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はきだこ

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正木諧の作詞した楽曲にまつわるあれやこれやを綴ったショートショート。 ラジオのような感覚で楽しんでほしい。
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#短編小説

はきだこ 第八回 あぐら女

はきだこ 第八回 あぐら女

あぐら女はかく語りき (急)

パンコと嘲笑され語り草になろうとも、彼女は忽然と姿を消すつもりでいた。
実際、数年は行方も知れず放浪するヒッピーとして生活を続けていた。

リストラクチュアリングとブラッシュアップに関する打算的失敗への内省がなかったわけではない。
ただその素振りは見せないようにしていた。
少なくともロックスターの訃報を耳にするまでは。

詩と音には整合性というものがある。
どこにで

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はきだこ 第七回 あぐら女

はきだこ 第七回 あぐら女

あぐら女はかく語りき (破)

天使の曲についての悪魔による観測地点が此処だ。

ぬるこい曲で騒いだわけでも、ロックスターの真似事をしたわけでもない。
ただ自分の声で自分だけの音を鳴らす快感に彼女は痺れ、オーガズムに達していた。
在りし日のLPの溝から発される英雄たちの音でなく、確かに自分の思うように叩き出される騒音。
アンプを通じてスパンキングする鋼の波が、黒い箱の内側を撫で去る。

「誰にも届

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はきだこ 第六回 あぐら女

はきだこ 第六回 あぐら女

あぐら女はかく語りき (序)

あぐら女という自称問題児が生を授かったのは今はもう忘れ去られた平成。
彼と呼ぶべきか、彼女と呼ぶべきか、有象無象の現世ではどちらの呼称も角が立つ。
ただこれは概念についての物語であり、「それ」と呼ぶにはあまりにも他人行儀なので、ここでは彼女と呼ぶことにする。
これで批判的な意見が角だけでなく目まで立つのであれば、加加筆修正することにやぶさかでない。

本題から随分と

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はきだこ 第五回

はきだこ 第五回

空が暗くなり、ブロンズの金具はより一層 影を濃くした。

夏の日が長いのは、昼の時間が長いというよりかは、人間が夕方と認識できる時間帯が増えるからではないのかと思う。
頭の足りない俺がそう思うくらいに、この夕暮れはゆっくりと過ぎていた。
彼女は沈思する僕を余所目に、アイスキャンディーを齧りもって歩いていた。

人間は後悔の満ち引きで躁と鬱を繰り返し、くたびれていく。
「もしもこう在ったなら今頃は」

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はきだこ 第四回

はきだこ 第四回

人体の臓器の中で最も美しいのは子宮だ。
生命の宿る神秘的な部屋で、造形は天使のようにも見えるシンメトリー。
それを彼女に力説すると少し嫌そうな顔で苦笑いをされた。
そういった下賎な会話でないことを伝えたいのだが、熱がこもればこもるほど逆効果らしい。
最早彼女にとってパッケージングは些末な事なのだろう。
こうなると、ぽっと宇宙に生み出されるエロスとタナトスの話から始めないと伝わらない。

ブルースの

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