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「私が叱られればいいんですよ」 それは計画力ナシ組織の断末魔の叫びに聞こえる

その製品開発プロジェクトが大きな問題を抱えていることは明らかでした。

あてにしていたエンジニアを調達できなかったことでプロジェクトの開始が3ヵ月遅れたにも関わらず、納期は以前のままでした。カギを握る技術に目途が立たないことを理由に、腕っこきのエンジニアはそれにかかりっきりで、プロジェクトを推進しているのは未熟なメンバーたちでした。

異常事態を感じ取った幹部は私と数名のスタッフに声を掛け、このプロジェクトの現状を把握するように指示しました。なぜなら、周囲から聞こえてくるのはネガティブな話ばかりなのに、このプロジェクトのプロマネ(プロジェクトマネージャのこと)からは何の相談も無かったからです。
私たちはプロマネとシスマネ(システムマネージャのことで、シスマネはプロマネの下で技術領域を取りまとめている)を呼び出して事情を聴きました。

           「大変な状況のようですね」
プロマネ「ひどい状況です。技術に目途が立ちません。そのせいで中断している製品開発を再会できていません」
           「技術検証と製品開発を別建てで並行して進めないと間に合わないのではないですか? 予定日からすでに半年近く遅れていると聞きました」
シスマネ「無理ですよ。プロジェクトが輻輳していて優秀なエンジニアが足りないんです。技術に目途が立てば、そこのエンジニアを製品開発にまわすことができます」
           「それで間に合うのですか?」
シスマネ「さあ… まずは技術検証に全力で取り組むだけです」
           「私が知りたいのは、納期に対して計画は成り立っているかどうかです」
プロマネ「そんなのわかりませんよ。製品開発を再開したところで、技術問題が解決していなければ、いずれは壁にぶつかります」
           「計画を見せてもらえませんか」
シスマネ「技術問題を解決できたら設計を再開します。設計は二手に分かれて同時並行で進めます。それでも到底、間に合うとは思えませんが… 」
           「まずは計画を見せてください」
プロマネ「いま説明した通りです。計画なんて… 頭の中にしかありませんよ」
私           「では、大雑把で構わないので、いっしょに計画を立てましょう。発言していたことを計画に書き起こせばいいだけです。MS-Project(マイクロソフトが提供するプロジェクトマネジメントツール)は私が操作します」
プロマネ「そんなことしても無意味ですよ。うまくはいきません」

そんなやり取りの中でプロマネの口から飛び出した言葉がこれです。

「どうせ、私が叱られればいいんですよ」


この言葉を私は以下のように理解しました。

・ 計画を立てたところで、納期を達成できない計画を前に幹部たちは私を叱るだけだ。助けてはくれない。
・ 結局、私は客先に引っ張り出され、皆から袋叩きにされる。
・ どうせ叱られるなら、自分のやりたいようにやらせてくれ。幹部の指示通りにやったところで疲弊するだけで、自分ひとりが叱られるという状況に変わりはない。
・ 多忙を極める現段階で問題を表面化させたくない。そんなことになったらチームメンバーたちが苦境に立たされる。そうなるくらいなら、最後は自分がすべての責任をとって叱られればいい。
・ 今、どうあがいたところで、このプロジェクトはゴールを達成できっこない。できる限りのことを精いっぱいやっているのだから、納期遅延したところでそれがベストの結果だ。

このブログを冷静に読んでいる皆さんなら、もうおわかりでしょう。
「私が叱られればいいんですよ」と啖呵を切ったところで何も解決しません。自分の責任を放棄するひと言でしかないのです。

計画を軽視して問題を垂れ流している組織は、遅かれ早かれ、このようなあきらめに満ちてしまいます。彼らは私たちの追求に対して、そのあきらめを口にしただけましです。たいていは、無言のうちに、静かにあきらめています。

このケースの顛末はハッピーエンドでした。
私たちは口八丁手八丁で嫌がるプロマネを口説き落とし、計画の場に引きずり出すことに成功したからです。
時間を掛けず大雑把にタスクを洗い出し、期間を見積り、依存関係を設定しました。それだけで現状は明らかになりました。幹部と同じ土俵で危機感を共有するには、この程度の計画で十分でした。
組織を挙げて最優先で対応したことで技術問題には解決の目途が立ち、計画は実現可能なレベルに書き換えられました。私たちは継続してプロジェクトを支援し、進捗会議を通じてプロジェクトにリズムを生み出すことができました。

あきらめることは簡単です。
厳しい状況の中で延々と苦しみ続けるよりは、いっそあきらめてしまったほうが楽かもしれません。
しかし、計画を立てて危機感を共有することさえできれば、危機が重大であればあるほど、周囲はそれを見過ごしたりはしません。皆さんを救うためではなく、組織を救うために動き始めます。

ビジネスでは、ひとりで背負い込むことほど無意味なことはありません。
その間も、問題は膨らみ続けているのです。


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