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植物の持つ能力の高さ~『面白くて眠れなくなる植物学』(稲垣栄洋)~

アマゾンのPrime Readingを利用して読んだ、4冊目にあたります。初めてPrime Readingで読んだ『世界史を大きく動かした植物』が、なかなか面白かったので、同じ著者のものを読んでみたわけです。

↑kindle版


『世界史を大きく動かした植物』同様、へーと思うことが多く書かれており、なかなか面白かったです。一点だけ謎だったのは、主な読者の層をどこに設定しているのかということ。小学生くらいの子ども向けに語りかけている部分もあるかと思いきや、サラリーマンが読むことを想定していると思われる部分もあったりして。まぁ、面白かったから良いのですが。
以下、印象に残ったところを備忘録代わりにまとめておきます。なお、ページ数はkindle版のものです。


ゲーテは文豪であると同時に、偉大な自然科学者でもありました。そして、ゲーテはこんな言葉を残します。
「花は葉の変形したものである」。これが、一七九〇年にゲーテが記した『植物変態論』です。

p.4

ゲーテの主張は170年経って、分子生物学によって証明されたそうです。


気孔から、植物体内の水分が水蒸気となって外へ出ていくのです。これが蒸散です。
植物の体内では気孔から、根までの水の流れはずっとつながっていて、一本の水柱になっています。そのため、蒸散によって水が失われると、それだけ水が引き上げられます。ちょうどストローを吸うと水が吸い上げられるのと同じです。
この蒸散の力で引き上げられる水の高さは、一三〇~一四〇メートルと計算されています。(中略)
現存する世界一高い木はアメリカのカリフォルニア州にあるセコイアメスギで高さ一一五メートルにもなると言います。これは二五階建てのビルの高さと同じくらいです。

p.12~13

蒸散の力、すごいです。


唱歌『ちょうちょう』を聞くと、チョウが菜の花畑で花から花へと飛ぶようすを思い浮かべるかも知れません。しかし、この歌には「菜の花」は登場しません。歌われているのは、「菜の葉」なのです。

p.31

確かに「菜の葉にとまれ」ですよね。作詞者の野村秋足の観察力の高さにびっくり。


被子植物の進化に合わせて適応したトリケラトプス。しかし、ついには被子植物の進化のスピードについていけなかったことが指摘されています。
被子植物は世代交代をしながら、さまざまな進化を遂げていきました。そして、食害を防ぐためにアルカロイドという毒成分を身につけたのです。トリケラトプスなどの恐竜はそれらの物質を消化できずに中毒死を起こしたのではないかと推察されています。
実際に、白亜紀末期の恐竜の化石を見ると、器官が異常に肥大したり、卵の殻が薄くなるなど、中毒を思わせるような深刻な生理障害が見られるそうです。(中略)
恐竜絶滅の直接的なきっかけは小惑星の衝突だったとされています。しかし、それ以前から、被子植物の進化によって、恐竜たちは衰退の道を歩んでいったのです。

p.41

なるほど。植物が動物に勝ったわけですね。


似ても似つかないように見えるリンゴとイチゴは、同じ仲間の植物です。意外に思うかもしれませんが、リンゴとイチゴはバラ科の植物です。
バラ科は植物の中でも進化の進んだ植物の一つであると言われています。何を隠そう、果実を食べさせて種子を散布するというアイデアを最初に実現した植物の一つがバラ科の植物だとされているのです。

p.46

リンゴの実は、花の付け根の花托と呼ばれる部分が、種を守る子房を包み込むように肥大してできた擬果、イチゴはつぶつぶが本当は「実」で、実だと思っている部分は、リンゴ同様に花托だそうです。


雑草は踏まれたら立ち上がらないのです。(中略)
植物にとって一番大切なことは、花を咲かせて、種子を残すことです。そうだとすれば、踏まれても立ち上がるという余計なことにエネルギーを使うよりも、踏まれながら花を咲かせて種子を残すことの方が、大切です。

p.49

この雑草の合理性、何となく哲学的です。


タンポポの見分け方
:西洋タンポポは花の下の総苞片が反り返っていて、日本タンポポは総苞片が密着している。西洋タンポポは一年中花を咲かせ、他の植物が生えないような都会の道ばたで花を咲かせて、分布を広げている。日本タンポポは群生して咲き、春にしか咲かない。夏は他の植物との戦いを避け、根だけになって地面の下でやり過ごす。(p.50~52のまとめ)

西洋タンポポと日本タンポポと、どちらが強いということはありません。どちらも自分の得意な場所を生息地にしています。このような生息場所のことを「ニッチ(生態的地位)」と言います。

p.52

ようやくタンポポの見分け方が、はっきり分かりました。


60ページ以降の、木の葉を生産工場に例えた説明が、すごく分かりやすかったです。

季節は冬へと向かっていきます。
生産量が低下していた葉っぱの生産工場は、ついてに赤字に転落します。(中略)
出向していた幹部社員が本社に戻り、資産価値のある備品が本社に引き取られるように、葉っぱにあっためぼしいタンパク質はアミノ酸に分解されて、本体である木の幹に回収されていきます。どうやら工場閉鎖が近いようです。

p.60

植物にとって、アントシアニンは、水不足や寒冷な気温によるストレスを軽減させる物質です。本社から見捨てられながら、水不足の中で、低温の中で糖分を作る小さな生産工場は、必死に生き残りを図ろうとしているのかも知れません。(中略)
光合成を続けていた葉の中の葉緑素は、やがて低温によって壊れていきます。そして緑色の葉緑素が失われていくと、葉に貯まっていたアントシアニンの赤い色素が目立ってくるのです。
紅葉は昼夜の温度差が大きいと美しいと言われます。(中略)
夏の間、働きに働き、稼いだ末のリストラ。葉の生産工場の無念が強ければ強いほど、紅葉はその色を濃くするのです。

p.61~62

ここで「リストラ」と言っているのは、落葉樹が葉を切り捨てるために、「葉の付け根に『離層』という水分や栄養分を通さない層を作」ることを刺指します。 この秋の紅葉は、涙なくして見られないかもしれません。


カフェインは、アルカロイドという毒性物質の一種で、もともとは植物が昆虫や動物の食害を防ぐための忌避物質です。
しかし、弱い毒は、人間の身体では薬として働きます。

p.69

トリケラトプスも勝てなかったアルカロイド!

トウガラシの辛み成分であるカプサイシンや、ラン科植物であるバニラの実に含まれるバニリンも、人間を魅了する植物の毒性物質です。また、ハーブティや香辛料、薬草などに含まれる成分の多くは、もともとは植物にとっては身を守るための毒性成分です。

p.70


「落葉樹」は、冬越しに適した新しいシステムです。
一方、落葉することなく、寒い冬の間も葉をつけている「常緑樹」は古いタイプの植物です。しかし、人々は常緑樹に神々しい生命力を感じました。

p.72

リストラという新たな手段に訴えず、葉からの水分の蒸発を防ぐ工夫を身につけた常緑樹さん、好感が持てます。葉を補足して針葉樹になったり、葉の表面をワックスの層で覆う常緑広葉樹になったりしたわけです。しかも針葉樹は、被子植物より古い裸子植物で、凍結に強かったことが幸いし、落葉広葉樹よりも寒い地でも生きられるようになったわけで、老舗の底力を感じます。


野生の植物は、どんなに条件が整っても一斉には芽を出しません。休眠からの覚醒程度は、種子によってさまざまで目を出したり出さなかったりするのです。(中略)
こうして、土の中には芽を出さずに休眠をしている種子がたくさんあります。このような土の中の趣旨の集団は「シードバンク」と呼ばれます。

p.79

ふむふむ。

雑草の種子の多くは光が当たると芽を出す「光発芽性」という性質を持っています。
土の中に光が当たったということは、草取りなどが行われてまわりの植物がなくなったことを意味します。そこで土の中の雑草の種子は今がチャンスとばかりに芽を出すのです。
きれいに草取りをすると、あっという間に雑草が芽を出してきて、かえって雑草が増えてしまうことがあるのは、このためなのです。

p.80

そうだったのか!


かつてアメリカでは、トマトが野菜か果物かという論争で裁判まで行われたほどです。裁判の判決では、「トマトは種子を含む食武具の一部という植物学事典から植物学的には果物だが、野菜畑で育てられ、他の野菜と同じようにスープに入っているから法的に野菜である」とされたそうです。

p.81

『世界史を大きく動かした植物』には、ヨーロッパでジャガイモが裁判にかけられた話が載っていましたが、裁判をしている本人たちは真剣でも、端から見ると滑稽です。


メロンやスイカは草本性の植物なので、野菜です。(中略)ただし、メロンやスイカは果物売り場で扱われますので、「果実的野菜」と言われることもあります。

p.81

果実的野菜って……。これはこれで、滑稽かも。


「木」と「草」も、植物の世界に明確な区別があるわけではなく、人間が都合よく考え出した区別に過ぎないのです。(中略)
植物にとって、木か草かは大きな問題ではありません。その環境に適応するように進化を遂げただけのことです。
植物の生き方は、人間が考えているよりも、ずっと臨機応変で、自由なのです。

p.83

拍子抜けの結論であると同時に、これも何だか哲学的です。


ダイコンとニンジンのイラストを描くことができますか?
色を塗らないと、ダイコンとニンジンはよく似ています。
(中略)横線を書くと、ニンジンらしくなります。(中略)
線ではなく、点々を縦に並べて書くとダイコンに見えます。

p.84

ほほう。ただしこの後出てくる理由により、点々は上の方まで全部書いてはいけません。


オリンピックの陸上選手や水泳選手が、余計なぜい肉をそぎ落とし、最軽量のユニフォームで、体毛までそり落としてしまうように、スピードを重視するために、余計なものをなくしてしまったのが、単子葉植物なのです。

p.92

双子葉植物より単子葉植物の方が、進化した植物であることの説明です。


平安時代頃には、「大根足」は美脚を意味するほめ言葉でした。当時のダイコンは、現在のように太いものではなかったので、大根足は、細くて色の白い足を表していたのです。さらに時代をさかのぼった古事記では、「大根のような白い腕」という表現が出てきます。ダイコンはもっと細かったのかも知れません。
ところが、その後ダイコンの改良が進み、大きく太るダイコンが作られるようになりました。大根足が、現在のように太い足を指す言葉になったのは、江戸時代以降であると言われています。

p.92

時代が変わると、意味するものも変わるのですね。


人間の好みによって淘汰されていくことを「人為淘汰」と呼んでいるのです。

p.95


植物はこの光合成を行うことができるので動く必要がないのです。また、植物は土の中の栄養分を吸収して、生きる上で必要なすべての物質を作ることができます。そのため植物は「独立栄養生物」と呼ばれています。
一方、動物は自分で栄養を作りだすことができません。植物を食べたり、あるいは植物を食べた他の生物を餌にしなければ生きていくことができないのです。そのため、動物は「従属栄養生物」と呼ばれているのです。

p.96


人間は四六本の染色体を持っています。この染色体は、二本で一対になっています。つまり二三対の染色体に生きるための基本的な情報がすべて含まれています。この基本的な染色体のまとまりを「ゲノム」と言います。ゲノムは「遺伝子」(gene)と「すべて」(-ome)を意味する言葉を組み合わせて造られた造語です。

p.118

このあたり、いつも混乱するので書いておきますが、また忘れそうです。


人間は赤い色を見ると副交感神経が刺激されて、食欲が湧いてしまうのです。

p.129

哺乳動物の中で、唯一、赤色を識別する能力を回復した動物がいます。それが人間の祖先であるサルの仲間なのです。
果実を餌にするために、熟した果実の色を認識することができるようになったのか、あるいは、赤色が見ることができるようになったから、果実を餌にするようになったのかはわかりませんが、こうして私たちの祖先は熟した果実の色を認識して、果実を餌にするようになったのです。

p.133


野生のムギは、子孫を残すために、種子をばらまきます。しかし、栽培されているムギは種子が落ちると収穫することができないのです。
種子が落ちる性質を「脱粒性」と言います。野生の植物はすべて脱粒性があります。(中略)
種子が熟しても地面に落ちないと自然界では子孫を残すことができません。そのため、種子が落ちない性質は、致命的な欠陥です。
ところが、人類にとっては、ものすごく価値のある性質です。種子がそのまま残っていれば、収穫して食糧にすることができます。(中略)
種子の落ちない「非脱粒性」の突然変異の発見。これこそが、人類の農業の始まりです。

p.137~138

栽培植物と人類のウィンウィンな関係ですね。


ダイコンをよく見ると、下のほうには細かいひげ根がついていたり、根のついていた痕跡の穴があります。この下の部分は根が太ってできたものです。
ところが、ダイコンの上の方は、根の痕跡がなく、つるんとしています。じつは、この上の部分は根ではなく、胚軸が太ってできているのです。

p.147

ダイコンの上の部分と下の部分で、そもそも部位が違うから、味が違うわけですね。加えて、ダイコンの絵を描く時は、上の方まで全部点々を書いてはいけないというのが分かりました。


昔は種なしスイカというものがありました。

p.151

この記述に「今はないの!?」と驚いたのですが、調べたら、少なくとも家庭菜園用の種は売っています。でも店頭では最近、種なしスイカって見た記憶がないかもしれない。
でもゲノムが3つの三倍体だから種子を作れないからこそ、その分の栄養分を実に回すことができるし(ネットでも種なしの方が甘いという記述が見つかりました)、そもそも種がない方が食べやすいのに、なぜ種なしの方が主流じゃないのかなぁ。人間に都合の良い性質を持ったF1品種の作物ばやりの昨今なのに。病気に弱いなどの弱点があるのでしょうか。


ネコジャラシ(エノコログサ)やトウモロコシ、サボテンの持つ光合成能力の高さにも、びっくりしました。


面白かったので、稲垣さんの本を、更に読みたくなりました。


見出し画像は、菜の花畑です。


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