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Markover 50 の読んだ本

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Markover 50の読んできた本の読書感想文を収めています。
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#エッセイ

希望という名の華々しい茶番劇

横浜の自宅に戻ってきて、寛いでいます。本日は、パラパラと読み返した水野和夫『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』(集英社新書2017)で引用されている、『希望という名の華々しい茶番劇』ということばから思い浮かんだことを膨らませて、自分の問題意識を深めておこうと思います。 「希望」は幻想一般に、「希望」は好意的に受け止められていることばです。「希望」ということばから受け取るメッセージは人それぞれではあるものの、「未来には何の希望もない」「希望の光が全く見えない」というような台

パブリックへの関心

本日は、JBpressに発表された朝比奈一郎氏の『政治行政に関心を持たず、政治家・役人を見下す日本人、これでは国が溶けていく』を読んで、思った所を書いてみます。 朝比奈一郎氏とは……著者の朝比奈一郎氏は、1973年生まれ。東京大学法学部卒業、経済産業省に入省、ハーバード大学行政大学院(ケネディスクール)で修士号取得と、エリート街道を歩き、2003年内閣官房在職時代には、霞が関の若手官僚たちで作る「プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)」を立ち上げ、初代代表を務めていま

『チーズはどこへ消えた?』を読む

本日は、世界中で今も読み続けられている名著、スペンサー・ジョンソン(Spencer Johnson, M.D. 1938/11/24-2017/7/3)・門田美鈴訳『チーズはどこへ消えた? Who Moved My Cheese?』(扶桑社 2000)の読書感想文です。 読んでいなかった名著私は、この有名すぎる作品をこれまで読んでいませんでした。日本でも大いに話題になった著作であったことは勿論知っていたし、意識高い系ビジネスマンであれば必読のビジネス書だったにも関わらず、私

『村上春樹はくせになる』を読む

やるべき課題が山積みであるにもかかわらず、何もやる気がしない一日でした。朝6:00過ぎには目が覚めたものの、心配事が頭の中を駆け巡ってしまい、ずるずると昼過ぎまで寝床から起き上がれませんでした。客観的にはこれがプチ鬱状態による現実逃避といったところでしょうか。枕の横に置いてあった、清水良典『村上春樹はくせになる』(朝日新書2006)を貪り読んで過ごしました。 無数にある村上春樹論村上春樹氏(1949/1/12-)は、日本で最も人気のある作家の一人であり、孤高の作家という地位

『1984』的社会の住人

本日は、内田樹『コロナ後の世界』(文藝春秋2021)の中の「1984年のディストピア」(P135-153)を読んでの読書感想文になります。 ディストピアは小説の世界ではなく『1984』は、小説家ジョージ・オーウェル(George Orwell 1903/6/25-1950/1/21)が1949年に発表した作品です。内田氏は、最初に読んだ時にはリアリティを感じなかったが、新訳版で読み返すと、小説の世界と現実の日本の境い目がわからなくなっている、と言っています。 社会心理学で

近くにも遠くにも感じる村上春樹氏

本日は、こちらに来てから手に入れて、ひとりの夜に何度も読み返している雑誌、BRUTUSの『特集 村上春樹 上・下』から感想文です。切り取ってコメントしたい部分は多々あるのですが、下巻の”村上小説を音楽で読む。”からの掘り下げです。 音楽マニアの村上氏ご自身で自覚されているか定かではないですが、村上氏の生き方や価値観に憧れ、羨ましいと思っている人は、自分のみならず、世界中に無数にいるだろうと思います。 比較するのもおこがましいですが、私が愛している四つの要素、本・音楽・旅・

あの人が教えてくれるもの⑨:筒美京平

『あの人が教えてくれるもの』シリーズの第九弾は、昨年誤嚥性肺炎で亡くなった作曲家、筒美京平(本名:渡辺栄吉 1940/5/28-2020/10/7)です。近田春夫『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』(文春新書2021)を読んで、大いに触発されたので、記憶に強く刻む為に、今ほやほやの湯気が立ち昇る状態での気持ちをこの記事に残しておきます。 謎に含まれた希代のヒットメーカー日本人に生まれ、日本で暮らした人で、筒美作品を一度も聴いたことがない、という人はおそらくいないと思います。

構造主義の土台 マルクス・フロイト・ニーチェ

先日から読み始めた内田樹『寝ながら学べる構造主義』(文春新書2002)を無事読了しました。内田氏の記述は期待通り見事で、理解の難しい内容でも楽しく読み通すことができました。 構造主義が登場してくる上での思想の土台となっている、マルクス・フロイト・ニーチェを簡潔に扱っている『第一章 先人はこうして「地ならし」したー構造主義前史』(P16~58)の読書ノートを残します。 いずれ劣らぬ思想史上の巨星なので、今後何度か彼らの遺した思想や業績に触れ直す機会もあるでしょう。自分の手を

現実主義の陥穽

ここ数日、西日本や中部での集中豪雨の影響で、河川の氾濫、住居の床上浸水などの被害が報告されています。今年も自然災害と無縁とはいきません。毎年のように自然災害による被害発生情報に接する度、不条理への怒りが沸きますが、ぶつける先もなく悶々とした気分になります。 さて、本日は、野口雅弘『マックス・ウェーバー 近代と格闘した思想家』(中公新書2020)を読んでいて出会った「現実」についての記述から、思ったことを広げていきます。 現実主義的に生きてきた私は、理想主義的な考えに惹かれ

左翼思想を学ぶ意義

偏見や先入観をもって捉えてしまいがちな左翼思想について、真っ当に学んでおきたいと思っています。本日の記事では、池上彰・佐藤優『真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960』(講談社現代新書2021)の『序章『左翼史』を学ぶ意義』からの学びをまとめます。 今こそ、左翼思想を学んでおくべき数年前から、私は『今こそ、左翼思想を学んでおくべき』という問題意識を持っています。過去にも、関連した記事を何度も書いてきました。右翼と左翼の違い、社会主義と共産主義の違いすら理解できて

金曜日の随筆:革命の武器はオピニオンとエグジット

また運命を動かしていく金曜日がやってきました。2021年のWK29、文月の参です。動いている実感はなくとも時は刻まれていきます。本日は、実利的に生き抜いていく方法を考える上でのヒントの詰まった良書、山口周『劣化するオッサン社会の処方箋 なぜ一流は三流に牛耳られるか』の中に収められている『革命の武器はオピニオンとエグジッド』の思い出です。 今週の格言・名言《2021/7/12-18》Conquer the anxiety and fear that tries to stop

『人生の目的』を読む

本日の読書感想文は、五木寛之『人生の目的』です。その中の”信仰について”(P167-195)から思ったことを記録に残します。 人生を学んできた師私はこれまで、小説家・随筆家の五木寛之氏(1932/9/30-)の書いた多くの作品を読んできました。映画化もされた『青春の門』や『四季・奈津子』で五木寛之という名前は幼少期から知っていたものの、文学作品を初めて読んだのは16歳の時、五木氏が翻訳したリチャード・バックの小説『かもめのジョナサン』(新潮文庫)でした。 心が疲れたり、弱

『日本再興戦略』を読む

本日は、落合陽一『日本再興戦略』(幻冬舎News Picks Book 2018)の読書感想文です。 第4章 日本再興のグランドデザインより著者の落合陽一氏は、1987年生まれ。大学研究者、メディアアーティスト、経営者と多彩な肩書を持ち、幅広い活動に従事していて、発言の影響力も大きい人です。 本書は、2018年に発売された時期に話題になっていた本です。Amazonのカスタマーレビューでは、星5つの肯定的評価が50%を超える一方で、辛辣な批判的評価もあがっています。 御本

金曜日の随筆:題名を考える~『増補版ぐっとくる題名』を読む

また運命を動かしていく金曜日がやってきました。2021年のWK14、卯月の壱です。本日の読書感想文は、タイトル(題名)に関する秀逸な分析が勉強になるブルボン小林『増補版ぐっとくる題名』です。 ブルボン小林氏とは?『ブルボン小林』は、小説家、漫画家、俳人、同人作家としても活躍する長嶋有(ながしま ゆう、1972/9/30- )氏がコラムニストとして活動する際のペンネームです。 本名の『長嶋有』名義の作品で、文學界新人賞(2001)、芥川龍之介賞(2002)、大江健三郎賞(2