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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2024年2月の記事一覧

『レトルト三角関係』 # 毎週ショートショートnote

『レトルト三角関係』 # 毎週ショートショートnote

魔の三角地帯のことはご存知でしょう。
と、目の前の男は言った。
都心の地下にある喫茶店。
この世に男と女が生まれてから三角関係は後を断ちません。
その三角関係の真ん中には無が生まれます。
その無の空間が繋がり、長い年月を経て巨大化したものが、あの三角地帯なのです。
バミューダトライアングルとも呼ばれます。

フロリダ、プエルトリコ、そしてバミューダ諸島を結ぶ三角地帯。
そこで、これまで多くの飛行機

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『閏年が無くなる』 # シロクマ文芸部

『閏年が無くなる』 # シロクマ文芸部

閏年はやがて無くなります。
そう学者たちが言い出してから、もうどれくらいになるだろうか。
たしかに、その少しあとから、それまで4年に1回だった閏年が、5年に1回になり、6年に1回になり、今では21年に1回となった。
これが、人の寿命よりも長い周期になれば、閏年を知らずに一生を終える人も出てくるわけだ。
確かに天体現象には、そのように長い周期のものもある。
なんでも、金環皆既日食などは、480年に1

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『転落』 # シロクマ文芸部

『転落』 # シロクマ文芸部

梅の花が咲く頃。
それは突然でした。
私が市内の女子高に通い始めて最初の年。
毎朝私はその駅で、都心部までの路線に乗り換えていました。
列車を一旦降りると、隣のホームに移るために階段を上ります。
そして、渡り通路を通って隣のホームへの階段を下りるのです。
その日も、いつもと同じようにその駅で降りました。
そして、他の乗客の流れに任せて、階段を上りました。
階段を上りきって、隣にホームに向かおうとし

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『念仏男』

『念仏男』

念仏男をご存知だろうか。
彼の現れるところは、大体において都会が多い。
都会の交差点の一角であったり、どこかの店先で見かけることができる。
交差点や店先で、ひたすら、途切れることなく何かを呟いている。
さながら、その姿をは念仏を唱えるようだ。
年齢はわからない。
彼の姿が最初に認められたのはかなり前のことだ。
それでいけば、もうかなり高齢のはずだが、代替わりしていることも考えられる。
ただ、それも

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『彼女にまつわるもの』

『彼女にまつわるもの』

窓を三分の一ほど開けると、青い空とは裏腹に、少し冷たい風が吹き込んできた。
昨日までは暖かくなりかけていたのに。
春は春になりかけて、何度も足踏みをする。
いや、これは本当に春なのだろうか。
春のふりをした冬が、いつまでも私たちを騙し続けているのではないだろうか。
そんなことを考えながら、ベッドから出る。
いつものように、窓際に置いたベッドの窓の下にくっつくようにして寝ていたことに気がつく。
ひと

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『接骨院』

『接骨院』

ここでっか。
ここは何屋かと、そう言わはるんですな。
そうですな。
おたくらみたいなぼんぼんにはわかりまへん。
わてら庶民のことなんか、わかるもんでっか。
おたくらみたいにええとこで生まれはった人の来るとこやおまへん。
おたくらは、上等な心を持ったはります。
太うて、柔らこうて、ほら、よう光ってまんがな。
少々のことでは、壊れまへんやろ。
そやけどな、わてら庶民の心はよう折れるんですわ。
風が吹い

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『30年目の本命』 # シロクマ文芸部

『30年目の本命』 # シロクマ文芸部

チョコレートがテーブルの上に置かれている。
鞄を置き、ネクタイを緩める。
その隣には、「お疲れ様。明日早いので先に休みます」とメモがある。
チョコレートは、どこにでもある市販の板チョコだ。
包装紙の上には、マジックで大きく、
「本命30th」

背番号1が欲しくてもがいていた。
高校一年の3学期。
昨年の秋に新チームが結成されてから、何度か登板の機会は与えられたが、思うような結果は残せていない。

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『本を読んで』

『本を読んで』

その人は本を読んで泣きました。
その人は本を読んで壁に投げつけました。
その人は本を読んで微笑みました。
その人は本を読んで考えました。
その人は本を読んで誰かに電話をしました。
その人は本を読んで悔しがりました。
その人は本を読んで笑い出しました。
その人は本を読んで手紙を書きました。
その人は本を読んでもう一度読みました。
その人は本を読んで空を見上げました。
その人は本を読んで恋をしました。

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