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8.前と違う


「オッス〜。」


おっす〜?あれ?大島由実とそんな関係だったっけ?

大島と話をする事はあるが、おっす〜の間柄ではない。

大島とは小学校から高校まで、同じ学校だがおっす〜の間柄ではない。


これは一体??


冷凍食品の品出し中だが、ここから頭の中で大島という人間について少し考える。


小学校の頃は、いつも教室の隅で誰かが賑やかなことをすれば、それに対して静かに笑ってる女の子というイメージだった。


その頃、仲の良かった友達から聞いたことがある。特に僕の発言や賑やかしに良く笑ってくれてたそうな。自分ではあまり気づかなかった。


小学校の頃の大島は陰で、女ハリー・ポッターというあだ名がついていた。

その頃、ポニーテールで前髪をヘアピンできちっと留めていた大島。

体育の授業終わり、そのきちっと留めていた前髪から出ていた少しの前髪が、汗でおでこに張りついていた。

それが、ハリー・ポッターの傷のようになっていたからだ。もちろん、そのあだ名をつけたのは僕ではない。その一瞬のことで、そんなあだ名がついてしまうのだから、幼いって本当に恐ろしい。


小学校の頃は、大島と話した記憶がほとんどない。中学でもだ。


そして高校まで特にこれといった接点はないまま今に至るのだが、今現在アルバイトをしているスーパーの店長が大島由美のお父さんという数奇な接点が生まれた。


「スーパーの店長が私のお父さんだから、そこで雇ってあげてるんだから私も少しはフランクに喋っちゃって良いっしょ!」


と考えているのか?そんな事を考えるような大島ではないと思う。非常に考えにくい。


じゃあなんだ?おっす〜って


第一声を間違えたのか?その可能性はある。

顔が赤らんでいる。恥ずかしいのか。いや、大島の顔はベースが元々少し赤らんでいるから、それも違うかも。


「お、おう。」

と返した。

「元気?」と返ってきた。


元気???

いや、先週まで学校で、同じクラスで授業を受けていたはずだ。そして夏休みに入ったばかりで、元気?

また、頭の中で探りを入れたくなる。


「そっちは?」


と返した。


「うん、元気だよ。サッカー部の練習大変?日焼け凄いね!」


「まぁね。今日は走り込みの練習だった。頑張ってるよ。」


と返した。


走り込みの練習だった、頑張ってるよ?

何を言ってるんだ自分は!!なんだこの緩やかな朗らかな会話は!


普通に会話をしてしまっている。今度は、なんだか自分の方が恥ずかしくなった。すると、何かに違和感を感じた。


あれ、大島との目線が同じ高さにある

??

少し近づいて、改めて確かめた。


やっぱり、目線の高さが同じくらい。大島は身長が伸びていたのだ。



「あれ、大島って身長伸びた?」


と言いかけたが、寸前で留めた。言うのがとても恥ずかしく思えた。なんなんだこの感情は。


何故か少し悔しさがある。悔しさがあるが、凄いなとも思った。「おおぉ〜〜!」という感じだ。

心の中で驚きだったが、表では冷静を装った。だが、それからの会話は、あまり頭に入ってこなかった。


「お〜い、仕事の邪魔だぞ〜。」


そこに店長(大島のお父さん)がやってきた。ちょっとした助け舟。


「ごめ〜ん、ジュース買って帰るね〜。」


「気をつけて帰れ〜。」


「うん、研一くん、またね〜。」


「お、うん。」


また、黙々と品出しを続けた。


今まで大島は、特に当たり障りのない存在だった。言い方を悪く言えば、無害の人間だ。その無害の人間に対して、「これを言うのは恥ずかしいな」などという感情は普通はないはずだ。


別に恥ずかしいことを言っても平気、別にどう思われようと、、、くらいな間柄のはずだ。なぜ、恥ずかしいと思ってしまったのか。


前とは違う、おかしくなったのかもしれない。


練習がキツいからだ。


つづく




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