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C向けサービスとDX 【音楽業界編】

皆さん、こんにちは!ジェネシア・ベンチャーズの一戸です。

昨今デジタルトランスフォーメーションという言葉を頻繁に耳にしますが、どちらかと言うとSaaSのようなB向けサービスのイメージが強い方が多いかもしれません(僕の勝手なイメージですが…)。

しかし、SpotifyやNetflixなど、海外で大きな成長を遂げたサービスをはじめとして、国内においても(今回ご紹介する)SpectraのFreaxや、献立アプリのタベリー、宅配クリーニングのリネットなど、C向けサービスを起点としてDXに挑戦する企業が数多く存在しています。

本稿ではそれを「BtoC × DX」として、支援先のSpectraを事例として取り上げつつ、ジェネシアや僕の考えをまとめてみました。

以下がサマリーです。

デジタル・モバイルシフトが進む中で、C側の興味・関心・価値観の変化による消費対象の変化と、消費接点の多様化による消費手段の変化が生じている一方で、B側は従来のビジネスモデルから脱却しきれておらず、そのため現在のC側の消費行動に最適化された形で事業を構築することが出来ていない現状にあります。各業界においてエンタープライズが持つコンテンツはやはり素晴らしいものである一方で、それを消費者に最適な形で届けることができておらず、そのためオープンイノベーションなどを通じたDXの必要性が叫ばれているのです。音楽(エンタメ)業界においてもまた然りで、ストリーミングサービスやSNSの出現によって音楽ファンの消費行動が大きく変化した一方、アーティストはそれらの変化に対応しきれておらず、結果的にマーケティング効果とマネタイズの最大化が実現できていない現状にあります。そこでSpectraは、音楽ファン・アーティスト双方のデジタルデータを集約、活用することで、それらの課題を解決し、結果的にIP(アーティスト)価値の最大化を実現することを目指しています。

持続可能な社会の実現に不可欠な「BtoC × DX」

"DX"の定義は様々ですが、ジェネシアとしてはこちらの記事にもある通り「ソフトウェアを起点に、社会を持続可能な形に変えていくための手段」と捉えています。

例えば、上であげたSpotifyに関しては、Wikipediaにも記載がある通り、当時のスウェーデンの音楽業界では海賊版や違法ダウンロードが横行していた中で、アーティストに最適な対価を還元することを目的としてサービスをスタートさせた背景があります。Spotifyは、デジタル・モバイルシフトが進んだ社会においてはオンデマンドでの音楽消費が最適な消費行動だと考え、実際にそのためのサービスを提供し、一方で、再生数に応じた対価をアーティストに還元することで上記の目的を実現しています。そして、USの音楽業界は、こちらにも記載がある通り、その市場規模をストリーミングサービスの普及によって2016年から4年間連続で2桁ずつ拡大させています。つまり、現代の消費行動に最適化された事業を構築することで、その業界、ひいては社会全体を持続可能な形に変えていくことが出来るのです。

「BtoC × DX」の"型"

と、前置きから少々長くなってしまいましたが、「BtoC × DX」にはいくつか"型"があると思っています。それはもちろんビジネスモデルという観点でもそうですし、事業戦略(開発)、組織設計、ファイナンスなどについても一定の"型"があるのではないかと考えています。

このシリーズ(今後シリーズ化する予定)では、まずは共通言語を作るという意味でもいくつか具体的な事例を取り上げ、その後に総集する形で型化の作業を進めていければと思います。

というわけで、第一回目となる今回は、冒頭でもご紹介した支援先のSpectraを取り上げたいと思います。Spectraは音楽(エンタメ)業界のDXに挑戦するスタートアップです。

まずは、ご存じない方のために事業について軽くご説明できればと思います。

Spectraの事業について

Spectraは音楽ファン向けにアーティストのライブ・チケット情報見逃し防止アプリ「Freax」を提供しています。また、今ではライブ・チケット情報だけではなく、音楽に関する動画・記事コンテンツの掲載も行っています。元々メルカリでプロダクトマネージャーを務めていた代表の浅香さんが手掛けているだけあり、現時点でかなりのユーザーエンゲージメントを誇っています。

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C側の消費行動の変化

Spectraは今後、音楽(エンタメ)業界のDXを推進していくわけですが、それを考えるにあたりまずはC側(音楽ファン)の消費行動の変化を理解する必要があります。

デジタル・モバイルシフトが進む中で、音楽ファンの消費行動はどのように変化しているのでしょうか。

少々粗くはありますが、簡単に画像のように整理しました。

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見ていただけるとわかる通り、音楽ファンがコンテンツを享受する消費接点が多様化しています。これまでCDを購入していたところからストリーミングサービスでも聞くようになったり、テレビで映像を視聴していたところからYouTubeやNetflixでも視聴するようになったりと、オンライン・オフライン含め消費行動の多様化が著しく感じられます。

そして、そもそものコンテンツ量が膨大なものとなってきていることも合わさり、音楽ファンが独自で自分に最適な情報を取得することが困難になってきています。

冒頭であげたSpotifyはオンデマンドでの音楽消費という切り口でDXを推進しましたが、SpectraにおいてはここにDXの切り口を見出しました。

つまり、コンテンツが数多く存在し、消費接点が多様化する中で、音楽ファンが独自で自分に最適な情報を取得することが困難になってきていますが、それを解決する形で音楽ファンに選ばれるサービスを提供することができれば、それを切り口として中長期的には音楽ファン・アーティスト双方のデジタルデータを集約するプラットフォームが実現でき、結果的に音楽(エンタメ)業界のDXを推進していくことができるのではないかと考えています。

そしてSpectraはこれまで、数あるコンテンツの中でもライブ・チケット情報に特化して音楽ファンに最適な情報を提供することで、ユーザーに選ばれるサービスを実現してきました。

DXの切り口を考える上では、ジェネシアが公表している「DXの羅針盤」がとても参考になります。今回はその中でも「型②:情報探索・選択コストの削減」「型④:データアグリゲーション」が当てはまるのではないでしょうか。

型②:情報探索・選択コストの削減

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型④:データ・アグリゲーション

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B側のマーケティングとマネタイズの変化

上で述べた通りのC側の消費行動の変化が生じている中で、こうした変化にB側(アーティストとそれに紐づく事務所とレコード会社)が対応できず、そのためオープンイノベーションやDXが叫ばれているわけですが、ではその"対応"とは具体的にどういったことなのでしょうか。

主には2つあります。それは潜在ファンの獲得におけるマーケティング効果の最大化既存ファンからのマネタイズの最大化です。

つまり、音楽ファンの消費行動が変化するに伴い、B側のマーケティング・マネタイズの手法も変化するはずなのですが、現実にはなかなか上手くいかず、マーケティング・マネタイズのどちらも満足のいく結果が出ていないことが多いように思われます。

これまでは事務所とレコード会社がそれらの役割を担い、マーケティング効果とマネタイズの最大化を実現してきたわけですが、一体どういう形で実現してきたのかを一度整理してみましょう。

(事務所とレコード会社について補足すると、例えば嵐は皆さんご存知の通りジャニーズ事務所という事務所に所属しており、一方でこちらはあまり知られてませんがジェイ・ストームというレコード会社に所属しています。KingGnuはソニー・ミュージックレーベルズというレコード会社に所属していますが、事務所には所属していません。また、チャンス・ザ・ラッパーというグラミー賞を受賞したUSのラッパーはレコード会社に所属していなかったりします)

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これはSpectraのピッチ資料からの引用ですが、画像の通り、事務所はテレビや雑誌などの露出面を確保することでマーケティングの役割を担ってきました。また、レコード会社は全国にCDを届けるためのディストリビューション機能を持ったり、ライブを開催したりすることでマネタイズの役割を担ってきました(もちろんお互いの役割を綺麗に線引きすることはできませんが、ざっくり上記のようなイメージです)。

ただ、確かにこれまではテレビに露出して全国でCDを販売しライブを開催すれば、マーケティング・マネタイズどちらもある程度満足のいくものになっていたかもしれませんが、現在は上で触れた通り音楽ファンの消費行動が変化しているため、これまでの手法が完全には通用しません(それでもテレビなどのマスメディアの影響力が依然として大きいことも事実です)。

こういった中で新たに必要とされる要素が、音楽ファン・アーティスト双方のデジタルデータを集約して、データドリブンでマーケティング・マネタイズを行うというものです。

クローズドイノベーションの限界

ではなぜB側はそれを実現することが出来ていないのでしょうか(ここでは音楽(エンタメ)業界に限らず一般論的な話をしたいと思います)。

主な理由は2つあると思います。

まず1つ目に、C側の消費行動に最適化するという考えが浸透しきっていないことが挙げられます。これまではコンテンツを保有していること自体が大きな価値でした。しかし、急速にデジタル・モバイルシフトが進む中で、C側がオンライン・オフライン関係なくあらゆるチャネルからコンテンツを享受することができるようになりました。それを踏まえると、コンテンツを保有しているだけでなく、それをC側の消費行動に最適化された形で届ける必要があるのですが、これまでのビジネスの延長線上で考えるとそもそもその発想が出てきにくいことが考えれます。

2つ目には、それを実現するための開発体制を構築する難易度が高いことが挙げられます。実際にSpectraは盤石な開発体制を構築しつつある中で、業界の中の方からそこを評価されることが多々あります。今ではオンライン上のサービスが数多く生み出されていますが、全てのサービスのUXがイケてるわけではないこともまた事実です。また、今ではオンライン・オフライン含めてUXを最適化するOMOという概念も生まれていますが、これはオンラインのみでの事業成長に限界があることに起因するだけではなく、C側の選択肢が多様化する中でオンライン・オフライン関係のないUXを構築する必要性が出てきたことにも起因すると考えています。そのため開発力もこれまで以上のものが求められているのです。

これら2つの理由でB側はC側の消費行動の変化に(クローズドイノベーションのみで)対応することが出来ていないのです。

アフターDXの世界

Spectraは現在、音楽ファン向けに「Freax」を提供していますが、今後はそのメディア価値を高めていくことでさらなるエンゲージメント向上を実現させ、それによって音楽ファン・アーティスト双方のデジタルデータを集約し、そこで得られたデータを活用してアーティストのマーケティング・マネタイズ機能を担っていくことを見据えています。そして、それによって「IP(アーティスト)価値の最大化」を実現することを目指しています。

ではそれが実現した際、つまりアフターDXの世界はどのようになっているのでしょうか。

上でも述べた通り、これまでアーティストが売れるためには事務所の人に何らかの形で認められ、そこからテレビなどのマスメディアに露出し、レコード会社を通して全国でCDの販売&ライブの開催を行うというのが一般的だった一方で、アフターDXの世界では大きく以下の2点が異なります。

①これまでは、ある"誰か"がアーティストを発掘し、そこから上記の通りの方法で"売れさせていく"ことが多かった一方で、アフターDXの世界では、アーティスト自らがFreaxなどのデジタルメディアを通して情報発信を行うことで潜在ファンに直接アプローチできるため、"ファン"の手によって"自然と売れていく"ことになります。つまり、本当にファンに求められるアーティストが売れる世界になるということです。

②また、これまではマスメディアを通してCDやライブのプロモーションを行い、それを"幅広いファン"から"短期的に投資回収"するということを繰り返していました。一方で現在では、例えばストリーミングサービスにおいては再生数によって売上が決まるため、極端なことを言うと1人のファンが何回も再生することで投資の回収が見込めるようになります。また、デジタル・モバイルシフトによってファンとの継続的な接点を持つことが出来るため、コンテンツのLTVを長期化することも可能です。つまり、アフターDXの世界では"コアなファン"から"中長期的に投資回収"することを目指すようになるため、こちらも①と同様に、本当にファンに求められるアーティストが売れる世界になるということです。

Spectraは、これら2つを実現することによって「IP(アーティスト)価値の最大化」を目指していきます。

おわりに

というわけで、第一回目となる今回は「BtoC × DX」の例としてSpectraを取り上げましたが、次回以降も具体例をいくつか提示し、次第に型化の作業を進めていきますので、ぜひ気長に付き合っていただけたらと思います。

また、もしこちらのnoteを見て興味を持っていただけた方がいればTwitterのDMからでも何でも構いませんのでぜひご連絡ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました!



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