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グランドピアノが売れた話

ごきげんママ♡一家は転勤族。中1だった子を赴任先に連れて行くためにグランドピアノを買う約束をしてしまいました。せっかく中学校に慣れたばかりなのに言葉もわからないアメリカに引っ越すのを嫌がったからです。小学生の時は人並みにピアノを習っていましたがそこまで好きだとは母として気づいていませんでした。

何とか渡米して学校に転入してスクールバスでミドルスクールに通い始めました。いよいよピアノを探さなくては。帰国する人で売りたい人をまず探しましたがそうタイミングよくいくわけではありません。やむなくお店に行きました。新品、中古、グランド、アップライトさまざま並んでいます。子どもが選んだのは小ぶりですが新品のグランドピアノでした。

スペースの狭い日本のマンションには置けない、今しか経験できない贅沢です。数年後帰国時には60%で買い取るとお店の人が言うのでごきげんパパ♡は清水の舞台から飛び降りました。

学校で言葉もまだわからない、苦しい時間を救ってくれてのは紛れもなくピアノでした。音楽やスポーツは国境を超えるんだ!こんなにピアノが好きだったのか。つくづくありがたく見守っていました。とても良い日本人の先生に巡り合うとどんどん弾けるようになり、一年後には州の大会で幸運にも金賞を取るまでにも伸びました。

今日書きたかったのはそのピアノの処分についてです。バラ色の?月日は流れ、日本に帰ることが決まりました(巻きすぎ?)。ピアノを売らないと帰れません。お店に連絡してもごきげんママ♡の英語力でははぐらかされてしまいました。ピアノの先生にもご協力いただきましたがほかの生徒さんとは値段が折り合いません。日本語学校でも聞いたり、日本食料品店の掲示板にも貼り出したりしましたが無為に時間が過ぎ去っていきました。グランドピアノなんてニーズがあまりないんだなあ、叩き売り?と焦ってきます。

家の周りはアメリカ人半分アジア人半分くらい。お隣は韓国人お向かいはアメリカ人のおばあさん、そのお隣は中国人さらにその向こうはインド人という具合です。日本人のコミュニティだけでは買い手が見つかりそうにないので中国人の若いお母さんに思い切って声をかけることにしました。小さな坊やがふたりいるので、お友達でピアノを習い始めたい人がいればきいてみてくれない?って。全く期待せずに言っておいたのです。いくらくらいを考えてるの?と聞いてくれたので希望額を伝えてピアノの写真を渡しました。

それから数日後、出先から帰ってくると玄関にその家のご主人が立っているのです。初めてのことで、何があったのか、もしかしてピアノのこと?とドキドキしたのを思い出します。

「ピアノ、まだある?」

「あります!」

「よかった、買いたいんだけど」

え、ほんと?神のお告げのようでした。

「毎日夕方息子を遊ばせるのに外に出てきて、お嬢さんのピアノが聞こえてくるのが楽しみだったんだ。そのピアノを僕に売ってもらえるかな」

とまで言ってくれて、ジーンズのポケットからこちらの言い値を現金(=ドルの札束)で出してくるではありませんか。それまで心の負担になっていた大切なピアノが売れた!しかも満額で!

「運搬費用も負担するから。習ってた先生の連絡先聞いていい?」

もちろんです!

引越し間際まで娘が練習させてもらってピアノは引き取られて行きました。あの町で過ごした三年間の中でも忘れられない思い出です。

娘は音楽の道には進みませんでしたが年末にピアノの先生にクリスマスカードをお出しすると嬉しい返事が返ってきました。お向かいの坊やが楽しくレッスンに通っているということです。

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