【感想】IMAX映画『オッペンハイマー』(とメルボルン旅行記)
「原爆の父」という題材ゆえか、はたまたバーベンハイマー炎上騒動の影響か、待てど暮らせど日本公開が発表されないクリストファー・ノーランの最新作『Oppenheimer』
(これ以降はカタカナの『オッペンハイマー』と表記します)
IMAX 70mmフィルム上映
この記事のサムネ画像(公式ビジュアル)に
とあるように本作は紛れもなくIMAX映画である。
IMAXには2つの側面がある。
撮影方式のIMAX
上映方式のIMAX
撮影方式はIMAXカメラで撮影したか否か。
これは映画を撮ってる段階の話なので観客にも映画館にも関与しようがない。
IMDbのTechnical Specificationsを見ることで調べられる。
ただ、よりチェックすべき大切なポイントがアスペクト比。
この1.43 : 1というアスペクト比が曲者で、ここで上映形式の話が絡んでくる。
日本国内にIMAXを名乗る劇場はいくつもあるのだが、実は本作をフルサイズで上映できるのは池袋と大阪の2箇所しかない。
この辺りは技術的にちゃんと解説しようとすると色々あるのだが、とにかく1.43 : 1というアスペクト比を上映可能なスクリーンが池袋と大阪にしかないのである。
2年前にMCU映画の『エターナルズ』が公開された際に109シネマズ大阪エキスポシティの公式Twitterが画像付きで説明してくれている。
【追記】画像はグランドシネマサンシャイン池袋の『デューン 砂の惑星 PART2』の方が分かりやすいかも。
さらに事態をややこしく(?)しているのがクリストファー・ノーランのこだわりのフィルム撮影。
前述の池袋と大阪に配備されているIMAXレーザー/GTテクノロジーも4Kツインレーザープロジェクターなので、オリジナル準拠のフィルム上映環境は遂に日本に無い。
というか今や世界でも少数。
で、その70mmフィルムは何が凄いのか?
答えは圧倒的な解像度。
35mmフィルムはザラついた質感が特徴だが、70mmはデジタル4Kが太刀打ちできない美しさ。
後述のように本作は俳優の顔のアップが多いのだが、世界最大級のスクリーンに映し出された肌のキメ!
毛穴や産毛が見えるという表現は一切冗談ではない。
その数少ないIMAXフィルム上映環境を揃えてくれたのがオーストラリアはメルボルンにあるIMAX Melbourne
自分は6年前に『ダンケルク』をここで観たが、今回『オッペンハイマー』について当初は「今はかなり円安で海外旅行しづらいし、まぁ日本公開時に池袋か大阪で観ればいいか。3年前の『TENET テネット』もそうしたし」と高を括っていた。
ところが前述の通り待てど暮らせど日本公開は未定のまま。
遂にアメリカではBlu-ray & DVDが発売されてしまった。
そして「日本公開はマジで決まってないらしい」という不穏な噂もそれなりに信頼できるメディアから流れてくる。
さらに「実はその噂はデマらしい」という取材記事まで。
もう何が何だかw
この記事がとても丁寧に取材されていました。
そして個人的なことで恐縮だが、先日母と京都旅行した際にNintendo KYOTOの整理券が必要と知って「ふらっと立ち寄れないなら無理して行かなくていいかなー」と言ったら「行ける時に行かないとダメよ」と36歳にして諭されたのであるw
正直「いや、いつか京都に行きたいって7年前から言ってたけど今回俺がホテルと新幹線その他諸々を手配して初めて来たやん」と反論したい気持ちが無いこともなかったが、ここは素直に従って渡豪することにした。
ちなみに今回は妻も一緒に渡豪。
事前予習
英語のリスニングはある程度できるのだが、とはいえ字幕なしで3時間理解できるか不安があった。
そもそも今回の映画は原作ありの史実なのでネタバレもへったくれもないだろうということで何冊か本を読んでから観ることに。
まずはピュリッツァー賞も獲得した今回の映画の原作。
上下巻で正直かなりのボリュームだが、この本を最大の参考資料として脚本が執筆されたらしい。
続けて日本の書籍を2冊。
鑑賞後に思うのは「マジで読んでおいて良かった」w
映画の感想
クリストファー・ノーランといえば時間・時系列を操作する複雑な作劇が特徴である。
今夏に発売されたこの本が非常に詳しい。
本作は実在の人物を描いた伝記映画だが、過去作と同様に複数の時間軸を交差させた構成になっている。
原爆開発の時間軸と水爆反対に端を発する聴聞会の時間軸の2つが大きくメインではあるのだが、それ以外の時代も出てくるし、それらがかなり細かく前後・挿入される。
19XX年のような表記が画面に表示されることもない。
映像のカラー or 白黒と俳優のメイクによる描き分け。
それが3時間の長尺で続くので、正直どういう話かは把握していないと結構厳しいかなと思った。
例えば「原爆の父」という事前情報だけで「原爆を作るまでのストーリーなんだな」と思い込んで見始めると冒頭から聴聞会のシーンで混乱してしまうはず。
さらに前半は(恐らくは意図的に)編集テンポがかなり速い。
科学者として祖国であるアメリカを戦争に勝たせるために原爆開発に邁進するオッペンハイマーを映画的高揚感を持たせて描く。
(もちろんこれは原作でも主眼が置かれている聴聞会のシーンで観客に落差を感じさせるための布石である)
時系列操作も含めて本作は編集が非常に巧み。
『ダンケルク』で採用された「陸の1週間・海の1日・空の1時間を交差させながら一点に収束させる」手法を応用したような原爆開発の数年間と聴聞会の数週間を交差させる構造。
その上で開発が佳境に入ったら一気にギアチェンジ。
その映画的高揚感が最高潮に達するのが名手ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影手腕が如何なく発揮されたトリニティー実験のシーン。
今作はノーラン作品では珍しく会話劇であり、映像的スペクタクルはこのシーンに一点集中という形になっている。
巨大IMAXスクリーンで観たあの映像(そして“あの”音響効果)は凄まじかった。
ただ、裏を返せばノーラン作品に映像スペクタクルを求めている人が本作にもそれを期待するとミスマッチは起きるかもしれない。
基本的に画面には俳優の顔がアップで映ってずっと議論している。
もちろん要所で挟まれる引きのショットは素晴らしいのだけど。
トリニティー実験のシーンを境に映画のテンションは大きく変わる。
ここまでの映画的高揚感は鳴りを潜め、聴聞会を通じて本作が訴えたいメッセージが浮かび上がってくる。
濃密で重たい会話劇。
私は反戦映画(ただし反核か否かは劇中にも出てくるオッペンハイマーの思想的にも議論が分かれて然るべきかなとも思う)だと受け止めた。
既に報道されているように広島と長崎の原爆被害を直接的には描かなかった点や、オッペンハイマーという科学と組織の間で矛盾に満ちた複雑な人物像(水爆開発には反対していたが核武装の強化は推進派だったetc.)など論点は多数。
やはり日本でも本作が公開されることを願うばかり。
メルボルン旅行記(おまけ)
最後にメルボルンの話を少しだけ。
メルボルンに非常に過ごしやすい。
そこそこコンパクトな規模の街であり、トラムという路面電車が無料で提供されているので空港から中心街に出た後の移動は非常に楽。
空港から市内までは有料バスが運行されています。
何より嬉しいのがご飯が美味しいこと。
メルボルン名物の何かがあるというよりはイタリアンも中華も総じてアベレージが高い。
映画を観た後の夕食はここにしました。
本作の配給はノーランが長年懇意にしてきたワーナーではなくユニバーサルということでw
メルボルン名物という意味ではコーヒーが美味しかったです。
本当にコーヒーショップ多かったなぁ。
観光名所としてはこの辺りが有名。
あとはサザンクロス駅の近くにマーベルスタジアムがあったり、駅はNetflixの広告がジャックしてたり。
普通に旅先としても良い街だったな。訪れたの2度目だけど今回も満足。
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