【読書】お仕事百景~『おつとめ<仕事>時代小説傑作選』(細谷正充編)~
「仕事」をキーワードにした時代小説のアンソロジーです。
・「ひのえうまの女」(永井紗耶子)
主人公の利久(りく)は丙午の日の生まれなため(ということにされている)、気が強く、それが災いして縁談が破談になり、大奥に行くことになります。まぁ破談になって良かったような縁談ですが。
大奥を描いた時代劇や時代小説にあまり触れてこなかったので、これらのことは初耳でした。ちなみに「汚れた方」というのは、御手付き中臈のこと。
これも初耳でしたが、祐筆は代書の仕事もしていたということですね。現代の代書屋を主人公にしたのが、『ツバキ文具店』です。
利久は最初は出世を目指し、ガツガツしていたものの、仕事がうまくいかない上、周囲にも眉を顰められます。しかし出世のことを忘れ、務めに励むことで、かえって良くなっていくのですが、現代にも通じる話だなと思いました。
・「道中記詐欺にご用心」(桑原水菜)
このアンソロジーを読もうと思ったきっかけが、この作品です。水菜さんの『箱根たんでむ駕籠かきゼンワビ疾駆帖』に収録されている作品ですが、『箱根たんでむ』は1冊で終わってしまったのが惜しいくらい、面白かったんですよね。
↑kindle版
とはいえ「道中記詐欺にご用心」のことは、初見かと思うくらい覚えていませんでした(^-^;
漸吉のこのセリフは、かっこよく、かつ痛快です。どんな仕事にも通じますよね。
このセリフも良いです。
・「婿さま猫」(泉ゆたか)
個人的に、この作品に出てくる女性キャラクターが、ほぼ全員好きになれません。仙も美津も、何だかあざとい。泉ゆたかという作者名から、「男性作家が書いた女性キャラクターなんだな」と思ったのですが、「解説」によればこの本は「現役女性作家による、テーマ別時代小説アンソロジーのシリーズ」(p.340)の1冊なので、泉ゆたかさんも女性なのでしょう。ただ、以下の一節は良いです。
飼い猫を文字通り、猫っかわいがりしているくせに、意識がずれている飼い主を叱るセリフです。
・「色男」(中島要)
吉原の花魁である朝霧が主人公です。
ここまで金に縛られているとは知りませんでした。しかも、自分を買うって……。
吉原は1つの経済圏だったのですね。
切ない話です。
勘当って、役人に届けるものなんですね。
吉原関連の時代小説を集めたアンソロジーが、『吉原花魁』です。
・「ぼかしずり」(梶よう子)
最近、梶よう子の『広重ぶるう』が原作のドラマをNHKで観たばかりなので、興味深く読みました。
浮世絵の摺師が主人公ですが、伏線も上手に引かれており、面白かったです。主人公の弟弟子が、意に染まない仕事を任され、くさっていたところ、親方の真意を知ってはっとするところが良かったです。「手早くきれいに仕上げられるのは直しかいない」なんて言われたら、有頂天になりますよね。直接言ってくれれば、なお嬉しいけれど。
・「鬼は外」(宮部みゆき)
節分の豆まきを背景に、「鬼」として追われる者の悲哀を描いた作品です。宮部みゆきの作品は、数えるほどしか読んだことはありませんが、トリを飾るにふさわしい作品ですね。
なるほど。
江戸時代の馴染みのないお仕事について知ることができ、なかなか面白かったです。