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ストレンジャー・シングスとヘヴィ・メタル

いやー、電波がない。

忽然と土曜日に電波が消えて3日間、電波のない暮らしを送っている。もちろん、Wi-Fi のあるところでは繋がるんだけど、それにしても電話はできないし、Wi-Fi がなきゃネットもめちゃくちゃ遅い。だけど、僕は生まれながらの人間万事塞翁が馬人間なので、それはそれでいいかなあと思いはじめている。仕事の電話とかも、ほら、アーニャ電波障害!かわいい!バーン!と大手を振って知らん顔することができるし。

それに、固定電話しか使えないのなら久しぶりにアレやりたいよね。好きな女の子の家に電話するやつ。〜さん…〜さんいらっしゃいますか!?ってガチガチに緊張しながらかけるやつ。僕は、お父さんがでたらチャリーンと即ギリしてたし、お母さんがでたら勝手に友人の名前を語っていたけど、それにしてもアレはスリリングだ。変な汗かきすぎて、受話器がベタベタになるからね。最近の若者にもぜひ一度は味わってほしい瞬間だ。

で、なぜ電波がなくなったのか。これはね、裏側の世界の差し金だよ。後ろで裏側の世界が糸をひいている。彼らにしかこんな芸当はできないよ。こんなストレンジャーなシングスは。(au のみなさん、ゆっくりでいいのであせらず復旧がんばってくださいね)

今、ストレンジャー・シングスは、欧米を中心に一つの大きな現象にまでなっている。そこで、僕たちの愛するヘヴィ・メタルが大活躍しているというのだから、これはもうアーニャ、ワクワク!と言わざるを得ない。

いやー、いいよね。海外ドラマ。

僕も、ビバリーヒルズからはじまって、フレンズ、ボーンズ、スパナチュ、24、ER、CSI、Glee、クリミナル・マインド、GoT などなどさまざまな海外ドラマに手を染めてきたクチだ。日本のドラマみたいにチクチクしていないのがいい。絶対死なない人が予感もなくポロっと死ぬし、大好きなキャラがスーっと転校していなくなるし、昨日までラブラブだったカップルが何の脈略もなく浮気合戦したりするし、伏線回収などスパッと忘れて超展開になるのがいい。目が離せない。次の日学校があろうと、テストがあろうと、仕事があろうと、田植えがあろうと、ゲオで一気借りしてきた DVD は待ってはくれない。でも全部借りようと思っても、一本抜けてたりするんだよね、アレ。アレも完全にストレンジャー・シングスだよ。裏側の世界の陰謀だ。なあ節子、なんで全部で12巻あって8巻だけ借りるん? 関係ないけど、アリー・マイラブとボーンズとGleeのサントラは最高よ。ロックが文化として根付いている国の底力を見せつけられる。

で、ストレンジャー・シングス。どんな話かというと、"ヴェクナ(ナンバーワン)" という異能の力を持つ人間が世界の裏側から今ある秩序をすべて壊し、新たな世界へと作りかえようとしている。それを阻止しようとまた、異能の力を持つ子とその友人たちが命をかけて奔走するストーリー。ヴェクナは幼少期に周りの大人から "異常だ" と言われた続けたことで、世界の常識や秩序、人間の営みそのものを恨むようになってしまう。柱時計のモチーフはその象徴で、裏側の世界に時間の概念がないことが、彼が "時間" をはじめとした世界の秩序を恨んでいることを示唆しているんだ。

ヴェクナが世界を作り変えるためには、悩みを持つ人間を虜にし、生贄のように殺して、表の世界に通じるゲートを作っていかなければならない。これがね…気持ち悪いんだ。なんかブーンと宙に浮いて、手足が決して曲がってはいけない方向に曲がり、目から血がビューっと出る。嫁がいるときに見ていると、僕の手足が決して曲がってはいけない方向に曲げられ、目から血がビューっと出るくらいイビられる。くらいには恐ろしい。

で、僕の愛するマックスというかわいらしい女の子が白目でフワフワと浮いてバキボキビューになる寸前に、ケイト・ブッシュのテープを爆音で聞かされて救われるシーンがあった。名曲、"神秘の丘"。さすがマックス、センスがいい。

そうなんだよ。ストレンジャー・シングスは舞台が80年代に設定されていて、ノスタルジーを煽る素敵レトロがたくさん出てくるんだよね。マックスがいつも聞いているウォークマンもその一つ。もう服装とか、車とか、音楽とか、一つ一つの小道具がたまらんのよね。あと、いろんな名作映画をオマージュしているのも、見つけるのが楽しい。

で、80年代といえばメタル。メタルといえば80年代。佳境となったシーズン4でヘヴィ・メタルが重要な役割を果たすんですねえ。メタルヘッドのエディ・マンソンが登場します!そして死にます!うん、彼にかんしてはみんなが死ぬと思ってた!だから大丈夫、ネタバレじゃない!名前がいいよね。エディ・マンソン。

エディは、"ヘルファイア・クラブ" のリーダー。名前がいいよね、ヘルファイア・クラブ。まあ実際は、ヘルファイア・クラブとは主人公たちを含め学校のいわゆる "日陰者" が集まって D&D というボードゲームに興じるだけのクラブなんだけど。でも、エディだけはなんかカッコいい。メタルだ。ロン毛に DIO のバックプリントで訳の分からん奇声を発する彼は、学校でも一目置かれている。でも、たまたまバキボキビューの瞬間に立ち会ってしまったことで、エディとヘルファイア・クラブは悪魔崇拝のカルト集団で、殺人は彼らの儀式と認定されてしまうんだ。

だけどね、最終的にエディは、このシリーズ最高の伊達男になる。渾身の METALLICA の "Master of Puppets" でコウモリをひきつけ (ギターや音楽で闇を払うこの短絡的な設定も素晴らしい) 、メタル・ギターを全力で弾き、怯えて女の子を守れなかったことを悔い裏側の世界にとどまり、皆のために死んでいく。そして最期に一言、「俺は…逃げなかっただろ?」

いや、これって、エディの生き様って、そのままヘヴィ・メタルなんだよね。教育に悪い、悪魔崇拝、カルト、暴力的、汚い、喧しい。今まで散々に "然るべき" 人たちから "悪" とされてきたヘヴィ・メタル。でも、怯えたときもあったけど、ずっと "逃げずに" 真正面から戦い続け、気がついたら今、世界で最も勇敢で、多様で、寛容で、弱いもの、声なきものたちに寄り添う代弁者で応援者となっている。なんかね…そういう背景がわかりすぎてるから、オーバーラップして泣けてきてしまったよね。もちろんメタル世界にも一部には、未だに時が止まったままの柱時計みたいな人もいるだろうけど。

でね、もっと言うと、世界を作り変えようとしているヴェクナも、実はメタル側なんだよね。オマエは違う、オマエは異端、オマエは普通じゃない、オマエは仲間じゃない。そう言われ続けて育ったヴェクナが、世界の秩序を恨み、書き換えたいと思うのはある意味当然で。そういう、レールに乗れなかった人の暴走を、レールに乗れなかった人たちが防ぐという、ある意味皮肉で非常に深い作りになっているんだよね。

ちょっと考えれば気づくはずだよ。悪意の塊でヴェクナを暴走させておきながら、世界を守ることには一欠片のリスクもおかさない傲慢な傍観者たちの存在に。世界を良くすることになど無関心な、見えない自己中心的なラスボスの存在に。加えて、今ほど寛容ではなかった時代の (今も寛容だとは思えないけど) 人種差別や LGBTQ の問題も絡んでいて、決して脳みそカラッポでやり過ごせるようなドラマではないんだよね。

もしかしたら、ストレンジャー・シングスの "ストレンジャー" には名詞の "よそ者" とか "天涯孤独" みたいな意味も込められてるのかもね。もちろん、形容詞の "より奇妙な" って意味が本来なんだけど。

ケイト・ブッシュの "神秘の丘" は、各種ストリーミングで一位に返り咲いたという。あれだけ見せ場があったんだから、"Master of Puppets" もそうなって欲しいよね。それでね、願わくば、このドラマが多くの悩める若者にとって、ヘヴィ・メタルへの "ゲート" となりますように。だって、現実世界も十二分にホラーでストレンジャーだから。

一過性のものでもかまわない。ただ、ヘヴィ・メタルはこんなに勇敢なんだ。こんなにカッコいいんだ。こんなに多様なんだ。こんなに優しいんだ。こんなに寛容なんだ。こんなに抱きしめてくれるんだ。こんなに寄り添ってくれるんだ。そうやって、そう感じて、ここに "逃げて" きてくれる人が一人でも増えたらうれしいね。サブジャンルの数を見てみなよ。メタルが感染した国の数を見てみなよ。メタルは人種も、国も、宗教も、文化も、音楽も、身長も、体重も、性別も、血液型もすべてを抱擁している。ここでは、"普通" である必要なんてないんだから。

メタルは決して君から逃げないけど、君はいくらでもメタルに逃げこんでいいんだから。

追記: このドラマでは、Robert Trujillo の息子 Tye Trujillo が Kirk Hammett の助けを借りて "Master of Puppets" を演奏しているそうです。METALLICA は、このドラマに使われて非常に光栄だと話しています。

ヴェクナ役の Jamie Campbell Bower は、この役を演じるために、DARKTHRONE, MAYHEM, SUN O))) を聴いて準備したそう。本当に、メタルと密接なドラマになりましたね。




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