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はるかのエッセイ【憧れ】

誰もが、子供の頃何かに強く憧れたであろう。

ケーキ屋さん、アニメのキャラクター、
交通機関の運転手。

 わたしも、もちろん憧れを持ったものである。それも沢山だ。特に憧れを抱きやすい子供であったと思う。妖怪にも憧れた。河童は特に憧れた。実は手に水かきが有るんだと友人に嘘をついたりもした。他にもケーキ屋、花屋、ハンバーガー屋、戦隊ものの青色(苦しむ演技をしてみたかった)表情を変えない少女など様々だ。

そんな、数々存在する憧れの中で、私が最も憧れたと言えるものは、歩道橋を渡る小学生だった。

 わたしは三人兄姉の一番下で、上の二人の登校に、母の自転車の後ろに乗せられて同行したものだ。自転車に乗せられているために歩道橋を渡ることは叶わず、下の横断歩道を渡った。わたしと母が信号を待つ間、兄姉を含む小学生達は、キャッキャと階段を登って行く。あまりの楽しそうな光景に、わたしは歩道橋の上では夏祭りが開催されており、
みんなはそこへ出かけて行くものだと思い込
んでいた。

信号が青になり、横断歩道を渡る間も上の様子が気になった。渡り終えて、歩道橋の階段下で兄姉が降りてくるのを待つ間も、上からは甲高い笑い声やテンポ良く駆け回る音が聞こえてくるため、楽しい催し物が行われていることには
かなりの確信があった。

早く小学生になりたかった。と言うよりも、早く、
"夏祭り"に出かけたいと思っていた。

何度か、母に上で何が行われているのか尋ねたことがある。しかしながら返事はあやふやで、"夏祭り"と言う単語は一度も登場しなかった。それでも夏祭りの存在は疑わなかった。

 そんな私に転機が訪れた。

 自転車が故障したのだ。従って、兄と姉を歩いて迎えに行くことになったのだ。わたしは飛んで喜んだ。母は驚いた様子であった。

もしかすると、母は日頃の運転が良くなかったのでは、と反省したかもしれない。そんな母の心情を察する間も無く、クリスマスに貰ったキラキラの宝箱の中にしまっておいた五〇〇円だまを
ポケットに忍ばせた。

当時のわたしにとって、五〇〇円は現在の五〇〇〇〇円くらいの価値があった。夏祭りの出店は
制覇してやろうと思った。

そうこうしている間に、憧れの声が聞こえてきた。夏祭りは目と鼻の先である。今一度ポケットに手を突っ込み、張り切って行くぞと、
ギュッと五〇〇円玉を握り締めた。

いよいよだ。

わたしはもういてもたっても居られなくなり、母の手を振り解いて階段を駆け上がった。母の歩く速さと同じなのはどうでもいい。いよいよ夏祭りの会場に足を踏み入れた。そこは、殺風景な灰色のコンクリートとともに、溶けかけの雪が汚かった。


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