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[番外編]-TOワースト5位なのに得点2位!?グラウジーズはモーレイボールをしている?

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強豪ひしめく東地区で4強に食い込むサプライズチームの富山。
特に平均90.2得点の攻撃力は千葉に次ぐ2位であり、好調をキープしている。

だがしかし、千葉・宇都宮・川崎・東京とは決定的に異なる点がある。

"ターンオーバーが多い中で得点が取れている"

他の4チームはこの点で優秀な数字を残している。
それは下記の表からも明らかだ。

1試合平均ターンオーバーランキング
東京    9.70 1位
宇都宮 10.56 4位
川崎  10.59 6位
千葉  11.74 8位
富山  13.33 16位 ←!?

富山の1試合平均13.33回のターンオーバーは勝率5割以上のチームの中では1番多い(悪い)数字だ。
(全体でも20チーム中で16位。つまり、5番目に悪い。)

これは一体どういうことなのか?

今回は現代バスケのトレンド、現在の上位チームのスタッツについても触れつつ、富山が一体何をしようとしているのかについて解説していきたい。
ブースターの方々がより楽しく観戦できれば大変嬉しく思う。


富山は"モーレイボール"を採用している?

名称未設定-2_アートボード 1

"モーレイボール"という戦術をご存じだろうか?

NBAのヒューストン・ロケッツというデータ主義のチームが始めたオフェンススタイルである。

3P・制限区域内・フリースローの3箇所を主体に攻撃し、技術的に難しく2点にしかならないペリメーターエリア(制限区域を除く2Pエリア)のシュートを排除するというものだ。

数字オタクのGMが統計からこれを生み出したそうだが、最初は机上の空論扱いを受けていたそうだ。
しかし、"ジェームス・ハーデン"というスリー・1on1・ファールドローン・P&Rが上手い、モーレイボールを完璧に遂行できる選手と契約したことでこれの実現に成功したのである。

参考文献:ハーデン&ロケッツ好調の理由。NBAの“モーレイボール”って何?


今シーズンの富山グラウジーズのシュート分布は、このモーレイボールに酷似したものになっている。
※IP=インサイドペイント=制限区域
 OP=アウトサイドペイント=ペリメーター

富山シュート分布-02

()内のリーグ全体順位と赤文字の%からもわかる通り、OP(ペリメーター)が極端に少なくIP(制限区域)、FT、3Pに偏っていることがわかる。

なお、OPの20位の信州(4.6本)はIPも少なくそもそも2点が少なく3Pが多い。
IPの1位の渋谷(36.4本)に関してもIPだけでなくOPも多いなど、この2チームは"OPを排除し、IP、FT、3Pに重点を置く"モーレイボールとは異なるスタッツとなっている。(この辺りのランキング表は最後に記載)

故に富山のこのモーレイボール的シュート分布はリーグでも珍しい。

とはいえ参考文献の日付からもわかる通り、これはつい最近の話ではないため(4年前)、今ではこの考え方はロケッツだけでなく現代バスケのトレンドになっている。
NBAに詳しい人からすれば、Bリーグにこのトレンドを取り入れたチームが今更いても不思議はないと考えるかもしれない。

しかし、筆者はBリーグとNBAは全く別物と考えている。

NBAはガードとフォワードが得点ランキングの大半を占めるのに対し、Bリーグでは外国籍インサイドの選手が得点ランキングを占める。
その点の取り方も異なり、Bリーグではそもそもポストアップの回数がNBAに比べ非常に多い。

Bリーグは世界的に見ても異質、オールドスクールなスタイルなのである。

だからこそ、富山グラウジーズがBリーグ内で先立ってこれを採用し始め、4強に食い込んでいる事が面白いのである。
そして富山は平均90.2得点を記録している。

このことから、富山のモーレイボール的な作戦は成功していると言える。

で、ターンオーバーが多い理由は?

名称未設定-2_アートボード 1

話を戻そう。
簡単に言ってしまうと、IP・FT・3Pの3ヶ所の中でも特にIPとFTに偏っているためターンオーバーのリスクが高い箇所でのプレーが多いというのが原因である。
それは先ほどのシュート分布図からもわかるが、ここではもう少し踏み込んで解説していきたい。

なぜ、富山は特にIPとFTに偏らせているのか?だ。

現代バスケのトレンドに近いオフェンスをする富山だが、しかしその実、このチームには現代バスケに相容れない選手が2人いるのだ。

宇都直輝。
ジョシュア・スミス。

この二人である。

現代バスケは3Pシュート全盛とも言われている。
NBAでゾーンDFが解禁になり、世界でローテーションDFの研究が進んだことでセンターやスラッシャーは簡単に2点を取れなくなり、3Pを多投する方が得点効率が良いという統計が出たのが背景だ。(すごくざっくり言うと)

故に今では3Pシュートはバスケットボール選手の必修科目のような要素であり、3Pシュートが打てないスコアラーというのは今時珍しいのである。
(ここでの「打てる」はオープンショットを難なく3得点にできるレベルの事を言っている。宇都選手は成功数は増えてきているがまだシュート動作がゆっくりすぎる。)

1対2でも蹴散らして決めてしまうスミス。
スリーを2メートル空けられても抜いて決めてしまう宇都。
さらにファールドローンランキングでダントツ1位のマブンガ選手と、ゴール下で抜群の決定率を誇るソロモン選手もここに加わる。

普通に考えれば中が狭くなりすぎるであろうこのメンバーで、富山は新しいオフェンスを作ろうとしている。
それが前節の記事でも説明したこのオフェンスである。

【動画解説】
①マブンガがオフボールでポストへフラッシュ→DFが外へと連れ出され、次はソロモンのドライブ
②岡田のドライブに宇都が合わせでダイブ→パスのタイミングが流れたのでさっさと掃ける→DFが外へと連れ出され、次はソロモンのダイブ
③松脇がペイント内へカット→掃ける→DFが外へと連れ出され、次は宇都のドライブ

ペイント内が狭いなら時間差で飛び込んでいけばいいという発想のこのオフェンス。
IP内で驚異的な決定力を誇る富山の選手が目まぐるしくリングへアタックしてくるのである。
上手くいけば高確率でフィードゴール、ないしはフリースロー獲得に漕ぎ付けることができる。
だからフリースロー獲得数と得点が多く、平均90.2得点を残せているのである。

しかし、同時にターンオーバーの多さの理由でもある。

制限区域内の狭いエリアを人とボールが交錯するこのオフェンスはタイミングや精度が非常にシビアだ。
少しでもそれらが悪ければたちまちターンオーバーとなる。

↑宇都とソロモン2人が同時にペイントで合わせてスペースが潰れてしまう。

これはわかりやすい失敗例だが、実際はもっと些細なミスでもターンオーバーに繋がる。

しかしその点、千葉・宇都宮・川崎・東京にはほとんどの選手がスリーを打て、さらに言えばスリーが打てないスコアラーは存在しない。
故に、広いスペーシングでIP・OP・FT・3Pの4か所を均等に無理なく攻撃できる。
これはリング近くのシュートが減る他に、ファールドローンとフリースローが減るデメリットがあるが、"シュートで終われる確率が高く、ターンオーバーのリスクが少ない"オフェンスなのである。

ここまで聞いて、4強が富山に比べてターンオーバーが少ない理由がお分かりいただけたかと思う。



浜口HCはこれらとは異なる、富山のロスターの持ち味を最大限生かすオフェンスを模索した。
それは"モーレイボール"とも少し異なる、富山の特別製のオフェンス。
故にここに至るまでにも多くミスが起こり、前節もターンオーバーは少なくなかった。

しかし、逆を言えばこれだけミスをやらかしながらも既に平均90.2得点で東の4位なのである。
4強以上に多い富山のターンオーバー数はイコール、4強以上に伸びしろを残しているという事でもあるのだ。
もしもターンオーバーが平均10本前後まで減ってくれば、当然得点も失点もさらに2~3点成績が良くなってくる。

このスタイルのまま、富山のターンオーバーが減ってきたとき。
Bリーグの歴史は変わるのかもしれない。



ここまで読んでいただきありがとうございました。
普段はこちらのtwitterでも発信しています↓

岩沢マサフミ@富山解説
https://twitter.com/masa1030_gura


★以下参考スタッツ

【一試合平均IP(制限区域内)シュート本数ランキング】
渋谷  36.4本  1位 
富山  35.7本  2位 
宇都宮 33.8本  4位 
川崎  31.7本  9位 
千葉  31.1本  11位 
東京  30.9本  13位 
信州  22.7本  20位

一試合平均OP(ペリメーター)シュート本数ランキング
東京  13.5本  2位 
千葉  10.4本  8位 
宇都宮 10.2本  9位 
渋谷  8.3本  15位 
川崎  6.6本  18位 
富山  6.0本  19位 
信州  4.6本  20位

一試合平均スリーポイント本数ランキング
信州  29.6本  1位 
川崎  25.6本  3位 
千葉  24.1本  8位 
渋谷  23.7本  9位 
富山  22.9本  11位 
宇都宮 22.4本  13位 
東京  20.8本  17位

余談になるが、これを見ると信州は徹底して2Pエリアを避けて攻撃してくるとわかる。さらにFGに対するアシスト頻度も多いため、1on1も少なそうだ。
富山にとっては結構相性の悪い天敵となるかもしれない。

【一試合平均フリースロー本数ランキング】
富山  23.3本  1位 
千葉  22.9本  2位 
川崎  19.5本  5位 
渋谷  18.9本  6位 
宇都宮 18.4本  7位 
東京  16.4本  15位 
信州  15.2本  17位

【一試合平均ファールドローン本数ランキング】
富山  22.07 1位
千葉  21.89 2位
川崎  18.93 6位
宇都宮 18.52 9位
東京  17.63 14位

【出場時間当たりのファールドローン数ランキング】
マブンガ 0.215 3位
スミス  0.165 17位
宇都   0.155 20位
ソロモン 0.149 26位

※数字は出場時間1分当たりのファールドローン数。
簡単に言うとマブンガは4分40秒間に1回。
スミス・宇都・ソロモンは約6分間に1回ファールをもらっている。

このランキングのトップ30に4人の選手がランクインしたのは富山のみ。

これを踏まえると、宇都選手とサム・ウィラード選手の2人でミドルシュートを多投していた2017-18シーズンと今の富山とでは、かなりシュートチャートが異なったものになっているだろう。

参考サイト:Basketballnavi.DB

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