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コンビニのハンバーガー

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日記です。
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記事一覧

世の虚しさに(24/10/18)

日帰り出張を終えて、混み合う新幹線のデッキから夜の車窓を眺めていた。自由席の混み具合で今日が金曜日であることに初めて気がつく。
ぼくは自由席しか取らない。出張費用はちゃんと指定席の分まで含まれているのだけれど、指定席ってなんだか窮屈だと思う。決められた時刻に決められた車両の決められた座席に存在していなければならない。それがどうにも性に合わないのだ。少しおおざっばに言えば、ぼくはそういう"生き方"を

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喪失の探索(24/09/23)

いつも、そこから失われてしまったものを探している、そんな気がしている。失われてしまったのだから、そこに本当に何かが存在していたのか、それすら定かではないけれど。

穴の空いた世界は例えば、絵画のようであった。パリの雑踏を描いた絵画の前に、僕は立っている。背後でたくさんの人が行き交う。しかし僕は、その絵画と二つだけの世界に入って、真正面の額縁の中に、音を、匂いを、土煙を探す。もうとっくの昔に喪失して

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馬に乗る夢をみる(24/08/20)

馬に乗る夢を見た。馬には乗ったことがない。

ホテルの狭い部屋に帰って、ベッドにバタンとして目を瞑ると、視界が真っ暗になった。なんだか自由だなと思った。ぼくは、砂漠に寝転がって、星空を眺めていた。雪原に横になって、白い太陽の匂いをかいだ。原っぱに体を倒して、雨に身を濡らした。そういう想像が、もしかすると、この奇怪にして豊かな夢を見せたのかもしれない。

あらゆる物事に、むなしさを感じるようになった

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『氷』(着想)

綺麗にカットされた氷が、ロックグラスにカランっと音を立てて落ちる。そこへ少量のウイスキーが注がれる。フィディックの12年。これはウイスキーの中に浮かぶ氷が、溶けきる前に終わる話だ。

僕はバーにいた。僕はそこで、ある別れを迎えた。それはとてもさっぱりとしたものだった。別れのキスも、別れの言葉も、別れたその相手すらそこにはいない、まるで全部が幻のような別れだ。僕はそこで、ある別れを迎えた。

彼女と

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世の中は物語のように(24/05/24)

この世界は複雑だ。小説のような一貫したストーリーもなければ、ドラマのように幸福な最後もない。意味ありげな無意味さと、価値のなさそうな大切さが、無秩序に絡まり合って、この世界はできている。

ぼくの部屋の裏手は田んぼになっていて、夜になると、たくさんの蛙の鳴き声が聞こえる。ぼくはいつもそれを聞いている。

経済学の観点からすれば、富は常に増大する。科学技術が発展し、文明が高度になれば、人類は次々と新

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ゆっくりと死ぬこと(24/05/15)

白色も黄色も黒も、切ったら赤い液体が飛び出すことを、僕は知っている。どんなに鍛えようが太ろうが、愛されようが憎まれようが、焼いた後には骨しか残らないことを、僕は知っている。

普遍生物学という思想がある。初出は小松左京のSFらしいが、つまり、どんな世界でも星でも、生物に共通の法則を持つという思想だ。
統一的な思想は、シンプルでなければならない。だからきっと、人間の本質も、とてもシンプルなのではない

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動悸についての短い記憶(24/04/22)

夜半に目が覚めた。強い動悸であった。ベッドが揺れているのではないかと錯覚するほど、心臓は音を立てていて、全身のあらゆる末端に、血が激っていた。耐えきれず、僕は跳ね起きた。強い動悸であった。

理由はわからない。最近でだしたお笑いコンビの、派手な方と早押しクイズをする夢を見ていたからかもしれないし、またはもっと曖昧な、最近の生活に関することかもしれない。
上体を起こしてからもまだ、心臓は早く、そして

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キャンバスの外へ流れる景色、僕がモネを観るときは(24/03/01)

一般的に言って、特定の物事を好きなことに理由はなく、逆に嫌いなことには理由がある。だから、もしも僕という存在を、身の回りの物事を列挙するという仕方で表現するのなら、並べるべきものは好きなものではなく、むしろ嫌いなものであるべきだ。
そういう意味で、モネの作品は、僕が自分を解釈するのに向いている。言い換えれば、僕はモネが苦手だった。
そんな僕が立て続けに2度も彼の連作の展覧会に赴いたのには、やはり、

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ある長くて短い夢の話(23/01/31)

全くもって、やはり夢というのは不思議だ。物語はどこまでも仔細で、それに鮮やかな色彩を帯びている。さらには、とうの昔に忘れてしまっていたはずの人やものが、あたかもさっきまで握りしめていたかの如く登場したりする。

僕はいつもと同様に、その夢を現実まで手繰っておきたいと思った。架空の物語から抜け出て現実へと至る覚醒の過程で、その物語のできる限り多くを、覚えておくように試みた。しかしやはり、そのほとんど

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ゼロをかけるまで(23/10/05)

どこまでも続く秋の夜が、僕を歩かせていた。僕は、これまで起こったことを順番に数えていた。見落としのないように、とても慎重に。

生まれてから今まで、得たものと失ったものを足し上げたら、全体はプラスになるだろうか。それとも、やっぱりマイナスなのだろうか。
青春、朱夏、白秋、玄冬。四季を色に例えると秋は白だ。夏はまっかで、離れていても誰かの存在を熱気として、湿度として感じられる。秋はそのあとにやってく

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零落の百日紅(23/10/13)

この倦怠は、やはり怠惰からくるものだろうかと、思案していた。繰り返す悪夢から逃れた夜半のことだ。
何かに追いかけられる夢を、もう何度も見ていた。背後から迫るものは、具体的な像を結ぶこともあるし、または観念的な、言語化さえ許さないような漆黒のこともある。ともかく、何かに追われ、足掻き、そしてその多くが徒労に終わる。そんな夢の連続が、初秋の夜を支配している。
そんな折に、唯一、美しい夢を見た。煌々と輝

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屍体が埋まってゐる(23/10/03)

「『桜の樹の下には、屍体が埋まってゐる!』 これは信じていいことなんだよ。」

どうしようもない陰鬱が、自室を満たしている。原因のわからない倦怠と、解決しようのないヒステリが、まるで迷宮のような日常を延々と追いかけてくる。
惰眠の中に現れる夢は色々で、知らぬ街の知らぬ鉄道で終電を逃して見知らぬ人を抱くときもあれば、バスジャックに居合わせて英雄譚のごとき振る舞いののちに撃ち殺されることもある。
それ

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ごうごうと風が吹いて目はふたつあって(23/09/21)

ごうごうと風が吹いて、ざあざあと雨が降っている。僕は、目が一つならいいのにと思っている。

「目が口ほどにものを言う」なら、口はもういらないんじゃないかと、ある小説を読んでいて思った。僕らは二つある目で世界を見て、それから一つしかない口で物事を語ろうとする。だから、いつも足りない。いくら頑張っても、どんな素晴らしい言葉を尽くしても、見たもの全てを、感じたこと全てを語ることはできないし、どころか、そ

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しおりを挟む(23/09/19)

しおりに意味はない。意味のないものだけが、僕らの今を証明する。

空港に着いてベルトコンベアの前で、手荷物が流れてくるのを待つ時、ふと目の前の広告が目に入った。アウトドア用品の会社だろうか、どこかの山の草原みたいなところで、テントが張られている。テントの近くには男が座っていて、足元には焚き火が組まれている。広告には簡単なキャッチコピーと、社名が印字されていた。
ベルトコンベアが荷物を吐き出し始めた

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