「和歌山酵母」「ウメ酵母」があります。
カプロン酸エチル生成能の高い「和歌山酵母」は9号系の変異株という記載が散見されますが、詳細が現時点で見つかっていません。Google検索でも高垣酒造など、この酵母を用いている蔵や商品はヒットするのですが……。

中国・四国地方

鳥取県

鳥取県産業技術センターの研究報告(令和元年度)に「穏やかな香りと優れた発酵力を持つ純米酒製造に適した新規酵母の開発(第1報)」という報告が記載されていましたが、第2報以降は今のところ出ていないようです。
その中で「酵母は、親株として当センター保有のAPN1(高香気生産性酵母)、KU61(高発酵性酵母)を使用した。」という記述によって既存の清酒酵母の存在は記載されていました。過去の研究報告がWEB上で閲覧できないので、それら既存酵母については情報が得られませんでした。
また、鳥取県オリジナルの麴菌と酵母を用いた清酒造りという取組において、「スイカの花から分離した酵母」が用いられ、商品化もされています。ただ、以下に示したとおり、報文の結論として清酒醸造には適さないと記載があるので、その後に改良が行われたのか、特性として扱っているのか、その辺りが不明瞭です。

3.3 分離酵母の性質
 小仕込試験の発酵経過を図1に示す。対照として清酒酵母協会7号、協会9号(以下K7、K9)を用いたが、全ての分離株は対照株に比べ発酵スピードが遅く、発酵力は清酒酵母に比べやや劣ることが分かった。
(中略)
4. おわりに
 スイカの花からSaccharomyces cerevisiaeと推定される酵母を分離した。発酵試験の結果、この酵母は清酒製造には適していないことが分かった。今後、スイカ酒、スイカ酢への使用を検討する予定である。

「スイカの花から分離した発酵性酵母の性質」(西尾 昭, 鳥取県産業技術センター研究報告, 13, 31-33(2010))より 

島根県

島根県産業技術センターのサイトには「清酒製造業支援」としていくつか事例が紹介されていますし、酵母の販売を行っている旨の記載がありますが、実際にどのような酵母があるのか一覧的なモノは見つかりませんでした。

特色あるものとして見つかったのが、石見銀山遺跡の梅の花から採取した「梅花酵母」です。株式会社石見銀山生活文化研究所と島根県産業技術センターの共同研究としてスタートし、2009年(平成21年)に梅の花から酵母を獲得、既知酵母と特性の異なるS. cerevisiaeであること、パンや清酒醸造に適した酵母であることが確認されて、2012年(平成24年)に特許および商標登録が行われています。
ちなみに読み方は「ばいかこうぼ」「うめはなこうぼ」どちらも抑えていて、梅花酵母のサイトのURLは「umehana」表記になっていますが、文献だと「ばいか」を用いているものもあり、その辺りはよくわからないです……。

ひみつ3 発酵によって醸し出される、フルーティな香りと酸味
梅花酵母で醸造した純米酒には、従来の日本酒の味わいに、爽やかなフルーティさが加わっています。専門機関で、梅花酵母使用の純米酒、他の日本酒、ワインの味覚比較分析を行ったところ、梅花酵母を使用した純米酒は、日本酒本来のキレのある味わいと、ワインに似た爽やかな酸味のある味わいを併せ持っていました。
またアミノ酸分析から、他の日本酒に比べて疲労回復を促すリンゴ酸の割合が多いことがわかっており、健康面や料理との合わせやすさにも特徴を示しています。

株式会社石見銀山生活文化研究所「梅花酵母」WEBサイト > 梅花酵母とは より

この内容からだと、リンゴ酸高生産タイプの酵母であると考えられます。

また、島根県の酵母として「HA-11酵母」の名前が見つかりましたが、正確には「島大HA-11酵母」になるそうで、島根大学での研究によるものだそう。きょうかい7号酵母とアルプス酵母の掛け合わせで生まれたという記載は酒屋さんのサイトなどで見つかるのですが、島根大学のどこかに記載はあるのでしょうか……。見つかったら更新します。

岡山県

岡山県では岡山県工業技術センターによる「岡山白桃酵母」という酵母が白桃の表皮から分離されています。

 近年、清酒の多様化に伴い全国各地で自然界からの清酒酵母の分離育種が盛んに行われている。岡山県でも清水白桃の果皮から清酒製造に適した酵母の分離に成功している。この白桃酵母を用いた試験醸造では、高泡は生じず、もろみでの切れも良く、酸の生成が少ないきれいな酒質となり、調和のとれた吟醸香が高生成された。

清酒製造における白桃酵母の香味特性とアルコール耐性の強化」(三宅剛史 他, 岡山県工業技術センター報告, 41, 6-8(2015))より 

上記文献からの引用を辿ると、2001年度の同センター報告書における「有用清酒酵母の開発 -開発酵母による試験醸造-」というタイトルの文章がそれに該当するらしいのですが、内容は酵母2種を採取したあとの試験醸造の話で、何処でどう取ってどう選抜したのかはわかりませんでした。
その他に検索で独自の清酒酵母については情報がなく、岡山理科大と酒造メーカーによる桜酵母などが散見される程度でした。

広島県

広島県は、広島県酒造組合と共同で酵母を育種しており(酵母は広島県食品工業技術センターが保管)、現在主に利用されている以下の酵母について、広島県のWEBサイト上で紹介されています。

広島令和1号酵母
冷酒向けの酵母。
酢酸イソアミルのバナナやブドウのような華やかな香りを多く生成し、軽快で冷酒向きの味わいとなります。
KA-1-25と同程度の高い発酵力があります。

広島21号
泡なしタイプの普通酒向けの酵母。
香気成分の生成は穏やかで、軟水に適し穏やかな発酵特性を持ちます。
広島県が育成した酵母の中では発酵力が高く、醸造期間の短縮が可能です。

せとうち-21
純米酒・吟醸酒向けの酵母。
穏やかな洋ナシ様の吟醸香(酢酸イソアミル)が特徴で、低温のもろみ経過によって、酸やアミノ酸の含有量が少ない清酒を醸します。
発酵力は「広島21号」と同程度です。

KA-1-25
純米酒・吟醸酒向けの酵母。
株式会社熊本県酒造研究所の承諾を得て、熊本酵母KA-1を親株とし、平成7年に当センターで泡なし化と酢酸エチル(溶剤臭)の低減についての改良を行った菌株です。酢酸イソアミルを主体とするバナナ様の穏やかな香りを生成し、高い発酵力を有しています。

広島吟醸酵母(13BY, 26BY)
吟醸酒向けの酵母。
リンゴ様の華やかな香り(カプロン酸エチル)を多く生成し、この生成量は全国的にも最高レベルです。
また、酢酸エチル(溶剤臭)の生成量が少ない特徴を持ちます。
発酵力はやや低めです。

広島もみじ酵母®
純米酒・吟醸酒向けの酵母。
「広島吟醸酵母」と「広島21号」の交配によって得られた酵母です。
「広島吟醸酵母」より香り(カプロン酸エチル)が穏やかなため、食中酒として料理に合わせやすい清酒に仕上がります。
また、「広島吟醸酵母」より発酵力が高いため、醸造期間の短縮が可能です。
併せて、酸の生成量が多く、スッキリとした味わいを生み出す株も育成しました。

広島県 > 食品工業技術センター > 「広島県が育種した清酒酵母の特徴」より

それぞれの酵母の類縁関係は、ざっくり調べたところ以下の通りです。

県内酒造場の醪から分離した酵母のセルレニン耐性変異株 → 広島吟醸酵母13BY
広島吟醸酵母13BYの1倍体同士の交配 → 広島吟醸酵母26BY
広島2号酵母の泡なし株 → 広島21号
広島21号酵母からの派生 → せとうち-21
広島吟醸酵母13BYと広島21号を交配 → 広島もみじ酵母
熊本酵母KA-1の泡なし・改良変異株 → KA-1-25
きょうかい901号の酢酸イソアミル高生成株 → 広島令和1号

わかりにくくて申し訳ないですが、何となく親戚関係になりそうな系統です。KA-1ときょうかい9号も親戚でしょうし。

また同センターでは、「広島6号」酵母の特性を活用した研究が行われています。

広島6号
広島県醸造試験場が分離した酵母の中で最も古く、大正15年に広島県内の酒蔵から得たものです。
現在主に利用されている協会系酵母と遺伝的には近縁ですが、生存率の高い胞子を形成できる、という清酒酵母では非常に珍しい特徴があります。
この特徴を、新たな清酒酵母の育種や酵母の遺伝解析に活用できるよう、現在研究を進めています。

広島県 > 食品工業技術センター > 「広島県が育種した清酒酵母の特徴」より

あれ?「広島6号」が最古なら先に出てきた「広島2号」は?と思って調べてみると、何故か「広島3号」と「広島6号」の交配株(そして3号も6号より後の分離)という事実……。どうしてこうなった。

 広島県内で汎用されている広島2号酵母は、昭和32年度広島杜氏組合自醸酒品評会で、上位入賞した出品酒より分離された広島3号酵母と、大正15年喜久牡丹のもろみより分離された広島6号酵母との胞子形成後の平板培養後の小コロニー結合によって得られた新種株である。

協会10号酵母と広島2号酵母とのプロトプラスト融合による清酒酵母の育種」(上迫純子 他, 日本釀造協會雜誌, 82, (2), 125-129(1987))より 

命名の経緯はさておき、この「広島6号」、胞子形成能が失われておらず、品種改良を容易にすることができるという点で、現在改めて注目されているようです。

山口県

山口県産業技術センターにおいて、いくらかオリジナル酵母の研究開発が行われているようですが、経緯のわかったのは「やまぐち桜酵母」「やまぐち山廃酵母」の2種で、それ以外に現在も使用されている「山口9E酵母」「山口9H酵母」があるようですが、それらについては詳細がわかりませんでした。9E酵母は従前からあった県独自の発酵力の高い泡あり酵母、9H酵母は吟醸酒向けの酵母だそうです。

「やまぐち桜酵母」は、1999年(平成11年)、山口県産業技術センターと宇部工業高等専門学校の共同研究としてスタートし、宇部市近辺の桜から酵母を集め、山口県吉敷郡阿知須町(現・山口市阿知須)の桜の花から取得した野生の酵母です。実用化され2001年(平成13年)4月に発売された製品は「マスコミに大きく取り上げられ爆発的に売れた」そうです。野生酵母なのでアルコール生成能があまり高くないのかなと思ったのですが、アルコール分15%の商品もあるようですし、改良試験でも親株としてアルコール分15%は達成していましたから、それなりに発酵能はあると思われます。
また同酵母は、米焼酎やビールへの”転用“も行われているようです。

「やまぐち山廃酵母」は、淡麗な酒質への傾向に対して、差別化のために濃醇な香味を有した山廃造りに注目し、その安定醸造のために山廃造りに適した清酒酵母を取得するところからスタートし、2012年(平成24年)に報告が上がっていました。県内で山廃仕込を行っていた4社の酛および醪から酵母を取得し、アルコール生成能と小仕込試験で優良株(対照のきょうかい7号酵母と比較)を選抜しています。

徳島県

徳島県では、世界有数のLEDメーカーが立地する優位性を活かし、LED関連企業の集積を基本目標とした「LEDバレイ構想」を推進し、LED応用製品の開発や、LEDの新用途開発に取り組んでいる。徳島県立工業技術センターでは、2013年よりUV-LEDを用いた紫外線照射による清酒酵母の育種試験に取り組み、吟醸酒の主要な香気成分であるカプロン酸エチルを高生産し、発酵力に優れた「LED夢酵母」を実用化した。

UV-LEDにより育種した新規清酒酵母『LED夢酵母』」(岡久修己, 生物工学会誌, 98, (1), 42-43(2020))より

とあるように、徳島県立工業技術センターによって他県と違う手法で獲得されたのが「LED夢酵母」です。原理としては紫外線照射による変異誘導なのですが、照射条件が確立されて取得効率が良くなったともありますので、LEDの利点もある……のかな。機械的なところは専門外でわかりません。
親株はきょうかい901号酵母で、3種類のLED夢酵母が実用化されており、さらにその改良株(尿素非生産性など)が開発されているようです。

三芳菊の製品紹介サイトの中でLED夢酵母を「徳島新酵母」、以前にあった酵母?を「徳島酵母」と記載しているものがあったのですが、LED夢酵母以前の酵母については現時点で公開されている県立工業技術センターの報告にも「酵母」の情報がなく、他にも手掛かりがありません。

香川県

香川県独自の酵母を、ということで注目されたのが県花・県木である「オリーブ」で、そこから分離選抜されたのが「さぬきオリーブ酵母」です。

さぬきオリーブ酵母の誕生秘話
「さぬきオリーブ酵母」は、香川県らしい日本酒を造りたいという香川県酒造組合からの依頼をきっかけとして、平成28年に、香川県の県花・県木であるオリーブから醸造に適した酵母を探し始め、2年以上の月日をかけ発見しました。当初、オリーブの実から見つかった酵母は、あまリアルコールを造らないことが課題でした。
そこで、アルコールが含まれる環境で酵母を“鍛え”、繰り返し選抜を重ねることで、ようやく高いアルコール度数のお酒ができる酵母を見つけることができました。

一般財団法人かがわ県産品振興機構WEBサイト「LOVEさぬきさん」 > 香川の県産品 > オリーブ > さぬきオリーブ酵母の地酒 より

分離選抜の方法は特に新しくないのですが、開発自体は比較的最近でした。
果実様の香りと、トロピカルフルーツを連想させる酸味があるとのことで、商品成分値を見ても酸度がやや高めで、洋食とのペアリングを推奨している商品が多いですね。

愛媛県

愛媛県では1998年(平成10年)に愛媛県工業技術センター(現・愛媛県産業技術研究所)により独自酵母「EK-1」が開発され、その後もEK-1の改良株の試験報告や、商品に使用されている「EK-3」「EK-7」の存在が確認できています。ただ、文献が見当たりませんでしたし、特徴も吟醸用というくらいしかわかりませんでした。EK-2, 4, 5, 6が居るのかも不明です。
なお、EK-1酵母を実用化した年には、全国新酒鑑評会で金賞受賞率が大幅に上昇したという記載がありました。

その後、クラウドファンディングサービスを通じて有名?になったのが「愛媛さくらひめ酵母」です。
愛媛県酒造組合が東京農業大学応用生物科学部醸造科学科と、愛媛県食品産業技術センターとの産学官の共同研究を行い、開発されたものです。

愛媛さくらひめ酵母について
可憐な花から生まれた食に寄り添う4タイプの清酒用花酵母

旨味とやさしい口当たりが特徴と言われる愛媛の地酒を、今の時代にあった魅力的なものにするため、愛媛県酒造組合・東京農業大学・愛媛県の産学官共同研究により、愛媛県オリジナル品種の花「さくらひめ」から分離された清酒用花酵母。瀬戸内海と宇和海という2つの海をはじめ豊かな自然に囲まれた食の宝庫ならではの、食材や料理とのペアリングを重視して、香りと味わいの特徴が異なる4タイプの酵母を選定しました。

愛媛県酒造組合WEBサイト「えひめ香る地酒プロジェクト|愛媛さくらひめシリーズ」より

4タイプ(TYPE-1:Tropical、TYPE-2:Clear、TYPE-3:Well Balance、TYPE-4:Rich)については、以下のように説明されています。

愛媛県酒造組合WEBサイト「愛媛さくらひめ酵母について」より

「えひめ香る地酒プロジェクト」は、オリジナル清酒用花酵母「愛媛さくらひめ酵母」を使って、愛媛の米と水で醸造する、「愛媛の、愛媛による、愛媛のための」日本酒プロジェクトです。原料産地の制限の他、精米歩合は60%以下、醸造アルコール等の添加は不可、火入れ酒のみとなっています。2023年3月に22の蔵元から一斉に発売されているとのことです。

高知県

高知酵母は全国的にも種類が多く、20種類以上あるそうですが、主なものについての記載が以下の通りとなっています。

2.県産酒米・高知酵母の開発
(中略)
 高知酵母は全国的にも種類が多く、20種類以上あり、県内酒造場では自社のコンセプトにあった酵母を使用している。これが、土佐酒の大きな特徴の一つであり、図1にも示す、香味の多様性にも貢献している。A14株(1992年)は清酒酵母同士を細胞融合させた酵母で、酸がやや高く、発酵力、アルコール耐性が強く、酢酸イソアミルのバナナ様の香りを多く生成する。AA41株(2003年)はA14株よりさらに酢酸イソアミルが高く、酢酸エチルも若干高いため、メロン様の香りを多く造る。CEL19株(1993年)は高知でもっとも多く使われる酵母で、カプロン酸エチルのリンゴ様の香りを多く造ると同時に爽やかな酸味をもつリンゴ酸も多く造る。CEL24株(1993年)はCEL19株よりもさらに多くのリンゴ様の香り(カプロン酸エチル25ppm)とリンゴ酸を造る、国内でももっとも香りの高い酵母であり、甘酸っぱく、非常に香りの高い低アルコール酒が造られる。CEL11株(2002年)はほどほどに高いリンゴ様の香りを造り、酸は低めである。バナナ様やリンゴ様の両方の香りの高い酵母では、AC17株(1994年)は発酵力が強く、酸も多く生成し、辛口の酒に仕上がる。AC26株やAC95株(2007年)は二つの香りがさらに高く、複雑な香味の酒に仕上がるが、モロミ期間中のピルビン酸が高く、発酵管理が難しいが、国内でもまだほとんど使われていないタイプの酵母であり、この酵母を使用した酒は各種コンテストの上位に数多く入賞している。

Branch Spirit 西日本支部「高知の酒造り」(上東治彦, 生物工学会誌, 100, (2), 100–102(2022))より

A系統は熊本酵母から、CEL系統は信州にルーツを持つ酵母で、AC系統は双方の特徴のある香りをバランス良く出す酵母とのこと。

これらのオリジナル酵母が宇宙空間や海底を経て生還し、その酵母で醸したお酒というのが「土佐宇宙酒」(2005年にISS国際宇宙ステーションで培養した高知県産酵母を使った日本酒)と「宇宙深海酒」(2021年1月から茨城県沖6,200メートルの深海で4カ月間、600気圧の環境に耐えた酵母を使って醸造された日本酒)です。
宇宙深海酵母は酵母菌の細胞壁が厚くなったことが研究者によって確認され、酸の度数が高い傾向にある、という記載がありました。

九州地方

福岡県

福岡県では福岡県工業技術センターで県オリジナルの清酒酵母開発が行われており、調べたところ「ふくおか夢酵母」「F44酵母」「P3酵母」の存在がわかっています。しかし「P3酵母」は特長を示した文章が見つけられていません…。

「ふくおか夢酵母」は、産学官共同研究による 「福岡オリジナルソフ ト清酒」の開発の中で、低アルコール清酒用の酵母として分離されました。

4) 低アルコ―ル清酒用酵母の開発(福岡県工業技術センター)
 近年清酒業界は、全国的に他の酒類におされ、じりじりとシェアを落としてきたが、特にかつて三大酒どころといわれた福岡県の落ち込みが著しい現状である。この状況を打開するために、清酒を敬遠しがちな若者や女性にターゲットを絞り、アルコール度数の低い低アルコール清酒に適した酵母の開発に取り組んだ。低アルコール清酒で問題となる味の薄さを、爽やかな酸味であるリンゴ酸でカバーするため、リンゴ酸の高生産酵母を取得することとした。
 平成13年7月、福岡県内酒蔵の清酒もろみから分離した314株の中からリンゴ酸を高生産する株として取得され、平成14年3月、実験室レベルでの清酒醸造試験でリンゴ酸高生産性及び醸造適性が確認された。実験室レベルでの低アルコール清酒醸造試験や実規模の低アルコール清酒醸造試験でもリンゴ酸高生産性が確認され、実用化の運びとなった。平成16年9月に「ふくおか夢酵母」と命名された。ふくおか夢酵母の特性は、親株の協会9号酵母と比べてリンゴ酸を2倍多く生産し、酢酸を半分しか生産しない。アルコール、香気成分、コハク酸 ・乳酸などの有機酸の生産量は同等である。

産学官共同研究による『福岡オリジナルソフト清酒』の開発」(大場孝宏, 日本醸造協会誌, 103, (7), 510-516(2008))より 

県内酒蔵の清酒醪から分離した、とありますが親株はきょうかい9号とあるので、その醪は9号酵母を使用していたものだったのでしょうか。
「ふくおか夢酵母」は1号から4号まで開発されているようです。九州産業大学のサイトによると、「ふくおか夢酵母4号」は、すっきりとした爽やかな酸味であるリンゴ酸、およびリンゴのような香気成分であるカプロン酸エチルの生産能に優れた酵母とのことですので、1号以後に改良や性能付与が行われたものと思われます。2号を用いた商品もあるのですが、3号については今のところ存在が明確になっていません。
また、福岡県工業技術センターの研究報告を調べてみても、これらの「ふくおか夢酵母」およびその派生株についての記載がありませんでした。2008年の研究報告において、「福岡吟醸酵母の開発」というタイトルで、カプロン酸エチル及びリンゴ酸を高生産する株が取れたという報告はあるのですが、この酵母は発酵能がきょうかい9号と同等にありますので、低アルコール酒を目的とした「ふくおか夢酵母」とは違うのではないかなあ…と思います。

「F44酵母」は、吟醸酒・純米酒向きの清酒酵母と紹介されており、上品な香りのカプロン酸エチルを適度に生成する吟醸酵母だそうです。これも工業技術センターの研究報告でそれらしきものが該当せず……。上記の「福岡吟醸酵母」はリンゴ酸高生成能を持つとの記載がありましたので、純米酒向きではないように思えますので、これもまた別……?

佐賀県

佐賀県では佐賀県工業技術センターが開発した酵母を「佐賀酵母」として頒布し、県内蔵元で使用されています。佐賀酵母としては「F4」株、F4株を親株としたカプロン酸エチル高生産酵母「F7」株、F4株の泡なし株「F401」株、SAWA-1-13株(現在の「SAWA-1」株)の4菌株に加え、県産イチゴの”さがほのか”から分離した「SGH」株、SAWA-1株とSGH株を交配した中から選抜された「StyP」株などがあるようです。なお、StyPとは「Saga type Pineapple」株だそうです。SGHは命名由来が確認されていませんが、おそらく「SaGaHonoka」かな…。

実地醸造に用いた菌株の特徴的な香りをわかりやすくするため、StyP株(Saga type Pineapple)とし、試験醸造で取得した製成酒は商品化に至った。

新‟佐賀酵母”の育種とその醸造適性評価 (第5報, 第6報) ―交雑育種株の実地における醸造特性評価―」(澤田和敬, 佐賀県技術センター研究報告書 要約版(2022))より

またこの報告書中において「StyP株を含むセンターが開発した佐賀酵母は、『佐賀はがくれ酵母』(商願2022-139113)として商標を取得した。」とあります。サガテレビの記事で6種類の「佐賀はがくれ酵母」があるとの記載がありましたが、上記の「F4」「F7」「F401」「SAWA-1」「SGH」「StyP」でちょうど6種ですね。

長崎県

2022年度の時点で、長崎県としては酵母の分譲を行っていない、という文章が真っ先に出てきました。

 清酒酵母の分譲についてですが、今のところ長崎県で分譲可能な清酒酵母を所有していないため、分譲することができません。
 現在、県内企業の皆様にご使用いただける醸造適性のある酵母の取得に関する研究を進めています。酵母を取得できましたら、分譲ができるように環境を整えたいと考えています。

長崎県WEBサイト 「県へのご意見・ご提案[令和3年度 産業・労働]」より

しかし一方で、長崎県では県内で分離された新規有用発酵微生物を用いた発酵食品の開発が盛んに行われていまして、五島つばき(ヤブツバキ)から分離された「五島つばき酵母」では、清酒・ワイン・焼酎が既に商品化され製造・販売が行われています。五島市商工会と長崎県(県工業技術センター)および民間企業の共同でのプロジェクトとありますので、分譲に関しては五島市などが権利を持っているのでしょうかね。

熊本県

 「熊本酵母」は酔って楽しむお酒から味わうお酒へ、日本酒が新たな一歩を踏み出すきっかけとなった酵母とも言えるでしょう。発見から60年以上経ちましたが、現在でも「きょうかい9号」は全国でもっとも多く使われている酵母の一つです。
 熊本県酒造研究所では今でも、この「きょうかい9号酵母」とは別に自社で保存・管理された「熊本酵母」を頒布しています。

熊本酒造組合WEBサイト 「きょうかい酵母と熊本酵母」より

…と熊本酒造組合のサイトに書いてある「熊本酵母」。1号(KA1)4号(KA4)が存在しているのはすぐに出てきましたが(山形県や広島県の酵母開発に際して登場)、それらときょうかい9号酵母がどのように異なるのかがわかりませんでした……。KA4-01という株も存在していまして、4号のさらに派生と思いますが(泡なし?)、これも詳細不明です。
きょうかい9号酵母と同等の性質を持つのがKA-1、より吟醸香を出すのがKA-4らしいのですが、由来を明示した文章に出会えていません。

なお「熊本県酒造研究所」は熊本県の機関ではなく、1909(明治42)年に熊本県産酒の酒質向上を目的とし、県内の蔵元らの呼びかけによって立ち上げられた会社です。なので民間の開発として取り上げるべきなのかもしれませんが、組合みたいなものとして今回はこちらの項目にて取り上げています。

大分県

大分県では独自の酵母を持っていなかったのですが、2012年(平成24年)に、別府大学食物栄養科学部発酵食品学科と大分県酒造組合が共同で「清酒酵母開発委員会」を設立し、大分県独自の清酒酵母の開発が始まりました。
豊後梅やかぼすといった特産品からの酵母採取は成功しなかったので、酒粕から有用酵母を獲得し、選抜しています。
きょうかい9号の系統の「大分酵母第1号」、別に起源を持つと考えられる「大分酵母第2号」の2株を得たと別府大学の文献にはありますが、それ以外に情報がなく……。大分県酒造組合のサイトにおいてもこれらの酵母の紹介はされておらず、Google検索してみても同酵母を使用した清酒の情報は見つかりませんでした。

宮崎県

焼酎文化圏の中、清酒醸造も行われてはいるのですが、研究は専ら焼酎酵母です。
なお、2022年に、1968年まで製造されていた清酒の復活を目指し、取組の1つとして蔵付き酵母の採取を試みている、という報道がありました。

宮崎県食品開発センターが採取したサンプルから、清酒醸造に適した酵母があるかどうか絞り込みを行っている、という情報は今年稲刈りを行ったというニュースから確認できましたが、まだ結果は出ていないようです。
生き残っていたとして、大分県と同様に熊本酵母(きょうかい9号酵母)やその近縁種なのか、あるいは別の酵母なのか……。製造記録が見つかっているそうなので、使用酵母についても何らかの記録はありそうですが、解析した結果「9号酵母」でした、はドラマとしては面白みに欠けるので、何か新しい発見があるといいなと思っています。

鹿児島県

しばらく清酒醸造蔵が途絶えていた鹿児島県。焼酎酵母の研究は多く行われていますが、清酒酵母は公的プロジェクトで研究されるはずもなく……。
清酒酵母で仕込んだ焼酎の商品化がありますが、吟醸用酵母と記載があっても、検索上位で酵母を明らかにしていたのは「きょうかい1801号酵母」を使った1種だけでした。

沖縄県

鹿児島県同様に、泡盛酵母の研究はあるものの、清酒醸造蔵が1蔵しか現存していませんので、当然ですがオリジナル清酒酵母はありません。
特色のある泡盛として清酒酵母を用いたものがあるのですが、その中で青森県の「まほろば吟酵母」を用いたものがあるのが面白いところです。


書いていく中で最終的に47都道府県並べてみましたが、自治体によって情報の濃度が異なり、特に初っ端の北海道と後半の九州でネタが少なかったので、読み物の構成としてはやめておけばよかったかなとも思いました……。
そして地方ごとに分けるならば、国税局の管轄(札幌・仙台・関東信越・東京・金沢・名古屋・大阪・広島・高松・福岡・熊本・沖縄)で分けると酒の話っぽくていいのかなとか余計なことも考えましたが、一般の方にはとても分かりづらいので、最終的に都道府県コード順のままにしました。

ともあれ、これで酵母に関する記載は本当に一区切りです。
麴菌はここまで掘り下げて書ける気がしないのですが、どうしよう……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?