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「信長になれなかった男たち」を読む

本書は、書店で初めてタイトルを見た時から、とても気になっていました。昨日購入し、読み始めたところ、非常に面白くて一気に読了しました。

著者の安部龍太郎氏(1955/6/20-)は、「等伯」で直木賞を受賞されている本格派の作家です。戦国時代モノの著作、特に織田信長関連の作品が多数あります。私は、これまで氏の作品とは縁が無く、本書がファーストコンタクトでした。

本書では、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった戦国時代の覇者の陰にいた魅力的な人物や、悲運の人物が数多く取り上げられています。

三好長慶、蒲生氏郷、藤堂高虎、立花宗茂など、名前だけは知っているものの、素性や生涯を詳しく知らなかった英傑から、王直、九戸政実、木造具康など、これまで名前も知らなかった人物まで興味深く読ませて貰いました。

権勢を誇った大名達は、交易の要衝や資源を生み出す鉱山を抑えて経済的基盤を固めていたこと、鎖国する江戸時代以前の日本では、西洋諸国や中国、朝鮮との貿易が盛んに行われていたこと、といった情報も記されています。

氏が本書を書いた目的として、日本史のコペルニクス的転回の一助になるように、という壮大な構想があったとしています。伝統的な戦国史観の問題点(本書まえがきに記載)を廃し、新しい戦国史観を植え付けたいという思いがあるようなのです。日本の歴史書は、江戸時代の鎖国史観によって歪められていて、世界史の中の日本史という視点が希薄であることに不満と危惧を感じています。

例えば、桶狭間の戦いは、織田信長の少人数の軍勢が、大軍を率いて油断していた今川義元の本陣を襲って打ち破った奇襲作戦の成功と言い伝えられています。しかしながら、この説は、日本陸軍が「日本戦史」に記載した為に流布した”嘘”の説のようです。

信長公記を丹念に読むと、実際の織田軍は今川軍と真正面から対峙し、打ち破ったのが事実のようなのです。編纂した日本陸軍が江戸時代の史書に書かれた内容をそのまま引用してしまったことによる誤認とされています。

江戸時代に書かれた史書の多くは、鎖国政策、身分差別政策、儒教教育、朝廷封じ込め政策など、当時の社会情勢・価値観の影響を受けており、史実が歪曲されている場合が多いようです。

この桶狭間の戦いの解釈により、日本陸軍内に奇襲戦法の優位性が植え付けられ、実際に立てられる作戦にも影響を与えていたとすれば、日本にとっては途轍もなく不幸な結末を引き起こす遠因になっていたと思えます。

氏の思考方法は、私の肌に合うと感じます。文章も非常に読み易いので、氏の著書は他にも読み進めたいと考えています。

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