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『日本再興戦略』を読む

本日は、落合陽一『日本再興戦略』(幻冬舎News Picks Book 2018)の読書感想文です。

第4章 日本再興のグランドデザインより

著者の落合陽一氏は、1987年生まれ。大学研究者、メディアアーティスト、経営者と多彩な肩書を持ち、幅広い活動に従事していて、発言の影響力も大きい人です。

本書は、2018年に発売された時期に話題になっていた本です。Amazonのカスタマーレビューでは、星5つの肯定的評価が50%を超える一方で、辛辣な批判的評価もあがっています。

御本人が本書に対し『内容に不完全燃焼な部分があり、今ならもう少し筆を入れたい部分がある』という趣旨のコメントをしていたと記憶しています。本書への批判的コメントに書かれていた「幅広く興味深いジャンルが扱われていて面白いが、記述方法が乱暴ではないか……」という印象は、私も感じました。章によって、書きぶりや掘り下げの濃度が違う感じを受けました。御本人には、紙面の都合もあって、論拠を丁寧に注入しきれなかったという思いがあるのかもしれません。

昨日私が書いたnoteで触れた古市憲寿氏が、

「テクノロジーで対処していくことができるので、何の問題もありません」と断言する。(『絶対に挫折しない日本史』P151-152)

と揶揄的に書いている元ネタにあたる本が本書です。再読した「第4章 日本再興のグランドデザイン」(P153-186)を取り上げます。

過去、落合vs古市で人格攻撃的な応酬をやっているのをネットで見た記憶があります。お互いに肌が合わない相手なのか、それとも親しい間柄なので、何でも言い合える関係なのか、定かではありません。

人口減少、少子高齢化の捉え方

落合氏は、この章で日本の人口減少・少子高齢化は、以下の3つの視点から捉えれば、ポジティブな変化となり、むしろ日本が再浮上に転じるチャンスになるという主張をされています。

❶ 労働力不足が自明なので、自由化・省人化への抵抗が少ない。思い切った施策が打てる。
❷ 日本がいち早く打ち出すソリューションが、高齢化が進む世界に対する最強の輸出戦略になる。
❸ 子どもにかけられる人材教育投資が増える

その上で、確かに

社会システムの中で、少子高齢化と人口減少についてはテクノロジーで対処していくことができるので、何の問題もありません。(P156)

と書いてありました。落合氏は、日本は改革や革命ではなく、テクノロジーでアップデートすれば対処が可能、と具体案を展開していきます。

根拠となるアイデアは事実でも、実現可能なのか……

● 窓口業務は機械化できる。
● 自動運転やロボット技術を使えば運搬業務の機械化できる。
● 明確なビジョンを示せば、世界から投資資金も集まる。
● 移民は必要なくて、人口が6,000万人くらいまで減っても機械化で一人当たりの生産を増やせば、成長は可能。
と主張が次々と続いていきます。

人間は個人としても機械化されますし、集団として機械化されていきます。(P161)

と、”どきっ”とする表現に出会います。その意味するところは、
● 体が動かなくなれば、体に車輪やパワードスーツをつける……
● 言葉がしゃべれなくなったら、ウェアラブルな解決策をとったり、何らかのファブリケーションをつける……
● 腕が動かなくなったら、外骨格でロボットアームをつける……
● 視力が衰えたら、網膜投影の眼鏡を使う……
● 認知症はヘッドマウントディスプレイ(HMD)で補完する……
といった、テクノロジー利用が一般化するからという見立てのようです。

● 日本人は元々テクノロジー好きで、機械親和性が高い……
● 日本人は意思決定の上流がAIになっても違和感なく受け入れる…… 
● ブロックチェーンでICOを活発化させて、非中央集権的経済圏を作ることで、米国のプラットフォーム企業(GAFA)に対抗できる……
あたりは、落合氏の嗜好や価値観が強く反映された予測と受け取りました。

私見:ポジティブに受け取るべきなのかも

テクノロジーの可能性を活用することによる解決策が次々と出てきます。オールド世界に慣れ親しんできた私のような人間は、その変化におそらく戸惑いと抵抗を感じると思います。中には、かなり性急で危険な世界観ではないかと映るものもあります。そんな未来、日本で、いとも簡単に、どこからも抵抗もなしに実現するかなあ? という素朴な疑問は消えません。

これくらいの意識のアップデートをして、ドラスティックな取り組み(と落合氏は思っていない可能性あり)をしていかないと、人口減少、少子高齢化をプラスに転換させることは難しい、という警告として、この再興戦略を受け止めるべきなのかもしれません。現状の延長上で過ごし、悲観的な予測ばかりを並べ立てて、何の手も打てずに沈んでいくのも辛いですしね。

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