“草原”の国モンゴルの美しき“森林”は薬の宝庫
妖精がいる?神秘的なモンゴルハーブの森
前回も書いたように、モンゴルの多くの地域では一年の半分以上の日が氷点下となる。
このような寒冷地で草花たちが地上で元気でいられる期間は、例えば今回滞在したテレルジ国立公園周辺(ウランバートルから車で2時間ほど)であれば、5月中旬~9月中旬ぐらいであろうか。
『モンゴルハーブ塾』が開催された6月はその中でも、植物たちの花が争うように一斉に咲き乱れるシーズンだ。
植物にとっては過酷なサバイバルなのだが、大きく広がる青い空と眩しく輝く太陽の下で、美しい花たちが果てしなく広がる草原の光景は、大げさでなく“天国に来たのかな?・・”と錯覚するほどである。
モンゴルハーブ塾の3日目は、モンゴル国立大学の植物学教授のニャンバイエル先生を招き、そんな生命力溢れる草原ハーブたちを観察する日のはずだった。
当日の朝、ゲルの屋根を雨が激しく叩きつける音で起こされる。
外を見れば散策はとてもできない天候。ウーン、困った・・。
致し方なく朝食の後、参加者の皆様に「今日は雨が上がるまで我慢、のんびりと過ごしましょう。」と声を掛ける。
もちろん心中は「このまま雨が止まなかったらどうしよう?」と気が気でなかったが・・。
思い悩みながら、ふとゲルの裏側に繋がる窓を見ると・・
川の向こうに、モンゴルでは珍しい濃い森林が広がっているのが見えた。
「そうか。森ならば、樹木が雨を遮ってくれる。」
そう思い立った私は皆を待たせ、まだ降りしきる雨の中を下見に出かけることにした。
外に出て森の入口の手前まで進むと、そこには段差があり、小さな美しい川が流れていた。
そこを「えい!」とジャンプして、向こう岸に渡る。
子どもの頃、故郷の鎌倉にまだ多く残っていた野山を駆け回った頃のワクワク感が甦った。
そして、いざ森に入れば思った通り、樹木たちが雨を遮ってくれた。
人の手が入っていない、モンゴルの美しい森。
雨と薄い霧が、その風景を幻想的なまでに演出してくれている。
本当に・・森の妖精がいるようだ。
“モンゴルの森”で感じた“日本の森”の歪み
私は和ハーブ関連の講習・調査などで全国の森林を訪ねさせてもらっているが、寂しく哀しい気持ちになることが少なくない。
日本国内では人が行けるエリアに“手つかずの自然”が残っていることが、かなり稀だからだ。
日本は元来、森林の国である。
現在でもその国土に占める率は70%を超え、先進国の中では世界第2位だ。
一方で、昭和30年代以降の造林政策により、その半分近くはスギやヒノキなどの常緑針葉樹に植え替えられた、“世界一の人工林の国”でもある。
これによって起こっているのが、国民病ともいえる花粉症の蔓延。
そして、スギやヒノキの根形が土中にしっかり張らないことによる、森の保水力減少と土砂崩れが起きやすい土壌の増加。
さらに、広葉樹の森に生きる熊が居場所を無くし、餌を求めて人里周辺への移動してくるという問題も顕在化している。
そしてこれらに加えて、“食物連鎖の頂点”オオカミが明治時代に絶滅されられたことで、鹿が異常に増えて自由に動き回れる環境が、こんな日本の森林に追い打ちをかけている。
そもそも常緑の人工林は、一年に渡って日光が遮られ、非常に限られた植物しか生息できない。
そこに貪欲な鹿たちが現れ、草の根や木の葉をトコトン食い尽くすことで、有毒植物とシダ類しか生えない“死の森”が多く生まれているのだ。
自然林の維持と循環を考える時、樹木や植物のみならず、その他の生物や様々な環境が大きな影響を及ぼすことを、決して忘れてはならない。
ここモンゴルの”手つかずの森”に入り、その美しさ・雄大さに感動したと同時に溢れてきたものが、わが日本の森林の現状を憂う気持ちだったことは、少々複雑だった。
森に生きる薬草と薬樹
話を、テレルジの森に戻そう。
ここの森の王者は、「カラマツ(シベリアカラマツ)」である。
針葉樹では珍しい紅葉して落葉する高木で、森の樹木の大半を占めている。この時期、たわわになっている「マツボックリ」が可愛さは、森の支配者たる姿の中にちょっとしたコントラストを醸し出す。
ニャンバイエル先生によれば、モンゴルでは「ナス」と呼ばれ、樹皮を乾燥させて煎じたお茶は、抗炎症や熱覚まし効果が高いという。
実は薬だけでなく、柔軟で丈夫な材が、遊牧民の母屋であるゲルの骨組みにも使われるそうだ。
環境が厳しいモンゴルで唯一、大量に生える樹木は、人々の根幹生活材として欠かせないようだ。
そしてナスの足元には、茎に棘を持つ三出複葉(一枚の葉が三つに分裂した葉形)の植物が群生していた。
葉の特徴は日本の「ヘビイチゴ(食べられない)」を、そのまま少し大きくした感じ。
「このイチゴ類は食べれるの?」と聞くと、先生より先に通訳のボヤナが「これは子どもの頃から皆、良く食べます。凄く美味しいですよ!」と答えてくれた。
調べるとモンゴル語で「グゼール・スグン」と呼ばれ、日本のキイチゴと同じグループらしい。
草原の国の森で美味しい野イチゴに出会えた感動とともに、「寒い地域の森では短い夏に成るベリーたちが、数少ない森の恵み」という、シベリア出身の女性から聞いた言葉を思い出した。
さらに森を進むと、モンゴル版“ローズヒップ”「タカネバラ」が、ヒッソリと咲いている。
現地の言葉では「ノホン・ホシュー」と呼ばれ、キチイゴ同様に生の果実を食べるとともに、乾燥させたお茶を常備する、メジャーな薬草である。
果実を一般家庭で自然乾燥させることができる文化は、湿度が非常に低いモンゴルならではだろう。
タカネバラは和ハーブの「ハマナス」同様、ビタミンCがポリフェノール類と特殊な結合をした分子構造を持っており、乾燥させてもその機能を失わないことで知られている。
野菜や果物を食べないモンゴル人たちが、ビタミンCの天然サプリメントとして活用してきたのだろうか。
森は、さらに奥に続く。
そこには、一見には見分けがつかないほどそっくりの、究極の薬草と毒草が隣り合って生えていた。
次回は「モンゴル人が“もっとも飲む薬草”と“もっとも危険な毒草”は、瓜二つ」をテーマにお伝えします、お楽しみに。
モンゴル薬草シリーズ①はこちら↓↓↓↓↓
https://note.com/masaki_waherb/n/n296165f2f43c
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