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禾希
2022年5月13日 01:30
喉の渇き。渇望。ひび割れた田圃が好きだった。そこに水がどんどん入って、ぐちゃぐちゃになるのを見るのが、踏むのが、(あ、きもちいい)、ってなるのが大好きだった。侵食。蝕むかの如く。風邪の前兆の悪寒がどうしようもなく好き。蝕まれるかの如く。全身の神経が剥き出しになって、ぜんぶぜんぶきもちいい。熱も、頭痛も、吐き気も、苦しいことがたまらなく好き。大好き。そう言って彼女は経口補水液を「うまいうまい
2020年4月24日 13:09
風化させないために、と。みんなが真面目な顔をして言った。独り歩きした正義感で埋め尽くされたタイムラインを上に素早く流す。つまらない、つまらない、つまらない。わたしは早く、忘れたいのに。「ハルちゃんおっつおっつ~」ウリウが煙草のにおいを撒き散らしながら私の対面に座った。根本の黒くなった痛々しいブリーチ毛、透明骨格標本のような腕。「ビール頼んどいたよ」「さすがすぎ」渋谷の地下で
2020年4月6日 20:46
全てのビルが、青く、透き通っていた。水族館のあの青だ。空から降り注ぐ光はビルの壁に当たって跳ね返り、より鋭く、刃のように私を目掛けてまっすぐに伸びた。静寂は、死だ。たった一人、私だけが体温を持つ。死に気付かれないよう、ひっそりと暗い息を吐く。誰にもぶつかることのない肩を震わせる。履き慣れたニューバランス998を手に持ち、つま先をピンと伸ばして、冷たい交差点へ降り立った。電車はまだ動いていな