キャリアブレイク中に行った「実験」で、患者やクライアントの幸せや感性を記録していきたいと気づいた
最近、「キャリアブレイク」をよく耳にしませんか?
読者の中には、ご自身がキャリアブレイク実践中や経験者の方もいるかもしれません。
キャリアブレイクとは、一時的に雇用などから離れる離職、休職、休学など、キャリアの中にあるブレイク期間のことを指します。この目的は、旅、留学、自主的な挑戦、勉強やトレーニング、休養、療養、出産、子育て、家族のケアなど人によってさまざま。
今年1月24日に日本初のキャリアブレイク本「仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢 次決めずに辞めてもうまくいく人生戦略」(北野貴大・著)が発売されたことでも話題ですが、休むことに不安を抱く人もいるのではないでしょうか。
そこで今回、キャリアブレイクを実践し、ちはるさんにキャリアブレイク中の過ごし方やその期間に起きた出来事・変化についてお話を伺いました。
ちはるさんは、この期間に「新しい働き方LAB第3期研究員」として新しい働き方を実験し、見事「新しい働き方アワード2024~生き方も働き方も、ひとつじゃない~」にて「新しい働き方アワード大賞2024」を受賞されました。
この記事を通して、仕事に悩みや迷いを感じる方へ、何かヒントになれば幸いです。
叔母の影響で学生時代から目指していた看護師
Q1 ちはるさんのご経歴を教えてください。
大学を卒業後、看護師として総合病院に3年間勤めました。退職後は、キャリアブレイクの道を選び、その期間に「新しい働き方LAB*第3期研究員」として過ごしてきました。
Q2 看護師を目指したきっかけは何ですか?
私には看護師の叔母がいます。学生の頃から、その叔母に「看護師はいい仕事だよ」と言われ続けており、その影響が大きいです。叔母の姿や話から、看護師はどの時代になってもどこでも求められ、仕事に困らない職業だと感じてきました。
私は、そういった経緯から看護師を目指し、奨学金を得て大学に進学しました。
やるなら今だと「新しい働き方LAB第3期研究員」に応募
Q3 受賞された「新しい働き方アワード2024」とは何ですか?
「新しい働き方アワード」は、仕事を依頼したい企業と仕事を受注したいフリーランスをつなぐマッチングサイト「Lancers」の運営会社・ランサーズ株式会社(以下、ランサーズ)によって発足された、全国共創コミュニティ「新しい働き方LAB」によるイベントの1つです。
新しい働き方LABには、「今の自分の働き方からステップアップしたい」「さらにスキルアップしたい」などといった考えを持つ働き方のパイオニアが集まり、新しい働き方の実験や仲間たちとのつながり・交流を通して、一緒に前進していくコミュニティ「新しい働き方LAB研究員制度」があります。
この制度で半年間の実証実験を行った研究員たちの研究結果発表と表彰式イベントが年に1回、開催されます。総勢約300人の研究員の中から、「目新しさ」「社会的インパクトの大きさ」などの選出基準で評価の高かった研究員が表彰されます。
Q4 「新しい働き方LAB第3期研究員」に応募されたきっかけを教えてください。
それまで私は、看護師として勤めていました。あるとき、キャリアブレイク中の友人から「この記事いいよ」と勧められました。それは、キャリアブレイクを提唱している北野貴大さんの記事。それを読んで「病院のなかで患者さんの病や命と向き合う閉鎖的な環境から一度抜け出して、キャリアブレイクしよう」と思い、気づけば上司である師長に退職の旨を伝えていました。
また、以前宮城県石巻市を旅行した際に、新しい働き方LABの研究員として実験中の方と出会ったことがあります。そのときに「こんな人生の選択肢もあるのか」と衝撃を受けたことを思い出し、「やるなら今だ」と第3期の募集にエントリーしました。
Q5 新しい働き方LABの研究員としてどんな実験をされていましたか?
新しい働き方LABの実験プロジェクトには、自分のやりたい実験を自由に企画できる「自主企画」と、企業が設定したお題に参画する「指定企画」の2種類があります。
私は、株式会社LIFULLの指定企画「LivingAnywhere Discovery 〜旅先での出会いによって、働き方はどう変わるのか?〜」に参画しました。
LIFULL社の新規事業であるLiving Anywhere Commons(以下、LAC)は「好きな時に、好きな場所で働き、暮らすコミュニティ型多拠点コリビング」として、全国に約50(2023年4月時点)のオリジナル/パートナー拠点を構えています。
私は、2023年6月から12月の6カ月間、そのLACを拠点に埼玉、千葉、静岡、福島、沖縄などを旅し、そこで出会う人との関わりによって自分自身の働き方がどう変化するかを実験しました。
LACで出会った旅人をインタビューしてSNSで発信すると、1人につき2泊の宿泊費を実質無償で提供していただけるルール。私は、旅先で25人以上に新しい働き方や人生を聞き、半年間使える60泊の無償宿泊券をいただきました。
実験のアウトプットとしてXやnoteを使って、検証結果や出会った人のインタビュー記事を発信していました。
👇発信していた記事の一例
下田での旅を機に、自分の表現方法が見えた
Q6 研究中の印象的なエピソードを教えてください。
9月、静岡県下田市での出来事が印象的です。
その頃、私は研究を開始して3ヶ月が経ち、「誰かと出会って話さなきゃ」というしんどさを感じ始めていました。
下田に着くと、伊豆急下田駅近くにある巨大空き倉庫"with a tree"について紹介された紙が目に留まりました。そこで、翌日ふらっとその倉庫を訪ねることに。
出迎えてくれたのはこの倉庫に暮らし、下田のまちづくりを行う根岸泰之さん。このとき初めて出会った根岸さんとビールを飲みながら、私の活動や今感じているしんどさを吐き出すと「やりたいことやりな」「好きなままで大丈夫」とポンと背中を押してくれたんです。
それらの言葉で心がほぐれ、やりたいことが沸々と湧き上がりました。そこで、このときの出来事や感情を忘れないために、グラフィックレコーディング(以下、グラレコ)の手法でメモに残しました。
すると、根岸さんに喜んでいただき、周りの方からも「グラレコやってほしい」と言われたり、「イベントバナーを作ってみないか」と誘われたりするように。
今振り返ると、ここでの生活や人との出会いが私に生きやすさを教えてくれたと感じています。
ちなみに、話を深めていくうちに、実は根岸さんはランサーズの元CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)として創業初期からランサーズを支えてきた方だと知り、驚きました!現在はランサーズのCEvO(Chief Evangelist Officer:スマート経営推進責任者)を務め、新しい働き方、新しい組織の育て方、新しい事業の作り方を全国に普及させるなど、新しい働き方LABにも携わっています。
Q7 それを機に、ちはるさんの旅はどうなりましたか?
インタビュー内容のアウトプット方法を文章からグラレコに変えました。
そうして、旅先で出会う人たちの人生の話を「人生グラレコ」として記録し始めました。
人生グラレコを描くことで、お相手は「久しぶりに人生を振り返れた」「自分の人生軸が明確になった」「新しい自分の一面を知れた」と喜んでもらい、その周りの方々も「この人にはそんなことがあったんだ」「この人に共感できる」などと人生グラレコをきっかけに新たな一面の発見や話の広がりが見られました。
旅での出来事で看護師の魅力を再認識できた
Q8 人生グラレコを始めたことで、働き方に対する考えに変化はありましたか?
人生グラレコによって「人生をねぎらうこと」の大切さに気づきました。そして、それができるのが私の前職である看護師であり、その魅力を再認識しました。
看護師として復職する場合は、前職の病棟看護ではなく、生活に身近な訪問看護やデイサービスも良いなと考えています。また、イラストレーターなど1から新しいキャリアを歩むのも視野に入れています。
Q9 今後、人生グラレコのサービスをどのように広げていきたいですか?
実験後の成果報告会で、人生グラレコとの出会いやそれに行き着いた経緯などをお話すると、その場にいた方から「Three Good Things」を教えてもらいました。
「Three Good Things」とは、ポジティブ心理学の創設者・セリグマン教授が提唱し、長年の実験で効果が実証されているメソッド。今日あったよかったことをただ3つ記録するだけで考え方が前向きになったり、メンタルの安定効果をもたらすといわれています。
「看護師に復職したら患者さんにこのメソッドを使って、その日その瞬間に感じ取ったことをコツコツと残すお手伝いがしたい。そうすれば、いつか意思疎通ができなくなってしまっても、その人の幸せや感性を周りの人たちに伝えられるのではないか」と考えています。
また、患者さんに限らず、「日常に転がる小さな幸せを残したい」「年末や人生の節目に振り返りをしたい」などといった方々に対して、それにまつわる写真を背景にグラレコするサービスを「いいこと屋さん」として展開したいです。
その準備段階として、昨年末、モニターを募集して作品を手掛けました!
「キャリアブレイク」という人生の選択肢を知ってもらいたい
Q10 人生や仕事に悩みを抱えている人へ、メッセージをお願いします!
私はキャリアブレイクしたおかげで、たくさんの気づきや発見を得られ、自分自身と向き合うことができました。キャリアブレイクは私にとって大正解の決断だったと感じています。
立ち止まることは悪いことではない。生き急ぐ必要もない。迷いが生じたとき、人生にキャリアブレイクという選択を考えてみませんか?もしかしたらその選択がその後の人生によい影響をもたらすかもしれません。
【編集後記】ふと蘇った10年前の記憶
ちはるさんからキャリアブレイク中のお話を伺って、ふと「ギャップイヤー」を思い出しました。これを教えてくれたのは、スウェーデン留学時代に出会ったスウェーデンの友人たち。2014年のことです。
多くのスウェーデン人は、高校卒業後、進学するまでにギャップイヤーを設ける人が多いと教えられました。その期間、彼らは世界を旅したり、目的もなくただ過ごしたりして自分の好きや興味を探求するといいます。
その文化や価値観に出会ったときの感動は、10年経った今でも忘れられません。
一旦離れてみて「看護師」の素晴らしさに気づき、多くの経験によって、身も心もパワーアップしたちはるさん。どんな選択をしても、目の前の人に寄り添い、その人たちの話に耳を傾けながら小さな幸せを拾っていく姿が目に浮かびました。
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