『戦場に降るもの』

戦いはいつ果てるともしれなかった。
ある時は、果敢に攻め込み、動くもの全てを殺戮した。
またある時は、一目散に退却し地下壕の奥深く身を潜めた。
炎と煙で空は覆われた。

銃弾が耳を掠める。
目の前で地雷が爆発する。
散弾銃を打ちまくり、ロケット弾を発射する。
眠れない夜が続く。
打っても打っても、銃弾は補給された。
銃弾は守るべき故郷から運ばれてきた。

戦況は一進一退を繰り返し、こう着状態に陥った。
兵士たちは、そこにあると聞かされた国境の線をはさんで対峙した。
敵兵士のこけた頬を見て、己の疲労を確認した。
疲弊は国境を超えて蔓延した。
その夜が何度目の夜か。
そんな数字に、意味はなくなっていた。

兵士のひとりが、ふと空を見上げた。
そして、ゆっくり立ち上がった。
またひとり、空を見上げて立ち上がった。
雲間から明るい月が顔を出した。
それを見た敵兵も立ち上がった。
どこからか、白いものが月に照らされながら舞い落ちてきた。
兵士のひとりが、銃を捨ててそれを両手で受けた。

白いものは、次から次へと舞い落ちてきた。
兵士たちは、次々に銃を手放して、それを両手で受け止めた。
雪だと誰かがつぶやいた。
雪だと敵兵もつぶやいた。
両軍の兵士たちは、雪を追いながら、いつの間にか国境の線を越えていた。

両軍の本部の受信機がほぼ同時に、カタカタと鳴り出した。
「コノユキガフリツヅケバ」

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