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【感想】劇場映画『ベイビー・ブローカー』
ベイビー・ブローカー:是枝裕和監督の新作。前作はフランスだったが今作は韓国。まさに「そして母になる」で、盗る側から捨てる側へ『万引き家族』と逆の構図の物語。秘密・誤解・対比が何層にも重なる緻密な脚本。撮影は『流浪の月』も記憶に新しいホン・ギョンピョ。逆光による陰影が美しい…
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) June 24, 2022
映画タイトルで「ベイビー」と来たらついつい「ベイビー・ドライバー」と言ってしまうのは自分だけでしょうか?
しかも今回は語呂も似てるw
余談はさておき早速観てきました、是枝裕和監督の新作。
前作『真実』はフランスで撮っていたけど今作は韓国(俳優もスタッフもロケ地もオール韓国)
『真実』は是枝作品を貫いてきた家族というテーマがやや後退したように見受けられて個人的には異色の印象だったのだが、今作では再び家族というテーマに回帰。
多層的な構造の脚本
本作のあらすじは「赤ちゃんを売りに行くロードムービー」という割とシンプルなものだが、その下に何層にも渡ってテーマが散りばめられている。
ソヨン(イ・ジウン)が母になる物語
警察(ぺ・ドゥナ&イ・ジュヨン)の仕掛けた罠
ソヨンの抱える秘密(韓国マフィアとの間に起きたある出来事)
ドンス(カン・ドンウォン)の生い立ち
バディとしてのブローカー2人組と刑事コンビの対比
父になれなかったサンヒョン(ソン・ガンホ)と母になりたいスジン(ぺ・ドゥナ)の対比
クリーニング店や雨など「洗い流す」モチーフで示唆される過去の清算
なかなかの情報量。
是枝作品でロードムービーといえば車ではなく電車の旅の『奇跡』
赤ちゃんを売る過程で母親としての自覚が芽生えて成長していく物語はまさに『そして父になる』の母親版。
しかし、そこに警察の捜査の手が迫るサスペンス要素が敷かれている(ストーリーの推進力はここが担う)
さらにソヨンの謎がミステリーとして機能し、韓国マフィアも絡んでくる。
そもそもサンヒョンはなぜドンスを相棒に選び大切にしているのか?
サンヒョンにとってのドンスとスジンにとってのイ(両者とも車の中で長い時間を共にし、奇しくも拳を突き合わせてお互いを鼓舞している)
是枝作品ではお馴染みの父性というテーマと今作ではそこに母性も。
それぞれの過去と未来への思い。
これらの要素を1本の映画脚本にまとめた手腕はさすが。
前作『真実』は入れ子構造だったが、今作はミルフィーユみたいな多層構造の脚本。
ただ、もしこれが例えばNetflixで全6〜8話のドラマでじっくり描けたらもっと描き込めたのではないか?という妄想もしたくなる。
そんな(?)是枝監督の次作はNetflixドラマ。
ちなみに是枝裕和という人は基本的に社会問題を描きたい人ではないと思っている。
『そして父になる』も病院での子供の取り違えが物語の発端ではあるが、その原因(例えば病院の体制や労働環境など)を追及したわけではなかった。
唯一の例外は日本の司法制度への疑問・興味から制作がスタートした『三度目の殺人』
真相・真実が何かを明示しないミステリーの語り口は今作にも通じるものがある。
今回も赤ちゃんポストの是非に対して積極的に何か意見を表明したり結論を出したりしようとするわけではないので、そこを不満に感じる人はいるかもしれない。
自分は前述のようにそれが是枝作品の色(良くも悪くも)だと思っているのでそこに不満を覚えることは無かった。
『万引き家族』との対比
本作を鑑賞する上で最も有能な補助線はやはり『万引き家族』
あちらが子供を盗む側の物語だったのに対して今作は手放す側の物語になっている。
子供が高い値段で売れて手元からいなくなるのがゴールなのだ。
また、その対比構図は警察の描き方と結末にも見られる。
『万引き家族』では社会の象徴としてやや抽象化した描かれ方で終盤に少しだけ登場した警察。
やや画一的な判断をして「確かに社会的には正しい判断だけど、本当にあれで子供たちは幸せになれたんだろうか?」というモヤモヤを観客に抱かせた。
今作では警察サイドにもドラマを持たせているし、結末もあの赤ちゃんはきちんと警察が責任を持って幸せに育てられているというハッピーエンドを用意している。
事件は解決したけど幸せな結末だったのかは不明な『万引き家族』とは対照的。
ただ、アップデートというよりは単に同じ描写をやっても仕方ないってことかなと。
好みで語っても優劣で語ることではない。念のため。
惜しむらくは、ここの描写が最後の数分間で一気にダイジェスト的に語られるためやや唐突感があることか。
確かにスジン刑事(ぺ・ドゥナ)が母になりたいのだろうという描写はあったから脚本の筋は通っているのだけど。
撮影監督ホン・ギョンピョ
本作の映像面を支えた撮影監督は韓国映画界の名手であるホン・ギョンピョ。
最近では『流浪の月』での見事な仕事も記憶に新しい。
今回は逆光を多用した陰影を強調したショットが印象的。
俳優の表情がほとんど見えないカットも結構あった。
あれだけの韓国を代表する俳優を揃えながらも是枝監督らしい抑えた演出。
(もしかしたら言葉の壁で俳優の演技を完璧にコントロールできない故の作戦かもという邪推もあるにはある)
白眉はネオンに照らされた屋上でのソヨンと警察2人の密会シーン。
逆光に照らされた2人の人影がまず映り、そこから数秒遅れて手前にもう1人が入ってくる画面の構図も含めて本当に美しかった。
夕方の観覧車シーンの青を基調としたショットも綺麗だったなー
あと、あのサッカーボール少年(イム・スンス)は是枝監督の子役演出のマジックが見事に炸裂しているとか書きたいこと他にもあるけど今回はこの辺りで。
(サッカーボール少年のことは一言だけでも触れておきたかったw)
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