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植物との対話で人は幸せになれる 〜 ルーサー・バーバンクとメスカリートと植物療法

2019年11月7日『AGLA』にて公開

園芸の魔術師 ルーサー・バーバンク

ルーサー・バーバンク

皆さんは、ルーサー・バーバンクという人物をご存知でしょうか。

彼はアメリカの高名な植物学者であり、ほとんど独学で多くの植物の品種改良に取り組み、成功させています。

代表的なものはバーバンク・ポテトとして知られるフライドポテトによく使われているジャガイモと、シャスタ・デイジー、そして刺のないサボテンです。

新種の果樹、花、野菜、穀物を数多く開発し「園芸の魔術師」と呼ばれました。

彼の「魔術師」たるゆえん、そして次々と植物の品種改良に成功する秘訣がありました。それは植物に対して家族と接するかのように毎日語りかけ、愛を送り続けるという行為でした。

彼は毎朝サボテンに向かって、こう優しく語りかけます。

ここには君の天敵となるようなものも、怖がるようなものも何もない、だから刺などを生やして身を守る必要はないんだ。それに私が守っているからね

何年も、何年も根気強くサボテンに愛を持って語りかけるうちに、サボテンから刺が自然に抜け落ちてしまったというのです。これが今日、私達がよく見かける食用のサボテンに繋がります。

更に不思議なのは、彼が亡くなった時に自宅の農園で育てていた植物のほとんどが一斉に枯れてしまったことです。

家族の一員として毎日、毎日ルーサーに語りかけられ、愛情を注ぎ続けられた植物達は、彼の死を悼み、この地上で生き残って行くエネルギーを、悲しみに費やしてしまったのかもしれません。

ルーサー・バーバンクとサボテン
バーバンクの自宅と庭


植物に宿る精霊

ルーサー・バーバンクは植物の成長には、精霊が関係していると考えていました。

荒唐無稽な突拍子もない考えだと思われるかもしれませんが、何も彼だけが特別な思想や信念を持っていたわけではないのです。

実は、「植物と精霊」について真剣に思索していた偉人たちは数多く存在するのです。

医科学の祖といわれるパラケルスス、ドイツの詩人で劇作家のゲーテ、教育者であり神秘思想家としても知られるルドルフ・シュタイナー、黒人奴隷の子から農学修士号を取得した著名な植物学者のジョージ・ワシントン・カーヴァー、コンピューターのハードディスクの磁気コーティングなど多数の特許を持つ科学者のマルセル・ヴォーゲル、それに発明家のトーマス・エジソンもそうでした。

彼らは植物の精霊や、植物の意思の存在を解明する為に、様々な研究や実験を重ねたり、精霊と交流を持ったと主張しています。

実は、メキシカン・シャーマニズムの世界では太古の昔から、全身が緑色の人間に似た姿形を持つ「メスカリート(mescalito)」と呼ばれる精霊の存在が信じられて来ました。

「ペヨーテ(peyote)」といわれるサボテンの精霊とされます。

ペヨーテ(和名:烏羽玉)

メスカリートと遭遇した元プレイボーイ誌編集者のロバート・A・ウィルソンによると、その存在は・・・

「自分の文学的才能を用いて神性を表現しようと、意識的に想像するいかなるものよりも美しく、カリスマ的で、かつ神聖であった」

「コスミック・トリガー」ロバート・A・ウィルソン=著 武邑光裕=監訳 八幡書店

といいます。

近年でも、この全身が緑色をした植物の精霊と思われる存在が世界中で目撃されています。多くは緑色でいぼ状の肌をしており、時には踊りながら現れます。

ドイツの物理学者であり、心理学者でもあるグスタフ・フェヒナーは研究の一環で太陽を肉眼で観察したために視力を失い、後に回復。その後、植物の精霊が見えるようになったと主張しています。

植物に宿る精霊の存在を頑なに信じるかつての偉人たち。

植物が人間の思いに応えるという不思議な体験をしたルーサー・バーバンク。

これらが物語るのは、植物から私たち人間に向けられる「愛」の存在。

私たちが植物を「愛している」という以上に、私たちは愛情を傾けている植物に「愛されている」のではないでしょうか。植物を育てるという行為は、一方向では決してない、双方向の行為なのです。


植物から与えられる愛と恩恵、その可能性と効果

ルーサー・バーバンクのサボテン、世界の偉人たちが夢中になった植物の精霊の存在。

植物と、私たち人間が、可視的にも不可視的にもコミュニケーションを取り合えることは、事実であるように思えます。植物は、私たちが何を語り、どう行動しているのかを、全て理解している。

そうだとすれば、私たちが植物に対して興味を持ち、歩み寄れば、その恩恵を受け取ることも出来るはずです。

植物の持つ力や特性を、私たちの暮らしに役立てるために様々なセラピーがあります。その一つが園芸療法です。

園芸療法は、植物を育て、触れることで心と体の健康の回復を図る療法です。

園芸療法は第二次世界大戦後の1950年代に、負傷により絶望したり、PTSD(心的外傷後ストレス)で深い心の傷を負った帰還兵を癒し、回復を促すために採用された療法でした。

古代エジプトでは、心の病を治す目的で医師が「庭園の散歩」を勧めることがあったといいます。古代から、人間は植物や自然が人を癒す力を持っていることを、感覚的に知っていたのでしょう。

園芸療法は、庭で育てた野菜をどれだけ多く収穫出来るかとか、草花をいかに美しく育てるかといったことが目的ではありません。あくまでも主体は人にあります。「植物を育てる」という体験によって、心身の健康を改善させ、社会との接点を見出していくことが目的です。

植物を育てるということは、四季の移ろいと向き合うということでもあります。これは人が健康に生きるために欠かせない要素です。

植物は春に咲く花もあれば、夏に咲く花もあります。種をまいたり、剪定や摘心をしたり、植え替えや収穫をしたりと、植物の成長とともに、生活の隅々に季節感を感じられるようになります。季節感が感じられるようになれば、生活にも張りが出ますし、計画や目標を掲げられるようにもなります。

また植物の世話をし、成長を観察していくことで、周囲とのコミュニケーションも活発になり、他者との共感を体験する場面が増えることも、この園芸療法の素晴らしい点です。

私たちはストレスを感じると、副腎皮質からコルチゾール(ステロイドホルモン)を放出させます。このコルチゾールは「ストレスホルモン」として知られており、長期間にわたってコルチゾールが過剰分泌されると海馬の神経細胞が破壊、萎縮するといいます。PTSDやうつ病では、このコルチゾールの値が高いことが分かっています。

森林浴研究が専門の千葉大学の宮崎良文教授の研究チームによる調査、実験では深林で15分間椅子に座って景色を眺めるだけで、コルチゾールの濃度が12.4%低下し、リラックスしていることを示す副交感神経系の値は55%も高くなっていました。

自然や、植物との関係性の途絶と不調和は、人の心や情緒、健康にどれだけ大変な影響を与えるかということを示しているようでもあります。


原初の自分を取り戻す

私は不登校や、ひきこもりの状態にあるお子さんと、そのご家族をトレッキングにお連れするという活動を行なっていました。

日頃、部屋の中に閉じこもってばかりいるお子さん、日々、不登校や引きこもりの問題に頭を悩ませ、否定的観念にとらわれてしまいがちなご両親の不安げな顔が、山の奥へ奥へと進んでいくごとに穏やで、優しい表情に変化していくのを何度も見ています。

登山道にたくましく咲き誇る草花に触れ、鳥のさえずりに耳を澄まし、私たちより遥かに長い時間を生きている樹々を見上げて、深い森の懐に抱かれているうちに、人は社会的な役割や、有形無形に背負わされたものから解き放たれ、原初の自分に立ち返るのでしょう。

自然や、植物は私たちを非常にピュアな魂に引き戻してくれる存在です。

そうした存在を心から慈しみ、育み、そして語らい、恵みを分けていただく。それが人間にとってとても自然で、普通の生き方なのかもしれません。

ハーブ療法、アロマセラピー、バッチフラワーレメディ、森林療法、フィトケミカルなど、自然や植物が私たちにもたらしてくれる愛ある恩恵を利用したセラピーが他にもたくさんあります。

皆さんも、ご自宅にある植物に「愛」を持って語りかけてみてはいかがでしょうか。きっと植物には通じていて、植物も私達を愛してくれているに違いありません。

そして、是非自然豊かな森を求めて、お散歩してみてはいかがでしょうか。

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