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『マーベラス・ミセス・メイゼル』がいかにカオスか語りたい。

※この記事には下ネタも含まれます

ドラマや映画を見終えると、無意識にその作品に色を割り振っている。
泣けたら水色、キュンとしたらピンク、怖かったら黒…などなど、自動的に色カテゴリに分類される。
これまで私が見てきた作品は一色が多い。笑えるシーンや泣けるシーンが混在していても最終的には「これは感動系。」と、感情を四捨五入するから。

そんな経験をぶち壊し、すごい色づかいの作品に出会ってしまった。『マーベラス・ミセス・メイゼル』だ。
いつどのように語ろうか悩んでいたが、ついに書き始めた所である。

『マーベラス・ミセス・メイゼル』とは

Amazonプライムオリジナルの歴史ドラマで、現時点でシーズン4まで配信中。2023年に配信予定のシーズン5で完結すると公式に発表されている。
アカデミー賞やグラミー賞に並ぶ、テレビ番組で最高峰のエミー賞では五部門で受賞した。(第70回)

プライムビデオが始まる前に表示される左上の評価Gには『飲酒、喫煙、暴言、性的なコンテンツ』など殆ど網羅した注意書きが並んでいるが、見終えた後は心の中が何色にも彩られ、その色は原色や蛍光色のような強烈さがある。ラブシーンはどピンク、悲しいシーンは真っ青、笑えるシーンは真っ黄色、といった具合に。
鑑賞中の感情の振り幅がとにかく尋常でなく、上品と下品・笑いと絶望といった両極端なものが平然と混在している。

ストーリーも主人公の人生がガラガラと崩壊したところから始まる。とりあえず概要を聞いてほしい。

ざっくりあらすじ

主人公はレイチェル・ブロズナハンが演じるミリアム・メイゼル、通称ミッジ。
※早速余談だけどレイチェルさんは柴犬を飼っている。日本犬好きはみな友達である。

舞台は1950年代のニューヨークで、ミッジはユダヤ人の専業主婦。結婚して子供は2人。夫と順風満帆な結婚生活を送っていた。
ミッジの夫は仕事の傍らスタンドアップコメディに精を出し、時間ができると行きつけの店「ガスライト・カフェ」に出向きネタを披露した。ミッジは店の従業員に夫の出演時間の交渉をしたり、夫にネタのフィードバックをしたりと協力的。

しかし、ある晩夫がネタで大コケ。不貞腐れた夫はその流れで突然家を出て行くと言い出し、職場の秘書と不倫関係にあることまで打ち明けた。クズである。
ヤケになったミッジは酒を一気飲みし、ネグリジェにコートを着てベロベロなまま街に繰り出す。気づけば無意識のままガスライトに足が向かっていた。

酔ったミッジはいつも夫が立つステージに上がり、夫と不倫相手の悪口を言いまくり客席は大ウケ。しかし勢い余ってステージでおっぱいを露わにし、タイミングを見計らっていたかのように乗り込んできた警察にわいせつ罪で逮捕されてしまう。

と、もう序盤だけで結構カオスなんだが。
この後ミッジは釈放され、ガスライトのスタッフ スージーからプロのコメディアンを目指さないかと話を持ちかけられる。スージーがマネージャーとなり、2人は二人三脚でスタンドアップコメディの世界へと進む。というストーリー。

とにかくツッコミどころが多いので、どの切り口で書こうか悩んだのだが、
とりあえず今日は、思わず悲鳴をあげたくなるような共感性羞恥心をくすぐられるシーンを紹介していきたい。

下ネタ連発ステージを父親に見られた日

こうして文字にすると笑ってしまうが、思わず手で顔を覆ったワンシーン。
ミッジは毎年恒例の避暑旅行で、家族とキャッツキルに来ていた。不在になるにあたりマネージャーのスージーにも伝えてはいたものの、期間が2ヶ月にも渡ることを出発直前に知らせたためスージーは大激怒。
軌道に乗り始めていたコメディの仕事が途切れてしまっては困ると言い、なんとスージーはスタッフに紛れてミッジの旅行についてきてしまった。

結局、キャッツキルの近くで仕事を引き受けたスージーとミッジは夜に宿泊先を抜け出しレストランのステージに立つことに。
その晩、いつも通りミッジはセックスをネタに漫談をしていた。敢えてその時の台詞をそのまま紹介する。

キャッツキルであらゆる初体験をした
"簡単に股を開くな"と母に言われたのもここ"
"結婚するまでセックスは不可能"と
ママったらうそつきね
初キスもキャッツキルで
男の人に下半身の探検を許したのもここ
その時の相手は私の…

パパ?!
『マーベラス・ミセス・メイゼル』シーズン2 エピソード5より

パパ…?会場がザワついた。流石に相手がパパだったのではない。なんと、レストランの客の中に父親を発見したのだ。しかも、最前席。
父は色々ありキャッツキルでの居心地が悪く、たまたまそこへ来ていたのだった。ただ、家族に隠れてコメディをやっていたミッジを前々から様子がおかしいと分かっていたので、驚きというより「そういうことだったのか」という表情。
ミッジは調子が狂い早口にはなったが、なんとかその日のステージは大爆笑で終わった。
しかし、出番が終わり舞台袖に戻ると、激怒した父親の姿が…。

と、いうシーン。
父親の姿を見た時は、私まで雄叫びしそうになった。
ビックリした表情なら面白かったかもしれないが、完全にオコだったので全然笑えない。


翌日、父は汚いものを見るような目で娘を避けていたものの、コメディアンを辞めろ!とは言わなかった。しかも父はミッジに逮捕歴があることも知りながら敢えて追及してなかったことが判明。
後日、別のコメディアンを見て父はミッジにこう聞いた。

「お前もこのぐらい面白いのか?」

あの衝撃的な夜、父は娘が人前で下ネタを披露する姿にショックを受けつつもステージを最後まで見届けた。でも、お笑いに疎くミッジのネタが面白いかどうかが分からないと言う。
ミッジはこの問いに「面白い」と真剣に答えた。

「女性はこうあるべき」というような固定観念が多かった時代に、このような形で娘の意志を尊重する父はかなり寛大なのではないか?
カオスな状況にある真剣さや変人な父親の優しさ。このように、色々な物事にギャップがありコントラストがはっきりしている。

場違いの下ネタで友人と絶縁

先述のエピソードはアクシデントに近いが、残り2つはミッジが自爆したシーン。
“スベる”にはシンプルに面白くない時とTPO次第でウケたであろうものがあるが、ミッジは後者の方が多い。成功者は多くの場数・失敗を経験していると思い知らされる。

ある日、パートで働いていた職場の同僚 メアリーが結婚式と披露宴を挙げることになり、準備を自分で仕切っているという。ミッジは彼女を気遣って何か手伝わせてほしいと申し出て、一緒に披露宴会場を見に行った。

まるで“お仕置き部屋”のような暗い部屋を見たミッジは得意の話術で神父に交渉し、明るくて綺麗な会場に変更することに成功。彼女はたびたび口の巧さで得をしている。

挙式当日、一役買ったミッジも参列した。メアリーから「こんなに素敵な挙式ができたのはミッジのおかげ」と紹介をされたミッジは、話を振られたと思いつい即興で喋り始めてしまう。これぞ職業病。
自分の座席の上に土足で立ち上がった時点で嫌な予感はプンプンするが、ここから地獄絵図へ全速力でGO!!!!
下ネタで神父をイジり、出会って3ヶ月で結婚する新郎新婦については「デキ婚じゃあるまいし〜♪」とジョークを飛ばした。凍りつく両家の親族。
するとシーンが切り替わり、葬式のような雰囲気の中でミッジとメアリーの会話に。

「まさか本当に妊娠していたなんて…」

ミッジは下ネタで場を凍らせただけでなく、新婦が妊娠していると知らずにデキ婚であることをイジってしまったのだ。

ミッジの笑いは常にキワどい。テレビでタブーとされる政治ネタを織り交ぜたり、他人の悪口も言う。だからこそウケた時は大爆笑になるのだが、客層にハマらなかった時は地獄絵図になる。まさに紙一重な人。

この後メアリーに口を聞いてもらえなくなるのだが、仲直りするにはミッジが有名になるしかないだろうなと思った。
親族全員からドン引きされた事実は変わらない。スベったのがただの新婦友人でなく大物コメディアンならば、新郎新婦も苦い思いも昇華させられるかもしれない。

アーティストの前座で禁句発言

逮捕されてもヤジを飛ばされても、鉄のメンタルで乗り切ってきたミッジ。そんな彼女にも、ついに心折れる瞬間が訪れる。

数々の失敗を経験しながらも、とてつもない早さでスターへの階段を登って行ったミッジ。チャリティー番組に出演したのをきっかけに、シャイ・ボールドウィンという男性歌手の前座としてツアーを共に回ることに。

米軍慰問協会でのショーやラスベガス、アポロシアター…ミッジはシャイのおかげで多くの経験を積んだ。特にラスベガスは見ているだけでワクワクするような煌びやかな世界。
ミッジはシャイと良好な関係を築いていたが、彼はイライラして食べ物を投げ散らかしたりツアーに同行するバンドメンバーをクビにすることもあった。

ある晩、本番直前になっても姿を現さないシャイを、バンドメンバーたちは心配もせず捜さなかった。ミッジが一人で捜しに行くと、近くに止まっていた船の中で大怪我をしたシャイを発見する。ミッジは怪我の経緯を聞く中で、彼が同性愛者であると知る。ステージに穴を開けないため、シャイはミッジに怪我が目立たないようメイクをしてもらい舞台に立った。彼は誰にも話してこなかった秘密をミッジに打ち明け、この出来事もまた2人の絆を深めた。

もう「しかし」を言うのは嫌なのだが、ここで最大級の「しかし」である。ミッジはやらかしてしまった。

ツアーの最中、シャイの地元にあるアポロシアター公演でのこと。珍しく緊張していたミッジはシャイのマネージャーからアドバイスを受け、ツアーの裏話やシャイについて話すことにした。

そこでミッジはシャイがゲイであることを暗に示唆するようなネタを披露する。女子力が高い、華やかだという話を散々した後でシャイについて「ジュディ・ガーランドの靴を履き かかとを3回鳴らす」というジョークを言ったのだ。
ジュディ・ガーランドは実在の映画『オズの魔法使い』の主役の子役で、彼女が同性愛者だったことから「ジュディ・ガーランドの靴」は同性愛者であることの隠語として知られていたらしい。みんなが知ってる隠語を使うことはもはや明言に等しい。

観客は大盛り上がりだったが、シャイはこの前座を聞いて気分を害した。翌日飛行機でプラハに移動するためミッジとスージーは飛行場に向かったのだが、ミッジはその場でツアーメンバーから外され、2人は滑走路に置いてけぼりにされる。

さすがのミッジも、いつもの「クソッ‼︎」連発ではなく、その場で泣き崩れてしまった。一応この後、怒り狂ってタクシーの車内で服を脱ぎ捨て、下着姿で暴れるのだが。

これを機にミッジは自分の自由な芸風と場をわきまえることのジレンマに苛まれ、発言に制約の少ないステージにだけ立ちたがるようになる。
そんなミッジにスタンドアップの先輩であり恋仲でもあるレニー・ブルースが喝を入れ、再び立ち上がる気力がメラメラと湧いてきたところでシーズン4は終わりを迎えた。

このドラマには殺人や大爆発やアクションはない。コメディタッチのヒューマンドラマだ。
にも関わらず、見ているだけで色んな感情が揺さぶられる。

言葉遊びが好きな、ジョークで笑える人、洒落た映像が好きな人、泣きたい人、笑いたい人…
ありとあらゆる人が楽しめるはずなので強くお勧めするッッッ!

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