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はきだこ

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正木諧の作詞した楽曲にまつわるあれやこれやを綴ったショートショート。 ラジオのような感覚で楽しんでほしい。
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はきだこ 第三回

はきだこ 第三回

※センシティブな内容を含むので苦手な人は飛ばしてください。

無宗教というものは恐い。
「肉体は魂の器でしかない」というのも少し違う。
死を以て生物は世界との境界線を失くすものだと思う。
単細胞の死は膜が破け、徐々に崩壊していく。
ただ唄のように空中に溶け出し、不協和音のように混じり合う。

「一緒に電車に乗ろう」と意味不明な約束を交わしたこともずっと忘れずにここに残っている。

「はきだこ」は作

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はきだこ 第二回

はきだこ 第二回

随分と歩いてきて、地上に出た。
今はただ日を除けるためだけにあるシャッター街を歩く。

白い壁に木の床。がらんとした空間に吹き抜けの二階。丸い窓からは公園とラブホテルが見える。
その無機質な空間で音楽は鳴り響いた。
中学生の頃に通った古いレコーディングスタジオのように煙草臭い箱の中、端から端まで音に塗れる時間で、ただ面白いことを見つけて遊んで帰る大人たち。
そんな人たちと場所が好きだった。

音楽

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はきだこ 第一回

はきだこ 第一回

肉を焼く音が喧騒に掻き消される。

その時、俺は珍しくへべれけに酔い、そいつと一緒に自らの手の甲に煙草を押し当てていた。
何の生産性もないそのチキンレースに白旗を揚げたそいつは、ぬるくなったビールを一気に流し込んだ。
何によって生まれたかわからない笑い。
痛みは想像より少なかった。
翌日目が覚めると、擦れて肉が剥げたのか、ジーンズのポケットは赤黒く染まっていた。

そいつとの関係は痴情のもつれで終

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