引いてみて初めてその祭りのすごさを知る
子どもの頃の思い出
青森市出身のわたしにとってねぶた祭りは、自宅から歩いて観にいけるほどの距離の近さもあり、子どもの頃からとても身近なものでした。
日本屈指の夏祭りとして有名なねぶた祭りですが、子どもの頃のわたしにとっては近所で毎年やっているお祭りという認識でしかなく、当然、全国各地で同じような規模のお祭りが行われているのだと思っていました。ねぶた祭りがあまりに身近すぎて、その規模感が常識になってしまっていたのです。
子どもながらに、大人たちの空気が祭りが近づくにつれてそわそわしているのは感じていました。小学校では毎年「ねぶた集会」というイベントがあったし、学校の体育では「ねぶた音頭」を習いました。「金魚ねぶた」という金魚のかたちのねぶたを工作したこともありました。夏休みの宿題に、ねぶたの絵を描く友達もたくさんいました。
近くの公園から聞こえてくる、ねぶた囃子の練習。市内各地の神社で行われる宵宮。ねぶた祭りに向けて日に日に暑くなっていく夏休み…。小学校も、町会も、街も、どんどんねぶた一色になっていきます。
そして、待ちに待ったねぶた祭り。ねぶたが始まると早く帰ってくる父。母は飲み物を冷やして、おにぎりを握ってくれました。わたしと妹は浴衣を着せてもらって、ねぶた囃子が聞こえてくる方へと、落ちている鈴がないか探しながら歩いたものでした。
今のねぶた祭りは芸術品
子どものときに観ていたねぶたは、今よりも大きかったし、今よりも怖かった気がします。たぶんサイズは変わっていないはずなので、わたしが大きくなったからそう思うのかもしれません。
ねぶたの山車は、今よりももっと激しく回っていた気がするし、もっと観客に極限まで近づいて子どもを怖がらせたりすることもあったように思います。サービス精神旺盛なハネトが老若男女たくさんいたし、柄の悪いお兄さんお姉さんもたくさんいたけれど、心から祭りを楽しんでいる大人たちがとてもうらやましかったのを覚えています。
最近のねぶたは、とても色が美しくて、年々複雑な立体となって人々の目を楽しませてくれています。伝統的な荒々しさよりも、芸術品というのがふさわしいような華やかなねぶたがずらりと並び、美しさに惚れ惚れする一方で、熱気や狂喜乱舞のような、ちょっと狂ったほどの激しさはなく、落ち着いているような印象です。
昔と今を比べるつもりはなくて、わたしが思うのは、青森市のそこに住む人々の毎年の楽しみであった青森ねぶたが、全国や世界のものになったのだな、という感覚です。
わたしにとって「毎年楽しみにしている近所のお祭り」だったねぶた祭りは、ここ10年ほどでますます観光化し、いまや日本を代表するお祭りです。
いやいや、もっとずっと前から日本を代表するお祭りだったよ、という方もいるかもしれませんが、ここ20年のわたしの感覚ですら、観光っぽくなったな~と思うのです。
地域の人たちがはしゃぎ、楽しむための祭りから、長い年月をかけて、地域の人たちがおもてなしする側に回り、観光客に魅せるお祭りになったのかな、と思います。
ねぶた祭りは、誰のための祭りか
ねぶた祭りは、ねぶた師さんがねぶたを作ってくれなければ成り立たないし、ねぶた師さんに制作を依頼してくれる企業がいなければ成り立ちません。毎日仕事の合間に囃子を練習して祭り本番に備える囃子方さんたちや、ねぶた祭りを安全に運行するために警備をしてくれる方々もいます。ハネトの衣装を着付けしてくれるおばちゃんたち、観光客が食べものや飲み物に困らないように屋台を出してくれるお店の人たち…。
こういう人たちは、みんな地元・青森の人たちです。
ねぶた祭りに向けてたくさんの方々が準備しているからこそ、ねぶた祭りは毎年開催できて、発展し続けてきたんだな、と思います。
だからこそ。
わたしたちが誇る祭りを、まず青森市民が楽しもう!!
みんな、本気で夏を楽しんでる?
と思うのです。
長く続いてきた伝統ある夏祭り。途絶えさせることなく続けていくこと、楽しんでもらうためのおもてなしはもちろん大切だけれど、やっぱり青森市民が楽しみにしている、ちょっとザワザワしたその雰囲気が特別だなと思います。
青森に来てくれた観光客のみなさんに、もちろん満足して帰ってもらいたい。「青森のねぶた祭り、すごい祭りだったわ~」と母国に帰って自慢してほしいです。
それと同時に、青森市民のみなさんが、もっともっと祭りを楽しみにして欲しいと思うし、青森に生まれて、こんなでかいお祭りがあっていいだろー!と自慢してほしいです。
この自慢は、ねぶたが成り立つために行動したすべての青森市民を自慢しているのと同じことだと思うのです。
ねぶた祭りは、地元の人たちだけのものではないし、観光客だけのものでもない。その場に居合わせたすべての人たちの営みによってつくられる雰囲気こそが、ねぶた祭りの一番の魅力だなと思います。
8月7日まで、青森ねぶた祭りは続きます。わたしが子どもの頃、本気で跳ね、はしゃぎまわって祭りに参加していた大人たちがうらやましかったように、地元の人たちも、観光客も、より一層心から楽しめるお祭りであってほしいなと思うのでした。
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