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9.上下


高校2年として過ごしている今。少しだけ思うことがある。


それは後輩の存在だ。自分は後輩付き合いが全然上手くない。1年が入学してきて、もう夏になる。が今だに、サッカー部の後輩のなかに仲のいい後輩は一人もいない。

人見知りだというオーラをわざと纏って、こっちから距離を縮めにいくことはしない。

そもそも、何を話せば良いのか分からない。裏を返せば興味がないのかもしれない。


大前提に「舐められたくない」というのがある。仲良くなるには、自分を下げて柔和な部分を相手に見せないといけない。それは、初対面の人に対しては必ず必要なことだが、僕はその加減が分からない。ボロを出して舐められるくらいなら、そもそも話しかけない方が良いと思ってる。

なんともうだつのあがらない先輩だろう。僕と言うのは。


もっと大前提に言うと「先輩と呼べるほどサッカーの実力がない」。これが本音かもしれない。全く実力がないというわけではないし、今現在、必死で練習しているし、実力の強化に励んでいる。だがこの今の実力で後輩に何かを指示しようもんなら、裏で何を言われるだろう。


そんなことを考える、なんとも小さい先輩だろう。


色々と別物の考えと考えを関連付けてしまう。うだつのあがらない。先輩なら先輩らしくどしっと構えてれば良いものの。


そして何より問題なのは、元県選抜メンバーだった一年どもだ。この何人かへの対応は本当に困っている。しっかり先輩に対しては後輩として接する1年なら良かったんだが、そうではない。かといってすごく舐められているわけでもないし、なんというか、人間性のタイプでいうと、うちのクラスの野球部の井上や小島と同じタイプなのだ。イケイケだ。


ほんとにこうゆうタイプに対しては、僕の細胞が避けている。なので今は彼らに何も言わない。たとえ目に付くような調子乗り具合が目に前で繰り広げられようとしても。


だから、今はひたすらに練習に勤む。僕には分かっている。世の中は実力主義。それが全て。シビアなのだ。


こんなことを考えるようになったきっかけは、フミだ。フミはうっすら後輩から舐められている。


フミは人間が優しくできている。みんなに分け隔てなく優しい。度が過ぎているのかもしれない。雰囲気もフニャっとしている。側からみると僕なんかよりもはるかに良い人間だ。

まだフミはそのことには気づいてない。一番微妙なところだ。微妙なところだから、僕はそのことをフミには伝えない。フミ自身に気づいて欲しいし、その時は頑張って欲しい。がんばれ!フミ!だ。


サッカー部の練習が始まったらまず、ウォーミングアップをする。ランニングをして、そのあと2人1組でストレッチをする。僕の相手はもちろんフミだ。背中を背面どうしくっつけて腕を絡ませ、背中を伸ばし合う。


フミはなんというか、体の質感もフニャっとしている。サッカーの試合で、相手選手とのボールの競り合いで負けまくるのではないかと少し心配になる。

がんばれフミ。もちろん僕もだ。


サッカーの県大会が近い。レギュラー争いはもう始まっている。僕がこの高校に入った時は、とても弱いチームだったが、以前よりかはチーム全体の実力は上がっている。良い結果を残したいし、レギュラーメンバーにも選ばれたい。コレが高校生らしい青春だ。


今は本当にサッカー部の練習とアルバイトの日々。それだけ。


家に帰ると、親父が、

「研一、もうそろそろ進路を決めなくちゃいけないな。」


「ぅうん。」

「しっかり考えろよ!」

「ぅうん。」


正直、うるさい。ノイズさ。



つづく

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