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「アクティブ」な「まち」をつくるコツ. 超訳「目線から見た良いまち|80の教訓」(1/3 ソフトウェア編)まちの1階には、「何」があればいい?

 少しずつ「まちの1階」「建物の1階」のつくられ方が、その「まち」の可能性を圧倒的に左右しているということを、さまざまな業界の人たちにもご理解いただけはじめてきた。その兆しは確実に感じています。(photo = Jana Leu)

 しかし一方で、その次に立ち上がる「では、どんな風にデザインをするの?」ということに対する、あまりのリテラシーの低さに愕然としてきたこの数年間でした。いろいろな企業や組織、さまざまなプロジェクトの相談ごとをいただくことが多いのですが、あまりにもベースがなさすぎる。

 そんなもの調べればいくらでも出てくるのですが、日本語ものは田中の書籍以外に見当たらないので、今回はひとつの参考として、私たちが尊敬してやまない「A GOOD CITY AT THE EYE LEVEL」による「80 LESSONS TO A GOOD CITY AT THE EYE LEVEL」(by Hans Karssenberg, Jeroen Laven & Matthias van ’t Hoff)の超訳を取り上げます。

 私たち株式会社グランドレベルでは、ハード・ソフト・コミュニケーションのデザインと表現をしてきましたが、さまざまな設計デザインから紡いできた私たちなりのコツと、今回取り上げる内容には大きな親和性があります。今回のものに触れていただくと、より具体的にイメージを沸かせることができるでしょう。そして、何よりも人間味のある血の通ったテキストに震え、大きな敬意を抱くはずです。

 本気で日本のまちを変えたい、施設を変えたいと思う方は、どうかこれから3回を予定している本シリーズを熟読していただいて、「まちの1階」「建物の1階」の大切さと作り方のコツに触れてみてください。

 そしてこの視点を「実践しよう!」「取り入れたい!」という方がいらしたら、ぜひ株式会社グランドレベルに連絡をください。内容や規模にかかわらず 、プロジェクトに合わせた実装をお手伝いします。一緒によりよい社会をつくっていきましょう!


「80 LESSONS TO A GOOD CITY AT THE EYE LEVEL」

by Hans Karssenberg, Jeroen Laven & Matthias van ’t Hoff

※以下は、上記リンクに掲載されている英文テキストを私個人が和訳(超訳)したものです。英文を読み込みながら、今の日本のまちづくりや施設づくりの状況を鑑みて、より伝わりやすい日本語の表現をあえて使うようにしました。その点のみ予め了承ください。さぁ、まずはソフトウェアについて。

 以下は、「A GOOD CITY AT THE EYE LEVEL」における、主な教訓をさまざまな事例や経験、それに基づく気づきをまとめたものです。インタビューやケーススタディーから、他の都市でも応用できる80の教訓を見出し、複数のカテゴリーに分類しました。まずはじめに、新しい開発地域と、既存のまちにおける開発地域、それぞれについて見ていきましょう。それぞれに必要なアプローチが異なることを、わかっていただけると思います。

- 新しい開発地域における教訓(基礎編)

 公開空地は、建築物の計画を全て終えた後に生まれる余分なエリアではなく、新しい開発計画における「最重要ポイント」として見なすべきです。ここに寄稿された全ての事例を通して得られる一つの教訓があるとすれば、優れた開発計画とは、機能的側面と合理的側面を踏まえることはもちろん、同時に、「歩行者の体験」や「人間の行動」「人間の情動」についても、大きく考慮されているものです。

新しい開発地域においては、初期段階で、地面を歩くユーザーの目(視点)の高さから見えるまちを最良にするための建物や街路等のデザインに対する必要条件の基準をきちんとつくることが重要です。また、これらの基準は、交渉によって変更不可能なものとしなくてはいけません。一方で、そのような基準を満たすことで、メリットが受けられる制度の開発も必要です。
ニューヨークや韓国では、ビルの所有者がビルの足元(1階)を地域に提供(公開)することで、容積率の上乗せを可能としています。この戦略を持てば、一つひとつの建物の足元(1階)をそれぞれが管理するのではなく、周辺の街路も含めた地域全体として、公開された空地を管理することができます。

 また、その地上階(1階)と上部建築物の所有権を分けることによって、それぞれをひとつの資産として、捉えることを可能とします。このことで、上部建築物の多様な借主を規制・管理しながら、地上階(1階)の歩行者の量や流れを考慮した適切な区域と適切な機能のバランスを得ることができます。さらに、地上階(1階)の公共空間が、市民にとっての活動と場へと活性化させることができる。

【大西メモ】どんな建物を建てるのか、どんな開発をするのかということを考えて行く上で、「建物の1階」「まちの1階」「地上階」をどのように(広義の)設計デザインをするかということが、とにかく大切だということ。

- 既存のまちの開発における教訓(基礎編)

 短期間にすぐにトライする、そのための許可を徐々に与えていくことは、まちづくり、1階づくり、場づくりにおいて極めて重要な要素です。既存のまちを改良していくには、「簡単」「迅速」「安価」「実践的」アプローチと、長期的な改良の戦略、このふたつの組み合わせで成り立ちます。また、「規制」により、既存の状況を改善していくためには、好ましい試みについてはインセンティブを与え、そうでないものについて介入する、アメとムチが必要です。

 長きにわたってつくられてきたまちでは、活動的な不動産所有者や起業家、旧住民、まちづくりの専門家、そして、公共空間や自分たちのコミュニティに情熱を持っている人たち(zealous nuts)などから成る、既存のコミュニティネットワークが最も重要です。コミュニティにおける活動、そこで生まれる活発なコミュニケーションは、まちの街路や空地が通常とは異なる、非日常を生み出すことへつながります。

 既存のまちでは、多様な専門分野の視点で分析・共有することで変化させていくことができます。ある問題に対する解決のアイデアを共有しながら、さまざまなオーナーシップに対応できる戦略をつくっていくための人脈を確立させていくことは、極めて重要です。また、それぞれの分野は、独自の背景を持っているので、異なる戦略が必要となります。

 ここでは、あるまちをサンプルとして見ていきましょう。このまちの建物のうち、いくつかの建物は、それぞれの建物の足元の公共空間が良い関係にありますが、その他は、使われていなかったり、新たなプログラムが必要とされていたりします。そのような場合、1階に問題のある建物たちは、物理的な大改装を行い、街路とより良い関係を確立していくための、長期的なアプローチが必要となります。

- スケール:「街路と場」から「地区全体」そして「都市中心部」へ

 新しい開発地域と、既存のまちの違いの次は「スケール」について考えて行きます。あるひとつのまちにおいて大きな建物やストリートを変えることは、新しい開発地域で数千人規模の居住施設や中心街をつくることとは異なります。ストリートや場を扱う際には、具体的な介入方法、ワークショップ、ビジョンの共有方法、コミュティ内でのストリートやプレイスの運営、所有者同士の協力体制の改善、BID制度の導入などが、主に必要となってきます。

*Business Improvement District:法律で定められた特別区制度の一種で、地域内の地権者に課される共同負担金(行政が税徴収と同様に徴収する)を原資とし、地域内の不動産価値を高めるために必要なサービス事業を行う組織。

 より広いエリアについて取り組む場合は、事前に大規模な分析をより深いレベルで行う必要があります。
 例えば、都心全体の昼夜の歩行者の流れや発生源、土地や建物の所有権、変化の指標となる資産価値の推移、様々な出会いの場がどのような“柔らかさ”でつくられているかといったことなどを調べます。建物やまちの1階にある機能、1階店舗の空室状況を詳細にマッピングすることで、今後20年間にどのようなプロジェクトが必要とされるかを深く理解することができます。例えば歩行者の流れ・ネットワークを改善するという短期的なアクションから、今後数十年にわたって各開発によって細かいストリートのグリッドを段階的に構築していくといった長期的戦略まで、さまざまなことが考えられるでしょう。

- 機能:商業・居住・職業的エリア

 また、戦略はエリアが持つ機能ごとに変わってきます。
商業エリアでは、通りや場、情報の統合的な管理することで、歩行者に素晴らしい豊かな体験を提供し、起業家たち(小さな小売店を起こしたい人たちなど)の連携を促進します。
住宅地エリアでは、テーブルや椅子、植物などを置いて、住宅と道路を1階レベルでうまく結びつける、住民が自分のスペースをパーソナライズできるような「家庭的な」ハイブリッドゾーンを作ることで、歩道での素晴らしい体験を実現します。
企業やオフィスが主要なエリアでは、多様性を持たせるようにして、単調なファサードは避ける。もしくは細分化したユニットを複数つくり、内部を可視化できるよう改装する方法もあります。

 「場の空気感」というものが、それぞれの中心にあります。何十年、何百年と息づくことができる調和された柔軟なエリアに達することが重要です。時代を通して変わり続ける社会や経済に、地域が適用していけることで、真の持続可能性は生まれます。エリアに存在する公共空間の質やユニークな精神(まちの秩序)が市民たちに愛され、利用者たちが時間をかけて大小さまざまな投資をすることで、オーナーシップが感じられるようになります。

- レッスン:「ソフトウェア」「ハードウェア」「オーグウェア」

 新規または既存、街路または都市や、商業または居住。状況や背景がどのように異なろうと、歩行者の視点からの素晴らしい都市の形成は、常に用途(ソフトウェア)、構築環境(ハードウェア)と協力体制やツール(オーグウェア)の三角形のバランスに左右されています。

 本書では、掲載されている全ての事例から学べるレッスンを抽出し、上記の3カテゴリーに区分しています。特定のレッスンの詳細は、文末の数字が対応している章や事例を参照してください。

【1】 ソフトウェア

 3つのウェアの中で最も重要な要素であるソフトウェアには、ユーザー(使用者)、彼らの行動パターン、視点の高さからの都市体験、計画、土地の使用方や目的別ゾーニングが含まれています。

【1-1】 経験・体験

 人間は合理的側面のみをもつ存在ではありません。人間が都市おいて体験することは、その感情的側面を欠かすことはできません。つまり何をどう「体験」できるかということは、都市に生きる人々はもちろん、その地域の社会、経済いとっても重要なことなのです。その場において、良質の1階(グランドレベル)を体験できる、意識できることは、私たちにとって必要不可欠なものです。

 建築物そのものやスペース(空地)がどうデザインされているかということよりも重要なことがあります。それは、建物の内部、建物と建物の間の外部スペースにおいて、人々がどのような営みを行っているのか、活動しているかです。私たちはそこに関心を向けなくてはいけません。そこに本質的な価値があります。(03)

【大西メモ】われわれは「エッジゾーン」を表現をしています。世界ではいろいろな言葉でこのゾーンに対する表現を見ることができます。

 あなたの棲むまち・都市をすばらしくするためには、まず、あなた自身がそのまち・都市について注意深く意識を向けなくてはいけません。色や質感、まちのスケール、スタイル、キャラクター性、個性やユニークさは、どこにあるのでしょうか。この考察を通して、あなたの棲むまち・都市の仕組みをより良くしていきましょう。(03)

3開口率の大きい開放された正面を持つ小規模店舗を設置し、市民を心地良くさせることができれば、あたたかみのあるまちが生まれます。さらに、そこで人々のパブリックとプライベートとの間の活動を可能にすることで、人々が交流する意義や、その土地の歴史や物語が生まれます。それはまちへの愛着が育まれていくことになります。(04&10)

【大西メモ】まちの1階には、開口率の大きな小規模店舗をということ、その効用がさらっとまとめられています。もはや良いまちをつくるための原理原則というわけです。

4歩きやすさを向上させる実証済の成功要因を下記に示します。「アメニティの密度」「道路の接続性」「広い緑地への近接性」「地域のアクセシビリティ」「建物の設計」などが挙げられます。これらは人々の心地良い交流をつくり、都市生活の質を向上させます。(38)

5建物の1階部分は、その建物全体の10%にすぎませんが、人々が周辺環境において体験することの90%を占めています。(01)

【1-2】 使用を促すための1階の基本

 雪がなくては、雪だるまはつくれません。どんなにすばらしい建物やグランドレベル(1階)、街路や公開空地ができても、使用者(市民)がいなくては、何も意味を成しません。もし、人間(市民)の多様な営みやその背景がより理解されていれば、まちの魅力を最大化し、経済を改善するために都市中心部をより戦略的な方法で管理できます(06)。使用者、市民を第一に捉えるということは、女性や高齢者、子どもたちや障害者など、あまねく人々が、夜のまちで安全を感じるために、何が必要かを単純に想像することでもあります(05)

 そのまちにおける歩行ルートや賑わいのある街路を観察して自分のFingerspitzengefühl(フィンガーシュピッツェンゲフュール:場の状況を汲み取って適切な対応ができる感覚)を養い、新しいまちの1階(グランドレベル)がどのようにつくられているかいうことと、人々が移動するルートとを関連付けて捉えてみましょう。そして、消費者の体験調査から得られる綿密なデータをもとに、歩行者の動きをどのように構築していくかを考えて行きましょう(06、21、24)。

【大西メモ】訳を続けていると、どうにも日本語で表現出来る言葉がないものがいくつか出てきました。逆に「まちの1階」をみる、つくるという視点のはじまりは西欧的なのでしょうか。

7開放的でアクセスしやすい建物の1階をつくることで、まちを行き交う人々を惹き付け、まちの経済を活性化させていきましょう。そこには、便利なことだけではなく、驚きも与えるツールを提供できると良いでしょう(21)。

 都市内部(まちなか)では、交通機能をうまく組み合わせて、歩行者と車の交通量のバランスをつくりましょう(24)。しかし、重要な場所では、歩行者を優先しなくてはなりません(07)。同時に、配送車や歩行者、車での来訪者が街路によってまちなかへどのようにアクセスが可能か、その全体的なアクセス性を考える必要があります。また、居住者、買い物客、ビジネス用途など、さまざまな目的の車を可能な限り混合させることが望ましいです。車両の規制を緩めることで、夜の時間帯に人気を感じさせることができます

9武装した警備員や強固なセキュリティーを備えた贅沢なロビーより、まちに対して半分ひらいたような空間を(1階の入口に)設けたほうが、安全でより良い出入り口となります。

10街路は、「長さ」より「魅力」に重点を置くべきです。単純に商業的な街路を伸ばすことは、万能の解決策にはなりません。都市の中心部でなければ、それがむしろ命取りとなる可能性が高いです。

【1-2】 空間(Space)から場(Place)へ

 プレイスメイキングは、人々がやりたいと想うように過ごし、行い、生活(ライフ)そのものの共有(シェア)を促進させる「場」をつくることです。プレイスメインキングは、その場に棲む人々のために築かれる以上、行政や企業、大学等の力や、個人的なエゴから生まれるものではなく、市民の手によってつくられていくものです。私的な利益より、公共の利益、あまねく人々のためを考え、その全ての細部に象徴的な価値を込め、公共的な場所で活動する楽しさを感じさせるアウトプットを創出する必要があります(43)。

【大西メモ】プレイスメイキングについての言及は、非常に大切なことを伝えています。日本のほとんどは「楽しさを感じさせるアウトプット」にはほど遠く、市民の手ではなく企業、行政、大学がしかけるエゴ的なものばかりです。立上げ方からデザインまで、日本にある問題は大きいと感じています。

11 都市空間(まち)を活性化させ、その場のアイデンティティを強化するためには、市民の存在は欠かすことはできません。つまり、都市デザインや企画の大きなフレームワークよりも、マクロやミクロ規模で、都市をどのように活性化しうるのかという戦略を、優先的に発展させていく必要があります(39)。

12良い街路(ストリート)は場(プレイス)の連なりで成り立っています。良いプレイスには少なくとも10の良い「意図」や「アクティビティー」があるものです。ひとつの場所に複数の交流につながるアクティビティーを設けることで、「3つのウェア」の三角形を成立させてみましょう(53)。

13 一時的でも、「簡単で」「低コストで」「サッと実行に移せる」解決方法をトライしてみましょう。もし、それがうまくいかなくても、調整して、もう一度挑戦してみる。プレイスメイキングは、「消費」ではなく「投資」なのです(44)。

【大西メモ】プレイスメイキングを実施し、次はこうしよう!とサクッとアレンジしてみる。そんなことを次々と実践しているところは、施設や場所の運営では好事例を見ることができます。「喫茶ランドリー」ほか私たちが手がけてきた施設はもちろん、奈良県生駒市の「いこーえん」などが思い起こされます。

14 ディベロッパーをチームに迎え入れましょう。人とお金を、より引き付けることが彼らの目的でもあるからです。新しいタイプの公共空間を創造し、街路(ストリート)を息づかせることは、私たちの共通目的です(44)。

【1-3】 グランドレべルに何をつくるか

 「3つのウェア」のひとつ「ソフトウェア」は、「歩行者の体験」「使い方のパターン」「(建物の)一階スペース(土地の用途・機能・ゾーニング)の計画」などによって成り立っています。活気のあるグランドレベルは、小売業だけではつくることができません。小規模ビジネスのオフィスやアパレル、レジャー関係や、医療、飲食、住居など、他の機能についても考える必要があります。

15「素晴らしい街路(ストリート)」をつくるには、最も長くて10メートル毎に(その通りにとって)新しい機能を設ける必要があります。1階にオフィスがあるのは、街路の活性化にはつながりにくいので避けましょう。まちの1階に住居があることは、極端にその単独的機能が目立たない限り、夜に人気を感じさせまちの安全につながります。そうして、まちの1階に店舗やカフェ、レストランや学校、住居やオフィスなど、さまざまな機能が混ることで、街路(ストリート)がすばらしいものとなります(01)。

【大西メモ】つまり、一店舗の間口は最長で10メートルにしなさいということ。通りに面した100メートルのファサードがあったら、最低10店舗設けなさいと。

16過去からの遺産は、そのまちのアイデンティティの象徴として利用しましょう(18)。愛されている建物や写真、伝統的なイベントや有名人、古い店先やパブリックアートや街路周辺の歴史的な要素からヒントを得てみるのも良いかもしれません。

【大西メモ】通勤、通学の間に、歴史を感じられるものをどれだけ目にしているかという目線で歩いてみるのもオススメです

17  コーワーキングスペースのような一時的に利用する空間、レストランやカフェ、小学校などのような社会的な機能、そして何よりも1階の居住部など、新しく発生したまちの1階の空き室・空き家に、次はどのような新しい機能が誕生するのかに注目してみましょう。

18  大規模なショッピングストリートを考える上では、細心の注意を払いましょう。日中は人ごみに溢れていて活気があるように見えても、夜は閑散となり、多様性が欠如した脆弱性を持ってしまう危険性があるからです。(07)

19店舗を考える上では、まちの1階部分にクリエイティブな小売業者を選ぶと、彼らは商品を陳列するための独創的な方法を考案するので、人々を中に引き込むことができます(28)。大手チェーン店も惹きつけることはできますが、独占させず極力抑えることが必要です。本当の意味で地域のイメージ構築を行うのは、小規模なショップやスペースなのです(21)。

【大西メモ】例えばスタバが入るのと、喫茶ランドリーのようなお店が入るのでは、軒先にアクティブな風景をつくるパワーが圧倒的に変わってきます。それらが蓄積してまちができる。チェーン店だらけか、ローカルファーストかによって、まちは変わります。

20  都市部の再生エリアにおけるグランドレベルを楽しくするには、飲食、ファッション、正統的な異文化店舗を候補として考えてみましょう。これらは地域に新しい注目を引きつけることができるはずです。(22)

【大西メモ】結構大切なことを言っています。とりあえずカフェをつくれば良いと勘違いをしている人も少なくありません。飲食だけではなく、ファッションに異文化店舗。つまりより多様なカルチャーに触れられる状況が必要というわけです。

21  自営業(フリーランス)経済が成長するために、都市部では集いの場の需要が高まっています(12)。スタートアップ企業は、柔軟な契約と基本的な設備を備えたスペースを必要としています(34)。

【大西メモ】スタートアップ企業とは、サンドイッチ屋さんをやりたくなった人とかそういうものも含まれます。いろんなチャレンジが実現できる安価な賃料の小さなハコがたくさん必要だという話。

22  公共交通機関が発達していないエリアの単一用途のオフィスビルは、オフィスの空室率が非常に高くなる傾向にあります。住宅、レストラン、フィットネスジム、食品・非食品店、ギャラリー、レジャーなど、オフィスの機能を向上させるために、オフィスの要素に新たな用途を追加する必要が求められます(17)。

【大西メモ】コロナ以降、特にアメリカでは単一用途ビルが多様的にリノベーションされるプロジェクトがたくさん出てきました。日本の新築ビル信仰では当分そのようなブームは起きないでしょうか。

23  都市空間にフランドルのガレージのようなスペースを、通りの一部として残していきましょう。カフェ、やショップ、自動車修理工場、起業家のためのスタートアップスペース、ワークショップ、土地の販売、駐車場、輸出入業など。予想しない使い方へと広がることができる、柔軟な空間を街路の一部に盛り込むためです(14)。

【大西メモ】日本だと町工場が一番イメージしやすいでしょうか。そのような物件が残っていてリノベしていろいろに使われていくことの大切さについての言及です。

【1-4】 目的地への道案内の作り方

 目的地への案内は、都市環境におけるユーザー体験を豊かにしたり、目的地へ向かう人々・来訪者をより必要とするエリアに引きつけ地元経済を支援したり、特定の動線へと人々を誘導することで行動を促すために、活用されます(41)。

【大西メモ】その地域に地図(マップ)はありますか?それが魅力的につくられていることが、とってもとっても大切だというセンテンスになります。行政がつくるものは、名所ばかりでつまらないですね。市民の幸せのためにあるべき地図とは!?

24 効果的ではあるが柔軟性に欠ける指示ではなく、直感に訴える案内に努めよう。構造と差別化の絶妙なバランスを提供しよう。空間を目的地ゾーンにグループ化し、局所的な空間ゾーンを特定し、入口、出口、経路、分岐点などの要素を強調しよう(41)。

25効率的な目的地案内デザインは、その場しのぎの設置ではない。人間工学、地域の日々の習慣、名の知れた人物、文化的な伝統、場所のキャラクター性などをヒントにしながら、どのようなシンボルが人々にとって特別な意味を持つかを探ろう。思慮深く、意味のある調査を行い、どのように表現するかを考えよう(41)。

【1-5】 ストリートの活性化:場としてのマーケットと路上演奏

ストリートの活性化には、市場(マーケット)とストリートミュージシャンが欠かせない。都市は市場から育まれ発展し、市場は人々が出会い、ビジネスを成立させ、交流するための活気的な方法です。市場は、人間の視点の高さから見た都市体験を素晴らしいものにしてくれます。
ストリートミュージシャンやパフォーマー(大道芸人)は公共空間を活気づけるのに有効な方法です。ストリートミュージシャンは、低コストで大きな影響を与えられます。インフラを必要とせず、アーティストと投げ銭のみで実現できるものです。街頭演奏家は街路レベルでの社会的交流を促し、親密さを醸し出し、人々に心地良さと安全を感じさせることができます。彼らは、低所得者がアクセスして楽しむことができるライブエンターテインメントを提供しています(61)。

【大西メモ】日本では、ここまできちんとストリートミュージシャンの大切さが認識されているでしょうか。彼らはまちに在り続けるべきものであり、賞賛に値するものなのです。安易に警察が取り締まるのではなく、みんなが彼らを讃えられるまちをどのようにつくっていくのか。

26 良いマーケットとは、商品と人が混在していることが、何よりも素晴らしい場所です。良いマーケットを作るためには、市民や消費者を採用し、管理運営チームを多種多様な人で構成することで、マーケットをより活気づけることができます(57)。マーケットを動かすのは人です。一日だけマーケットが開催できるようなフレキシブルな駐車場、飲食エリアをつくることができたり、ストリートミュージシャンやパフォーマーたちが集える場所にもなれる、適応性の高い駐車場をつくりましょう(57)。

27 マーケットは地元の小規模販売者にとって重要な役割を担います。参加費を取らず、地元住民たちに商用スペースを無償で提供できるマーケットを、低所得者エリアで開くことで、住民の所得を上昇させ、起業者意識を養わせ、人々の社会的地位向上の第一歩の機会を与えることができます(57)。

【大西メモ】低所得者エリアが日本ではほとんど見られなくなりましたが、世界でもダントツに低い日本の起業意識を高められるという点では、マーケットは今後日本でもより推し進めて行く必要があります。ただそれは今日本中で起きているようなプロが集うようなものではなく、もっともっと個人性豊かな小さなチャレンジが集まっているものに可能性があると思います。

28 カジュアルなマーケットは、公共の街路でこそ、より成功します。古い樹木や壁、バスの停留所などは、街路沿いに設置される簡易的な屋台の仮設フレームを支え、また終了時にはすぐに解体することができます。このような市場は、多くの下層中産階級の人々に安価な購入の選択肢を提供します。一日の終わりには、解体され、梱包され、運ばれていきます(52)。

【大西メモ】ここで言うカジュアルさは、日本のそれとは違います。月一、年数回のようなイベント的マーケットは日常を変えません。今の日本に必要なものは、もっともっとカジュアルなそれです。ぱっと出現して、夜にはなくなっているようなマーケットを日本が取り戻すことができれば、日本は、その地域は大きく変わることができるでしょう。

29 最高のストリートミュージシャンやパフォーマーの才能を、そのまちが得るためには、最高の彼らがそこでやってみたいと思うような都市(まち)にしなければならない。都市のストリートミュージシャン・コミュニティと協力して、彼らが自由に表現できるためのポリシーやガイドラインを策定しよう(61)。


さぁ、まずは29個のコツが登場しました。次回以降、残り51個を紹介していきます。

それでは、今日はこの辺で。

1階づくりはまちづくり

先日、田中の『マイパブリックとグランドレベル』が、日本建築学会著作賞を受賞しました!あれから5年。田中の新しい書籍『1階革命』もよろしくお願いします!

大西正紀(おおにしまさき)

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

*グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
http://kissalaundry.com

多くの人に少しでもアクティブに生きるきっかけを与えることができればと続けています。サポートのお気持ちをいただけたら大変嬉しいです。いただいた分は、国内外のさまざまなまちを訪ねる経費に。そこでの体験を記事にしていく。そんな循環をここでみなさんと一緒に実現したいと思います!